日本創造学会で対話型鑑賞法の研究発表した経緯

11月13日、慶應義塾大学日吉キャンパスにて、「第44回日本創造学会研究大会」が開催され、代表の島が研究者として「ビジネスイノベーションのためのファシリテーターに依存しない対話型鑑賞法」と題して、研究発表を行いました。

対話型鑑賞(対話を活用したアート鑑賞手法)は美術館や学校での美術教育などで行われてきましたが、ニューヨーク近代美術館のフィリップ・ヤノウィンが開発したVisual Thinking Strategies(VTS)という手法は、全米の小中学校や2000年頃からは日本でも美術館教育などで普及し始めました。

特にここ数年の「アート思考」ブームもあって、東京近代美術館が「ビジネスセンスを鍛えるアート鑑賞ワークショップ」を開催して注目を集めたり、ベネッセコーポレーションの直島プロジェクト、が注目されるなど、美術鑑賞をビジネス教育等に活用しようという動きも盛んになりました。

しかしながら、実際に対話型鑑賞を行おうとすると、ファシリテーターがいる美術館へ足を運ぶ必要があるなどのハードルがあるのが現状です。そのためもあって、社会人向けセミナーや企業研修で、対話型鑑賞法をおこなうという動きはあまり見られません。

例えば社会人向け教育大手の日本能率協会や Udemyのサイトでも合わせて20万件以上在ると言われる講座のうち、「対話型鑑賞プログラム」は2件ずつ合計4件しかヒットしません。(そのうち2件は弊社主催のものです。)

 

対話型鑑賞(VTS)の「3つの質問」

 
 
社会人向け、ビジネスパースン向けにいまいち普及しない理由を調査すると、やはりファシリテーターの問題があります。
対話型鑑賞のファシリテーターは、美術鑑賞に関する知識とファシリテーションの能力の両方が必要になります。
ファシリテーターの養成機関としては、京都芸術大学アートコミュニケーションセンター(ACOP)が知られていますが、ACOPではその養成教育に300時間以上かけているそうです。

企業研修や社会人教育で対話型鑑賞を広く行うには、ファシリテーターの数が制約条件となっている現状があり、広がりに限りがあることから、企業研修担当者の耳に入りづらい。そうすると研修数も増えないため、ファシリテーターの数も増えない。という構造になっているのではと思います。

また、もともとの目的として、学校教育のため開発されたという経緯がありますので、これをビジネスパースン向けにそのまま適用してよいのか。

ビジネスパースン向けの講座や、企業研修でこの手法を行うには「なぜ対話型鑑賞法がビジネスの課題解決に有効なのか」が説明できる必要があります。(そうでないと研修予算がおりません。)

今回の研究発表では、本研究の目的は、ビジネスパースンを対象に開発した、ファシリテーターに依存しない、ビジネスイノベーションのための対話型鑑賞法(Visual Thinking Strategies for Innovation)について述べ、その手法がなぜビジネスイノベーションに効果があるのか、イノベーション理論を参照しながらそのメカニズムを示すとともに、その実施結果を示して有効性を確認しました。

対話型鑑賞法がビジネスイノベーションに有効なわけ

ご存じの方も多いと思いますが、シュンペーターは「イノベーション」を「新結合」と定義しています。

これについて最近注目されている経営理論が、デビッド・ティースらのダイナミック・ケイパビリティ理論です。
ティースはイノベーションのために必要な2つの要素をセンシング(Sensing)とサイジング(Seizing)としています。センシングはサーチ、広く観察するということですね。そしてサーチしたものを掴む。具体的には投資したり、既存事業と結びつけて新たな価値を生むのがサイジングです。サイジングは「新結合」と同じ意味と言えそうです。

そしてダイナミック・ケイパビリティでは、どのような知や要素を獲得(サイジング)するか、見極める為サーチ(センシング)の能力を高めなければならないわけですが、そのための手法として、美術鑑賞、対話型鑑賞を活用することができるのではないでしょうか?

参考記事
ダイナミック・ケイパビリティとアジャイル経営

対話型鑑賞法(VTSI)と発想法

私たちの開発した「イノベーションのための対話型鑑賞法(Visual Thinking Strategies for Innovation:VTSI)」は、基本ファシリテーターを必要とせず、グループワークで行うことができるよう工夫されています。

ここでは、ホワイトボードや付箋(ポストイット)を使用し、How(どのように描かれているか?)、What(どのように感じたか)、Why(なぜその絵が描かれたのか、その絵の意味はなにか)をグループで考え、つながりを結ぶということを行います。

VTSI実施例

そして、KJ法をつくった川喜田二郎の発想法をこのVTSIに当てはめると、WhatからHowを考えるのがインダクション(帰納法)でその逆がデダクション(演繹法)、そしてこれらの情報を構造化することで意味を考えるのがアブダクション(発想法)となります。このようなメカニズムから、対話型鑑賞で、イノベーションに不可欠な発想力をつけることができると言えると思います。


日本能率協会主催「アート思考入門セミナー」