先日のShiawase2.0学会での研究発表について当ブログで記事を書いたところ、友人から興味深いコメントをいただきました。

「ティール組織というのは、意識の高い人たちでいい感じで自主的に回せる組織が強いよねという話ではないか。
そういう組織を創るのは、イチローとか野茂みたいな自立した社員がいる組織ならともかく、そうではない普通の会社組織では無理なのではないだろうか。」

頂いたコメントを読んで、なかなか鋭い指摘だなぁという部分と、まだまだティール組織について誤解されて伝わっている部分は多いなぁというという感想を持ちました。

ティール組織とはなにか

今年(2018年)に入って急速に広まりベストセラーとなった「ティール組織」。そもそもは、組織の進化論について書かれた本です。
著者のフレデリック・ラルーは、組織の深化の形態を5つに分類しました。
そしてそれを赤、琥珀、オレンジ、緑、紺(ティール)の色にあてはめたのが下図です。

RED(赤)が、オオカミの群れ。弱肉強食、力による支配の組織です。
AMBER(琥珀)が軍隊。厳格なヒエラルキー組織。上の言ったことは絶対で歯向かうことは許されない組織です。
ORANGE(オレンジ)はオートメーション(機械)。フレデリック・テイラーが始めた「科学的経営法」を端にします。企業と従業員の契約に基づいたヒエラルキー組織です。
GREEN(緑)は家族。従業員の幸福が第一の会社。坂本光司法政大学院教授の「日本でもっとも大事にしたい会社」シリーズに掲載されているような会社というとイメージが湧きやすいかもしれません。
そしてTEAL(紺)が生命体。トップからの指示で動くのではなく、自律的、自己組織化に基づく組織体系。代表的なものとしてホラクラシーがあります。

現在の企業組織の多くが、オレンジ組織になるかと思います。企業と従業員間の契約(労働法など関連法規に基づく)によるヒエラルキー組織です。社長や取締役会など上部組織が定めた方針、戦略に基づき上司が部下に指示を与え、基本的に部下はそれに従います。

ここ数年注目を集めているのが、グリーン組織でしょう。ほうれんそう禁止で有名になった未来工業(岐阜県)、年輪経営の伊那食品(長野県)、定年なしの西島(愛知県)などがメディアなどでも取り上げられています。
またZapposも、かつてはこのグリーン組織を代表する企業だったと言えると思います。
そして、グレーン組織から更に進化したのが、フレデリック・ラルーが主張するティール(紺)組織となります。ティール組織においては、指示系統組織すらなく、各部門が人体の一部、例えば心臓など内臓の働きのように、脳(意識)の指令に頼ること無く自律的に働きます。

ティール組織についての主な誤解

日本では今年(2018年1月)に発売されたばかりのティール組織そしてそれを代表するホラクラシー組織、マネジメントに関心がある人達の中で急速に広まり知名度も既に高い状態です。
ただ、イメージが先行しているせいか、ティール組織やホラクラシーに対して、誤解が広がっている部分があるのも事実です。

例えばホラクラシーとはフラット化した組織のことである、という点、あるいは現場に任せるのがティール組織やホラクラシーであるという点。
ホラクラシーにはたしかにマネージャー(管理職)と呼ばれる人はたしかにいませんが、サークルと呼ばれる組織にはもちろんリーダーはいます。ホラクラシーを導入したZapposでは、それまで管理職は150人ほどいたそうですが、ホラクラシー導入後はリーダー職の数は300人になったそうです。
現場に任せる経営としては、上で述べたホウレンソウ禁止の未来工業が有名ですが、もちろん未来工業はホラクラシーやティール組織を導入しているわけではありません。この会社は終身雇用制、年功序列の組織形態ですので、古き日本企業の企業組織といったほうが近いです。

自己組織化について

日本でいち早くホラクラシー経営を取り入れたダイヤモンドメディア株式会社の武井共同代表によれば、ホラクラシーとは「複雑系経営のことである」と述べています。Wikipediaによれば複雑系(complex system)とは、「相互に関連する複数の要因が合わさって全体として何らかの性質を見せる系であって、しかしその全体としての挙動は個々の要因や部分からは明らかでないようなものをいう。」例えば、天気は数え切れないほど多くの水蒸気や空気分子の動き(振る舞い)で決められる「複雑系」ですが、未だに数日後の天気も正確に
予測することができません。「バタフライ効果」という有名な言葉がありますが、日本のどこかで、蝶が羽ばたいた空気の小さなゆらぎが、1ヶ月後のアメリカの巨大ハリケーンの原因だったりするかもしれないのです。
この小さな「ゆらぎ」から大きなハリケーンが発生するプロセスが「自己組織化」です。たくさんの空気分子が相互作用することによって、自己組織化が起きます。この自己組織化現象は、雪の結晶のような自然現象や、人体の様々な仕組み、あるいは都市の形成と発展のような人間の営みなど様々なところで見られます。
この自己組織化の振る舞いを活用した経営手法がティール組織やホラクラシーです。だからヒエラルキー組織(階層組織)から必然的にフラットの方向へ向かいますし、現場のことは現場に任せた経営になります。
但し、フラット組織や現場のことは現場に任せる経営というのは、ティール組織やホラクラシー組織から導き出せる結果であって、それを目指して経営組織をつくればいいのではないことに注意が必要です。
そうでないと、社内の役職をなくして、あとはほったらかしをすればいいという誤解につながりかねません。
自己組織化が起こるような工夫、組織運営が必要となります。