私も末端で活動させていただいている自然経営研究会を立ち上げた1人である山田裕嗣さんが、「ティール組織」「ホラクラシー」そして「自然経営」という言葉について、整理しまとめられた記事を書かれています。

ティール組織は「世界の捉え方」
ホラクラシーは「自律的な組織運営のスタイルの総称」
Holacracyは「(ブライアン・ロバートソンが定めた)組織運営の手法」
自然経営は「組織が発展していく流れ」

それぞれの詳しい説明については、山田さんの記事『「ティール組織」「ホラクラシー」「自然経営」は何が違うのか』を読んでいただくとして、ここでは「定義」「分類」そのものについてではなく、それが実際の経営にどう適用されるのか、あるいはどう生かされるのか、その「メソドロジー(方法論)」について書いてみたいと思います。

メソドロジー(方法論)とは何か?

ここではまずメソドロジー(方法論)というものについて簡単に触れたいと思います。よくメソッドつまり「方法」「手法」と同じ使い方がなされたりしますが、「方法」「手法」と「方法論」には明確な違いがあります。

「方法」や「手法」というのは、「やり方」「使い方」ということです。「〇〇を実現するために、こういうやり方をする」、「こんなソフトウェアを使う」ということです。マニュアルのような形式知化されているものから、現場で身をもって覚える技術など暗黙知化されているものなど、会社や組織、あるいは個人ごとに様々な手法があります。
しかし「手法」はそれぞれの人や組織によって違いが出るものです。他者と同じ手法や方法で、自社の意思決定や経営分析に使おうとしても、業種も会社形態や企業文化も違うのですから、なかなかうまくいかないことが多いです。

 
そこで、「手法」の抽象度をいったん上げます。Aの手法、B社の手法、C社の手法を観察するとその共通点や本質が見えてきます。
そうすると、その「抽象化された手法」を基に、自社の実情に合った、方法や手法を創ることが可能になります。


 
 
また、この「抽象化された手法」の抽象度をさらに上げることによって、(経営)理論や定義を参照したり結びつけたりすることができます。これが「フレームワーク」です。
フレームワークになると、一般化されるので、多くの企業や組織で適応したり取り入れたりすることが可能になります。


 
このように、様々な会社や組織等で行われている「手法」「方法」を「抽象化」あるいは「フレームワーク化」して、応用したり一般に適応できるようにするのが「方法論(メソドロジー)」と呼ばれるものです。

ちなみに私が研究員として、大学院(慶應義塾大学院SDM研究科メソドロジー・ラボ)で取り組んでいるのが、この「経営手法のフレームワーク化」です。今まで国際学会等で発表した論文も、「経営理念浸透のフレームワーク構築手法」「自己組織化経営のフレームワーク構築手法」です。(後者はおかげさまで国際学会のカンファレンスで最優秀論文賞を受賞しました。)

また、上図を逆に上からの流れ、つまり経営理論や定義の側から見ると、抽象的な理論を現場で使いやすくしたのがフレームワークの役割といえます。

経営学者マイケル・ポーターの産業競争理論(SCP理論)をフレームワーク化した「ファイブ・フォース」とか「バリューチェーン」など(少なくとも言葉だけでも)ご存知の方は多いでしょう。
ビジネススクールなどで教材として教えられるものは、ほとんどがこのフレームワークです。

なお、この図では一つの理論や定義に一つのフレームワークと簡略化して描いてますが、1つのフレームワークに1つの理論や定義というわけではありません。
「自然経営フレームワーク」でも、上の分類のほか、自己組織化理論や場の経営論など、様々な理論と結びつくことになるでしょう。

自然経営のフレームワーク

さて、本題に戻って、「ティール組織」「ホラクラシー」「自然経営」の山田さんの分類・定義を私なりにフレームワーク化してみます。

まず自然経営は「組織が発展していく流れ」ということですが、どの方向へ流れるのか。山田さんは自然経営を「組織そのものが生き物のように進化・発展していくものとして運営すること」と解釈されています。
この「生き物」、つまり生物や生命とは何か、ということになります。

複雑系の議論を基にすれば、「生命の方向」は、「自律化」「自己組織化」の2つに分けて考えることができると思います。「自律」とは、他との関係性は持ちながらも、他に依存したり服従したりせず、自らの判断で動くことを指します。「ティール組織」で言われる自主経営(Self-Management)のブレークスルーというのがそれに近い概念です。

もう一方の「自己組織化」は、独立した要素同士が、相互作用して、共通の目的に向けて自然と融合していくこと。システム思考でいう「システム化」と言い換えてもほぼ同じ意味です。
同じく「ティール組織」で言えば「全体性(Wholeness)」を持った個々が、「存在目的(Evolutionary Purpose)」へ向けて進化していくブレークスルーです。

