ビジネスの本質とは

ビジネスをつくるには、そしてうまくいく為にはどうすればよいのか。ある人は「(顧客候補の)リストを集めればうまくいく」といい、ある人は「仲間やファンを増やすことだ」といいます。顧客基盤のコミュニティ化が鍵だという人もいれば、ネットやSNSの使い方が大事だという人、あるいは「ブランディング」「目的(パーパス)を持つこと」が大事である。更には「成功のイメージを持つことだ」など様々。(まだまだありそうですね)
 
確かにこれらはどれも重要な要素なのだと思います。しかしどれもが重要に見えるということは、裏を返すとこれらの要素はどれも本質ではなく、ビジネスのそれぞれ1つの視点(側面)に光を当てていることということです。
ビジネスの本質とはなにか。ビジネスを1つの面ではなく立体として捉える、ビジネスモデルという「モデル」「多面体」を考えることから本質を探ってみたいと思います。

先日、日本ビジネスモデル学会より連絡があり、提出していたビジネスモデル設計についての論文(ICONIX プロセスを活用したビジネスモデル設計のダイアグラム連携手法)が、学会誌(BMAジャーナル)に掲載されることになりました。

ビジネスモデルの設計手法やデザインのやり方はもちろん今までにもあり、「ビジネスモデルキャンバス(BMC)」など様々なツールも使われてきました。
またイノベーションの必要性が広まって以来、「デザイン思考ワークショップ」などのアイデア創出手法が求められてきたのはご存じの方も多いかと思います。

しかし、BMCを始めとする今までの手法は、現在のような激変する環境を考慮して作られていません。これはデザイン思考も同じことがいえます。

日本を代表するデザイナーの一人である太刀川英輔さんが、昨年ハーバードビジネスレビューに寄稿した「生物の進化のように発想する進化思考」によれば、今まで各地で行われてきたデザイン思考ワークショップから、実際に画期的な製品やサービスが生まれた事例は「皆無」であると言い、それは環境の変化に対応する生物のような進化のプロセスが組み込まれていないからだと述べています。

新しい製品やサービスを開発することもそうですが、ビジネスモデルには「環境と進化」の概念抜きに語ることは、実はできません。
それを抜きにして目先のこと、例えば「どうすればお金を儲けられるか」とか「世の中にウケる製品やサービスは?」と考えても、特に今のようなVUCAと言われる世の中では殆どの場合うまくいかない。
また最近のティール組織ブームにも言えますが、組織論を考える際にも重要なポイントだろうと思います。

生態系(出典:大阪府HP)

ビジネスモデルとは価値の生態系のデザイン

ビジネスやビジネスモデルを考えるには、「環境と進化」を組み込む必要があります。つまり「生態系」として考えることです。

ビジネスの本質は価値をベースにした生態系の構築にあります、これはそもそものビジネスの起こりが狩猟時代、獲得した獲物の交換といった生態系の中にあったことを思い起こせば容易に理解できると思います。
また「お金」も「その獲物の価値(どれだけ欲しがられているか)の大きさを表す数値」と考えれば、生態系の中でそれを最大化する方法を考えるのは、本来であればそう難しいことではない。

「難しい」と感じ、また実際そうなのは、今はその生態系が複雑化しているからです。だからまず自分を取り巻く生態系を解きほぐし、活用の方法を考える必要があるのですが、それがビジネスモデルのデザインの本質だということです。

「生態系」とは「食物連鎖の体系」と言い換えることができると思いますが、もちろん人間もその一員です。

上述のように、狩猟時代に獲物をお互いに交換したのが「ビジネスの起こり」ですが、次の時代の農業社会は「生態系を自分たちでつくる」ことに挑戦した社会。古代エジプトでは毎年起こるナイル川の氾濫という環境変化を活用し、洪水がもたらすその肥沃な地域で様々な作物を生産するようになります。

余談ですが、毎年決まった時期に起こるその洪水時期を予測するのに使われたのが天体観測で、「星座」は散らばっている星々をカテゴライズした夜空の位置情報システムでした。その位置情報から物事を予測する西洋占星術も、ナイル川やチグリス・ユーフラテス川流域で生まれたと言われています。

