ビジネスの場に広がるアート鑑賞

先日、次世代大学教育研究会主催のシンポジウムで「対話型鑑賞」のパネルディスカッションに登壇してきました。
対話型鑑賞とはファシリテーターと鑑賞者の間で対話をしながらアート鑑賞をするという鑑賞方法です。

代表的な対話型鑑賞法の「Visual Thinking Strategies(VTS)」を開発したニューヨーク近代美術館(MoMA)の元教育部長のフィリップ・ヤノウィンによれば、ファシリテーターからの問いかけによって、「鑑賞者は観察対象について話すことを促され、積極的な観察を活性化する。またこうした問いかけは作品に限らず、あらゆる未知の物事を検証し、論理的思考を構築するための初歩的な方法にもなる。」と著書の中で述べています。

また、「作品の理解できる部分と謎の要素の両方が存在する中で、それらを手がかりに作品を自ら解釈していくプロセスは、問題解決の方法と同じであるので、鑑賞能力を向上させることで、問題発見と問題解決の能力を同時に獲得できる。」とも述べています。

また、VTSの共同開発者の心理学者アビゲイル・ハウゼンの論文では、5年間の対照観察の結果、VTSを学んだ生徒たちのほうがクリティカル・シンキング(批判的思考)を身につけることできたという検証がなされています。

クリティカル・シンキング(批判的思考)とは日本で言えばロジカル・シンキング(論理的思考:日本で独自に提唱された思考法)に近いですが、事実(エビデンス)を元に論理を組み立てたり、判断や新たな発想ができる思考法を言います。

今回のパネルディスカッションでは、「ビジネスイノベーションを目的とした、ファシリテーターに頼らない対話型鑑賞法」と題して発表しました。

もともと学校教育のために開発された対話型鑑賞ですが、それは最近言われているようにビジネス、特にビジネスイノベーションを目的とすることができるのか。できるとすればそれはどのようなメカニズムであるのかを探究するのが目的です。

対話型鑑賞で論理的思考力がつく理由

対話型鑑賞の手法をじっくり分析すると、論理的思考力(ロジカル・シンキング)や、批判的思考力(クリティカル・シンキング)をつけることできるのがわかります。

VTSでは、ファシリテーターは、次の3つの質問を鑑賞者に対して行うのが基本です。
「この作品の中で、どんな出来事が起きているでしょうか?」
「作品のどこからそう思いましたか?」
「もっと発見はありますか?」


 
 

まず最初に鑑賞者が作品に対して思ったこと(解釈)を問うています。そして2番めの質問で、その解釈の根拠を聞いているのがわかりますね。
これは論理的思考(ロジカル・シンキング)でいう「Why so?」(なぜそう思ったか?)です。
下図でいうと「『物事』は『理由1』と『理由2』から構成される」(演繹法)ですね。「その問題が起きたのは、〇〇と△△が要因です。」などと使ったりします。

一方で、理由(描いてあること)を基に解釈を導き出すこと。下図でいうと「理由1」と「理由2」によって、その物事が起こるというのが「So What?」(そこから何を導く? だから何?)で、「〇〇と△△、その2つの理由から、そのプロジェクトは進めるべきという結論になります。」(帰納法)というような使い方をします。

ロジカル・シンキングの考え方

 
 
対話型鑑賞では、鑑賞者は絵を観ながら、演繹法と帰納法を繰り返しているのがわかると思います。そして論理的思考(ロジカル・シンキング)では、理由そのものの性質を問いませんが、これを事実ベース、エビデンスベースで判断するのが、批判的思考(クリティカル・シンキング)になります。

対話型鑑賞と発想法

日本に対話型鑑賞を最初に導入した上野行一高知大学元教授は、対話型鑑賞のゴールは、作品に対する自分の見方、感じ方を他者と交流し、対話を通して個々の見方を深めたり広げたりしながら集団で意味生成をしていくことである、述べています。

なぜ作者はこの作品を作ったのか、作品の意味はなにか、自分に置き換えてみることでこの作品にどんな意味が生まれるか。

「意味」は「根源的な価値」と置き換えることができるのではないかと思います。

例えば、新製品や新サービスを考えたり、組織のパーパスについて探究するなどという際、製品やサービスあるいは組織の「意味」について考えてみる。それは何のために存在しているのか。そこにある、在るべき意味は何なのか。

ここまで考えることで初めて「イノベーション」は生まれてくるのだろうと思います。

KJ法をつくった川喜田二郎の発想法によれば、WhatからHowを考えるのがインダクション(帰納法)でその逆がデダクション(演繹法)、そしてこれらの情報を構造化することで仮説をつくるのがアブダクション(発想法)となります。

対話型鑑賞で「意味生成をする」というのは、イノベーションに不可欠な発想力をつけることにもつながるのではないでしょうか。


 
 

ビジネスパースンのための対話型鑑賞法

上記のように対話型鑑賞法は、学校教育を主眼に開発されてきましたが、弊社では、イノベーションを起こすメカニズムを基に、ビジネスの場、社内研修などで使いやすい対話型鑑賞法、ビジネスイノベーションのための対話型鑑賞法(Visual Thinking Strategies for Innovation :VTSI)を開発しました。

VTSIは、企業研修や社会人向けセミナーなどですでに100人以上のビジネスパースンに受講していただいており、手法のさらなる充実を図って行きたいと思います。

VTSIの実施イメージ


日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催