ティール組織にアート思考が必要なわけ

ティール組織やホラクラシーのような、自律型・自己組織化企業を立ち上げる、あるいは自社を自律型の企業に変えるためには、そのための制度や文化を導入する必要があります。
 
フレデリック・ラルーのベストセラー「ティール組織」(英知出版)によれば、そのためには3つのブレークスルーが必要とされ、それが「Self-Management(自主経営)」「Wholeness(全体性)」そして、「Evolutionary Purpose(存在目的)」であることはご存知の方も多いと思います。

では、このような仕組みを整える。あるいは「ホラクラシー憲章」のような制度を導入すれば、企業は「自律型組織」「自己組織化」してくれるのでしょうか?

これらの仕組みや制度はあくまで「必要条件」であって、「十分条件」ではありません。
そこで働く人(社員や従業員)が従来型組織のままの考え方では、これらの組織は機能しません。
つまり制度ばかりでなく、働く社員の考え方(思考)についても考慮する必要があります。

そうでないと、上からの指示がなくなった途端、社員や従業員は「どうすればいいかわからない」というカオス状態、無秩序状態に陥ってしまう恐れがあります。

社員一人一人が主役となって、新しい価値を生み出すための思考法が、最近注目を集め始めている「アート思考」です。

アート思考は、いわばひとりひとりが「アーティスト」となり、自分のアイデア、感情、信念、哲学などを表現しようとするものです。自律型の組織では社員・従業員は各々が「アーティスト」になる必要があります。

逆に言うと、「アート思考」を社内に浸透させ、各々が積極的にアイデアを発するなど、「イノベーティブな組織」にするためには、社内を「自律型・自己組織化」組織にする必要があるということでもあります。
ガチガチのピラミッド構造、上の命令には絶対服従の組織で「イノベーション」を起こすのは不可能です。

なぜなら「イノベーション」というのは、組織や制度の「ゆらぎ」の中から生まれるものであり、この「ゆらぎ」を起こさせないことが目的の堅牢な組織形態が、ピラミッド組織だからです。

ここに「ティール組織」と「アート思考」の不可分性があります。

外的動機と内的動機

ティール組織やホラクラシー制度など自律型・自己組織化経営とアート思考をマネジメントの面から考えると、両者の共通点が「内発的動機」に基づくものである、という点が挙げられると思います。

外発的動機(外的動機)は、行動要因が評価・賞罰・強制などの人為的な刺激によるものに対して、内発的動機(内的動機)は、行動の要因が内面に湧き起こった興味・関心や意欲によるものと言われています。
どちらが優れてる、劣ってるというものではなく、場合や状況に応じてそれぞれ必要な動機づけですが、一般的には即効的はあるが短期的なのが外的動機、時間はかかるものの長く影響するのが内的動機と言われています。

その中で、内的動機に基づくティール組織とアート思考、それに対比される従来型組織とデザイン思考をマトリックスに当てはめてみました。
デザインは依頼者や発注者に基づいて制作するものですから、外的動機に入れられます。
アートは上でも述べたように、各々のアイデア、感情、信念、哲学といった内的なものを表現しようという、内的動機に基づいているものです。

よく社員や従業員に対し「経営者になった気持ちで」とか「企業家精神で」と言うことがあるかと思いますが、これは外的動機ではなく内的動機に基づいて仕事をするということを表したものです。

アート思考はまさにそういう考え方そのものです。

自分勝手に好きなことを創ることがアート思考ではない

しかしながら、ここには誤解を与えがちな点が潜んでいます。それは「自分が好きなことをつくる」のがアート思考というわけではないということです。

現在は、アート思考の「定義」について、色々な方が色々なことを仰っている状況です。「オリジナリティ」「本当の自分に出会うこと」「何かを“創る”こと」「よいアートを鑑賞すること」。

無論これらが“アートの要素”であることには違いないのですが、今の社会から求められている「アート思考」とは少し違う気がします。
というのは、「自分らしさ」「私はわたしらしく生きる」・・・などという言葉は、小室哲哉の歌詞やあの有名なSMAPの歌から、今やはり流行している「マインドフルネス」まで様々なところで聞かれますが、いわゆる「自分探し」の手段がアート思考ではないですし、「周りを気にせずに自分勝手に生きる」ことがアート思考でもないと思います。

企業などの組織の中ででこれをやってしまうと、それぞれの考えや思想がぶつかり合って、結局「権力や力のある人の意見」が通るだけになります。

人間中心デザイン(Human-Centered Design)である「デザイン思考」が広まったのは、それまでの「製品中心」の考え方、「自分が良いと思うのを作ればいい」というやり方の反省から生まれたのに、現在ではその「デザイン思考」の否定、単なる揺れ戻しでアート思考という言葉が便利に使われている、という風潮も感じます。

共感の重要性

アート思考については、芸術思考学会のWEBページで「心の底にある気持ちをカタチにし、人と共鳴することで、新しいモノを生みだしていく」と書かれてるように、中盤から後半の「人と共鳴する」ことで「新しいモノを生みだす」という思考プロセスが必要です。
人に共感、共鳴してもらう。これが例えば「デザイン思考」とも比べた「アート思考」の一番の特徴であると考えています。

アートとデザイン

実際にどういうプロセスで「共感」あるいは「共鳴」がなされるのか。

実は、ここがティール組織など自律型・自己組織化経営とまったく共通するポイントです。
自律型・自己組織化企業では、それぞれが「自分のやりたい仕事」に取り組みつつ、全体としてひとつの有機体・生命体のようにひとつの姿を形作る。
ここで働いている力が「自己組織化」あるいはオートポイエーシスでいう「自己創出」です。
そして今までの自分の研究から、人間の組織においては、「関心」「共感」が大事なファクターであることがわかってきました。
(今秋の国際学会で発表する論文もそれに関連して書いたものです。)

私たちが開催している「アート思考ワークショップ」でも、「個の自律」「関心」「共感」に焦点を置いて、皆で自然なプロセスで「自分たちがやりたいものを形作っていく」というプロセスに重点を置いて設計しています。

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アート思考とは