農作物からは食料だけでなく、麻や綿から服が作られるなど、身の回りのものを人々は製造するようになります。そして工業社会、情報社会と社会は進化し複雑になりますが、基本は変わりません。
「ビジネスとは生態系を活用し、自分自身でも構築するもの」というのが本質です。

私たちの「仕事」とは、それが何であれ、生態系の一員としてそれを活用するものであり、仮に一人で起業するという場合でも変わりません。

逆に言えば、自分や自分たちのまわりの生態系を知る。そしてどういう生態系を造るのかを考えることが、ビジネスやビジネスモデルをデザインするには欠かせないことと言えるでしょう。

このことは、自然の生態系を表す言葉、Ecologyと、ビジネスなど経済圏を表すEconomy の意味を考えることでも一層明らかになると思います。

Ecologyとは、Eco(家・共同体)+Logos(言葉・真理)という古代ギリシャ語から作られた言葉です。またEconomyもEco(家・共同体)+Nomos(秩序・法体系)が語源であって、両者の言わんとする事は、実はそれほど変わらない。

Ecologyは、食物連鎖の循環体系ですが、Economyは「お金」という「価値を表す記号」が循環しているという違いがあります。しかしEconomyも結局は自分が行きていく為の食料獲得手段という意味で同じ体系(システム)であると言えるのではないでしょうか。
自然界の個々の動植物は、生態系のことなど知らずに、食べたり食べられたりしている。しかし種としての生物は、その生態系の中でどのように良いポジションを得るか、種として生き残ることができるか「考え」それが「進化」の遺伝子となります。
それぞれの種が進化し、またそれに関係(例えば天敵関係)する種も進化することを「共進化」と呼ばれています。

経済学や経営学の理論にもやはり「共進化」に関する理論(レッドクイーン理論)があることからもわかるように、ビジネスに於いてもまず、生態系として考えること、その中の位置ポジションとして自分のビジネスを捉えることが、「ビジネスの本質を考えること」にほかならないのではないでしょうか。

ビジネスモデルキャンバスも生態系作成シート

ビジネスモデルづくりのツールとして知られるビジネスモデルキャンバス(BMC)やバリュープロポジション(VP)マップも「価値の生態系」を表すためのツールです。
(これらがわかりづらいのは、そういった背景説明なしに理解しようとするからです。)
BMCをつくったオスターワルダーは、もともとビジネスをオントロジーという観点から分析していました。オントロジーというのは、「存在論」と訳されますが、存在論ではあるもの(人・組織)の存在は、その個別の性質を問うのではなく、存在者を存在させる存在なるものの意味や根本規定について取り組むものであるとされます。

つまりビジネスの本質は、そのビジネス個別の性質よりも、それを取り巻く環境、ネットワークの中でそのビジネスにどのような意味があるのかを考えること、存在意義を考えることです。それは生態系ネットワークの中に生物の存在意義があるのと同じです。
BMCのシートに項目を埋めるだけではそのことはわかりませんが、BMCを下図のような「生態系ネットワークのキャンバス」と考えることで、このツールの意味が浮かび上がります。

出典:「Business Model Canvas と System Dynamics の統合によるビジネスモデル設計評価手法」 (湊 2015)

価値の生態系の構築方法

今回日本ビジネスモデル学会向けに書いた論文は、その「価値の生態系」をどうデザインするかということなのですが、生態系をキーにして概要を述べてみたいと思います。

1.価値の生態系の範囲を可視化するとともに、その中で自分が求められていることを知る。
2.自分の行動によって、生態系にどのような変化が生じるか、それによって自分自身にどういう影響を与えるか把握する。
3.2の変化の具合をビジネスモデルに当てはめて、自分がやるべきこと(タスク)を決める。

システム開発の分野では、上記のステップはICONIXプロセスと呼ばれ、具体的にモデリングするツールや手法も定められています。
ICONIXは「システム」(系)の開発のための手法ですが、それを「エコシステム」(生態系)に適用し、ビジネス構築に応用したのがこの論文の内容です。

具体的内容については下の関連記事にも書いていますが、今後もまた書いていきたいと思いますし、年内には論文は公開されると思いますので、その時はまたお知らせしたいと思います。