以上を踏まえると自然経営のフレームワークは、下図になると考えられます。

 
「進化」ですから時間軸が必要になります。そして進化の方向性として自律化軸、自己組織化軸。この3つの軸の中で、自社はどの位置が最適なのか。今後どのように進化していくべきで、そのためにはどのような方策がなされるべきか。これが自然経営の本質かといえるかと思います。

「ティール組織」「ホラクラシー」とは

このフレームワークに従って、「ホラクラシー」「ティール組織」について考えてみます。

この3軸の中を組織はどのように進化しているのか、そのパラダイムを描いたのが「ティール組織」の本です。そしてこの本は、そうしたパラダイムの中で、個人はどのように振舞うべきなのかを主題としています。

だから「ティール組織」とは、「ティール時代の組織」といってもいいかもしれません。
言ってみれば「近代組織」「現代組織」というようなものです。

そのパラダイムは、左下から右上へ流れています。自律や自己組織化とは無縁な、力による支配の「レッド組織」から、「アンバー組織」「オレンジ組織」と階層社会となり、その階層内で少しずつ自律化や自己組織化が見られるようになります。そしてグリーン組織を経てティール組織へと自律化、自己組織化への進化が進んでいく。これが「ティール組織」のパラダイムといってよいでしょう。

 
そうした「ティール組織のパラダイム」の中で、自律化、自己組織化した組織形態の一つが、「自律的」「管理しない」「フラットな組織」なスタイルの「ホラクラシー経営」です。中でもブライアン・ロバートソンが定義した手法が「Holacracy」にあたります。実はそのほかにもアジャイル開発から派生した「Podurarity」やゲーム開発会社のバルブによるCavalと呼ばれる仕組みなどもあります。

 

「自然経営」とはフレームワークそのもの

そして、この「自然経営」はこのフレームワークそのものを指すといってもよいかと思います。
時間軸と自己組織化と自律化のベクトルを可視化することで、自社はどの場所に位置しているのか、今後どのように進化するべきなのかを把握することが可能になります。

きわめて大雑把にですが、私の周りの会社や、組織をマッピングしてみます。

 
ここで間違っていけないのは、すべての組織が、自己組織化度、自律度100%を目指すべきであるということではないということです。またそうするのが理想というわけでもありません。
例えば、弱肉強食の世界は自律度100%です。人間の組織でも完全報酬制の営業制度とか、完全外注制度なども自律度がかなり高い組織形態でしょう。

一方自己組織化度100%の組織というと、「AIが支配する組織」というのがあるかもしれません。一説によればAIが人間の能力に追いつく「シンギュラリティ・ポイント」を超えると、人の職場はほとんどがAIに置き換えられてしまうと言われています。
現在のAIの仕組みを機械学習(ディープラーニング)ということをご存知かと思いますが、このディープラーニングこそ、自己組織化で動いています。

もう少し丁寧に言うと、数多くのパターンを認識することにより、自己組織化マップが形成され、それが正しい経路を導き、判断を示すのがディープラーニングの仕組みです。
自己組織化度100%、自律度0%というのが「AIが支配する社会」でしょう。ぞっとしますね。

そう考えるとティール組織のもう一つの意義は、シンギュラリティに向かう社会の中で、それらAIを含むIT技術をどううまく活用し、私たち個の自律性を確立していくか、ということにあるのかもしれません。

自然経営の定義とは

山田さんは「自然経営やティール組織を厳密に定義することにはほとんど意味がない」と述べています。
確かに、生命的進化がどれくらい進めば「ティール組織」あるいは「自然組織」になるのかとか、そういう基準を作ろうと思えばできるでしょうが、そんなことにあまり意味はないですよね。

企業や組織を、「組織の生命的な進化」という尺度を当てて見ること。それが「自然経営の定義である」と言い換えてもいいかもしれません。

「自然経営の定義」のワーキンググループの方向性としては、この生命的な進化の具体的な尺度をどう表せるか、例えば幸福(Well-being)研究における「幸福度調査」や「ディーナーの人生満足尺度」のような「自然尺度」があると今後「自然経営」に取り組みたい会社の指標になり、今後具体的な戦略や戦術をどうしていけばいいかわかる。

もう一つは、上記のメソドロジーの説明で述べたように、このフレームワークと、様々な会社の手法と結びつけて、「自然経営の方法論」を可視化できたら社会に役立てることができ、ひいては「自然経営」というものが、日本のみならず世界に広めることもできる。そんな未来に向けた取り組みに役立つことができたらいいなと考えています。