世界の言葉になった「ikigai」
「生きがい」。およそ日本人であれば、この言葉を知らない人はいないと思いますが、この「ikigai」という言葉は今、世界から注目されています。
きっかけになったのは、2008年に、Dan Buettnerが National Geographicから出版した「The Blue Zones: Lessons for Living Longer From the People Who’ve Lived」です。世界の長寿地域(ブルーゾーン)の一つである沖縄の取材で、その長寿の秘訣を人々の「生きがい(ikigai)」と紹介したことから、この言葉が海外でも知られるようになりました。
その後もBBCなど様々な欧米のメディアが「ikigai」について取り上げるようになり、2017年には、Héctor García とFrancesc Miralles によって、「IKIGAI:The Japanese Secret to a Long and Happy Life」という本が出版されるなど、ikigaiという言葉は世界から注目されるようになったのです。
面白いことに「生きがい」にあたる英語は無いそうで、近いのはフランス語の「raison d’être(レゾンデートル:「存在意義」「存在理由」)」だとか。上記の本では、「ikigai」は「What is the meaning of my life?」「What is the secret to a long and happy life?」の答えのことであり、「the reason we get up in the morning」(毎朝起きる理由)と表現されています。
「毎日生きる理由がある」こと即ち「人生の意味」が「幸せに長生きする秘訣」であるというわけです。
ikigaiの4つの要素
このように、「ikigai」は、「長寿」「幸福な人生」のためという文脈で語られることが多いのですが、「仕事」「(社会)起業」も含めてikigaiを紹介したのが、Marc Winnの「What is your Ikigai?」です。
Winnは4つの円で「ikigai」を表現し、この図はGarcíaとMirallesの書籍を始め、多くのメディアで引用されています。
Winnによれば「ikigai」を考えることとは、次の4つの質問に答えようとすることだそうです。
– Are you doing something that you love?(好きなことをしていますか?)
– That the world needs?(世界から求められていることは?)
– That you are good at?(あなたが得意なことはなんですか?)
– And that you can be paid for?(そしてそれで稼げていますか?)
Love(好きなこと)とNeeds(求められていること)が重なるところが、Mission(使命)です。さらにNeedsとPaid for(稼げること)の重なるところが、Vocation(天職)、Paid forとGood at(得意なこと)の重なるところは、Profession(専門性)、Good atとLoveの重なるところがPassion(情熱)になります。
そして、Mission、Vocation、Profession、Passionの4つの交点がikigaiであるというのが、Winnが説くところです。
生きがい(ikigai)が持てる仕事とは
私たちの人生で最も大きなウェイトを占めているのは「仕事」だと思います。この仕事に生きがい(ikigai)を持てるかどうか、毎朝仕事をすることを楽しみに起きれるかどうか、「人生の幸福」に大きく関わるのではないかと思います。
毎朝「仕事したくない」と思いながら憂鬱な思いで目覚める・・これは「不幸」ですよね。
そのためには上記の4つの質問を改めて自分にしてみましょう。
そしてこの4つの要素は2つに分けられることにお気づきでしょうか?
自分自身のこと「好きなこと」「得意なこと」と、自分と周りの人に関係すること「求められていること」「稼げること」の2つです。
まず問うべきなのは自分自身のこと。「好きなこと、得意なことをしていますか?」
もし好きでもない、得意でもないことをしているのだったら、そのままでは当然「求められていること」もうまくできませんし、「稼げる」ようにもなりません。
そうなると、やる気(Passion)も失い、ますます仕事が「嫌い」「不得意」になると思います。まずこの「負のスパイラル」を脱出しなければなりません。そうでないと頑張れば頑張るほど自分を追い詰めるという状態になります。
「負のスパイラル」を脱出するためには、仕事の中の「好きな部分」「得意な部分」を見つけて、まずそこに集中してみる。研修を受けたり、自分で勉強するなりして「不得意を得意にする」。それもだめなようなら転職など思い切って環境を変えるのも手です。
そして「好きなことをしている」「得意なことをしている」けれど、残念ながら「必要とされない」「稼げない」こともあります。この悩みは特に「経営者」「起業家」に多いかもしれません。
ikigaiと生きがい
ここで改めて「生きがい」という言葉について考えてみたいと思います。生きがいは「生き」「がい」、前半の「生き」はもちろん「生きる」という意味ですが、単に「死んでない」だけでなく、「いきいき」という言葉のように「楽しい」「好きなこと、得意なことに熱中している」というニュアンスがあります。そして後半の「がい」漢字で書くと「甲斐」ですが、もともとは「貝」だったそうです。貝殻は昔お金として使われていました。(「貨」幣は「貝が化けたもの))
つまり「甲斐」は「価値(Value)がある」ということです。
価値があるとはどういうことか。自分の、あるいは自社商品やサービスの「価値」を決めるのは自分や自社ではなく顧客など周りの人(ステークホルダー)ですよね?
ステークホルダーが「求めているもの」「お金をかけても欲しいと思うもの」がまさに「価値」です。
要するに「生き甲斐」は
「生き」(好きなこと・得意なこと)
「甲斐」(「求められていること」「稼げること」)
となります。
Marc Winnが、日本語の「生き甲斐」の古来の意味を分析して「ikigai」の4つの質問を思いついたわけではないでしょうが、見事なほど符合することがわかるかと思います。
「求められる」「稼ぐ」秘訣も「ikigai」にあり
「どうすれば自分の商品やサービスが世間から求められるのか」あるいは「どうすれば稼げるのか」このことに悩む経営者や起業家は多いと思います。特に今のような状況では尚更でしょう。
そのためのヒントもこの「ikigai」にあります。
「ikigai」と「幸せで長生き」の話に戻りますが、Buettnerが世界の「Blue Zone」(長寿地域)の共通点について調べたとき、そのひとつが「人とのつながり」でした。
これらの地域は皆、大家族制度や地域コミュニティがあり、相互扶助が自然と行われています。例えば沖縄には「模合」という「信頼」と「お金」が両立している地域の制度があり、困ったときはお互い様的な文化があります。
実はikigaiとビジネスや仕事の関係でも本質は変わりません。
「求められていない」「稼げない」という悩みがある方は次の質問を自分にしてみてください。
「あなたは常日ごろから、周りの人(従業員や同僚、顧客)の『生きがい(ikigai)』について考えていますか?」
自分の生きがいについて考えるのは多くの人がしています。しかし周りの人の生きがいについてはどうでしょうか?
世界の長寿地域(Blue Zone)では、人々は自然と(文化として)周囲の人達の「ikigai」について触れたり考えたりしています。
ビジネスや仕事でも「従業員」あるいは「顧客」もっと広く言えば「世界の人」の「ikigai」は何なのか。そして自分自身はどうすればそれに少しでも答えたり助けたりすることができるのか。
それを考えることが、「求められていること」であり、その結果として「対価を得る」「稼げること」に繋がります。
「自分が好きなこと、得意なこと」で「周りの人、あるいは誰かのikigai」を助け応援する。これができれば「利己」だの「利他」だのの次元を超えて「正のスパイラル」が回るようになります。
そうして「価値(甲斐)が創造(生まれ)」し、そこに現れる世界が「ikigai」ではないでしょうか。
具体的なやり方(HOW)としては、自分や周りの「価値を可視化」する仕組み、例えば「バリューグラフ」「CVCA(顧客価値連鎖分析)」などがありますが、何よりまず、自分と周りの人たちの「ikigaiは何か?」を考えるところから、「Long and Happy Working」が生まれるのだと思います。
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