あけましておめでとうございます。
去年の今頃は、慶応SDMの修士論文に追われた年末年始でしたが、無事(というても1年遅れですが^^;)3月に修了し、今年は比較的世の中を俯瞰できる余裕がありますので、2019年を大予想してみたいと思います。

2019年の予想は難しくない

今年は、比較的わかりやすい年になりそうです。
なぜなら、’10年代というDecadeの最後の年であり、平成の30年の終わりの年。次の10年、次の時代への橋渡しの年という位置づけになることが、もうわかっているので。

そしてこの19年に準備ができているかいないかで、次の10年間を生き残れるかどうか決まるといっても過言ではないと思います。

この2019年がどうなるかは、2010年代がどんな10年だったかを考えれば、それを予測するのは、それほど難しくはありません。

少し振り返ってみたいと思います。

2007年のライブドアショック、そしてリーマンショックから世界経済が立ち直り始めたのが2010年でした。そしてこの2010年に初めてメディアに登場した言葉が「ビッグ・データ」でした。
ご存知のように、この言葉はコンピュータと通信の性能向上で、クラウドによる管理によって、あらゆるデータの格納が可能になった環境下で出現したもの。(2011年に「今年の言葉」に選ばれました。)

つまりビッグ・データとは、世界が小さなコンピュータの中に納まってしまったという、スモールワールド現象の一形態です。ビッグというイメージに反して世界が小さくなり、あらゆる事象が繋がる複雑なネットワーク社会の出現が、この10年間に世界で起きたことの本質です。

そしてこのことは必然的に次の2つの現象を引き起こすことになりました。

1.世界が小さく情報が一瞬で行き渡ることで「つながり」をより意識するようになった。
2.複雑さの増大で「エキスパートシステム」では太刀打ちできなくなり、自律処理を行うAIが出現し普及しはじめている。

いま世界で起こっていることは、ほぼこの2つに集約されます。

1番に関して、この10年での「つながり」というと、2011年の東日本大震災を忘れることはできないでしょう。私自身もそうでしたが、多くの人が東北にボランティアに行ったり、支援活動を応援したりしました。
ちなみにボランティア元年と言われたのは、1995年の阪神淡路大震災ですが、去年起きた西日本豪雨や北海道地震でも多くの人が参加しました。

ご存知のように日本は自然災害の多い国。多くの人が犠牲になる自然災害は昔から数多くありました。それがなぜ1995年からかというと、これはちょうどインターネットの普及がこの年から始まったことと不可分ではありません。

それまでの情報源であったテレビや新聞、雑誌では何重ものフィルター(記者や編集者など)が入って、どこか別世界のことのように感じられた出来事が、ネットという直接つながる媒体の出現で、一気に世界が繋がり、東北や西日本といった他地域のことが自分事のように感じられる。世界が小さく狭くなったからと考えられます。

そして2番。少し前の人工知能(AI)は人間の豊富な知識や経験(エキスパート)をコンピュータに移植する。例えば「こう聞かれたらこのように答える」「こういうことが起きたら、このように対処する」ということをひたすら教え込む「パターン認識」システムでした。

しかしこれは世の中の複雑度が比較的低いうちは問題ないのですが、複雑度が上がるとあらかじめ決められていた「パターン」では対処できない問題が起こるようになります。
そのことを象徴する言葉が、’00年代の終わりに流行った「想定外」という言葉ですね。

エキスパートシステムでは、増え続けるデータとネットワークに(複雑さはデータとネットワークの数のべき乗で増えていきます)対応できず、それに代わって登場したのが「ディープラーニング」型のAIです。

ディープラーニングとは簡単にいうと、目標とするパターンにデータやネットワークを合わせるのではなく、数多くのデータやネットワークの中から、パターン(自己組織化マップ)を創り上げていく自律型システムです。とはいえ現在はまだ完全な「自己組織化型」ではなく、人間が教え込む「学習」と「自己組織化」のハイブリッドなシステムです。

そして今なおこのAIの能力が日々飛躍的に高まっていることは報道等で言われている通りです。完全な「自己組織化マップ」による(人間による初期学習が必要ない)AIが出現するのもそれ程遠くないでしょう。

「ティール組織」の流行と「弁護士」の凋落

昨年ベストセラーになった「ティール組織」。ピラミッド型経営からフラットな自律型組織へのパラダイムを説くこの本はそのボリュームや値段の高さにも関わらず5万部を超えるベストセラーとなりました。

その理由も、上の1と2を見ればわかります。複雑な社会や組織のなかで、「エキスパート」が役立たなくなってきたのはコンピュータの世界も人間社会も変わりません。
知識と経験を一番持つ人を頂点とするピラミッド組織は、最近の日本の大企業を見るまでもなく、「想定外」のパターンの多さに崩壊、もしくは崩壊寸前。
エキスパート型から自律、自己組織化型への動きは、人間社会にも急速に広がるという「予感」がこの本をベストセラーにしたと言ってもよいのではないでしょうか?

そして「エキスパート」の凋落を象徴するもうひとつの出来事が、日本で最も難しい資格試験である「司法試験」という狭き門を通過したエリート中のエリート「弁護士」の凋落でしょう。
少し前までは、司法修習を終了した新米弁護士でも年収700万からというのが相場であり、大手法律事務所のパートナーともなれば、「颯爽とクライアントの課題を解決して年収数千万円も当たり前」だったのですが、今では年収200万円もいくかどうかという人も少なくないと言われています。
司法試験改革の失敗等様々な原因が言われていますが、今や「課題解決ができるエキスパート」は、すぐに「ディープラーニングAI」にとって代われる職業の筆頭であることが、一番の原因かと思われます。

2019年に起こること、これから準備すること

2019年に起こることは、2010年代を通して広がってきた「『エキスパート』『課題解決できるTOP』の凋落の10年」の締めくくりと考えれば、予想は難しくありません。
トランプ大統領の出現は、「単純な思考(手法)で課題解決できる」筈だったかつてのリーダー像のまさに最後の仇花。したがって今年は世界情勢、経済情勢とも不安定な動きになるでしょう。すでに18年末の株価、対中国やアジア情勢にも表れていますね。

日本の政治経済情勢についても同じです。
ただ安倍総理に関して言えば、意外と「自分自身で問題解決をしない」型のリーダーで、野党のほうがより古いタイプのリーダーが多いので、また事件が起きたりするにせよ今年以降も持ちそうな感じです。

そしてこれからの10年に準備すること。

「課題解決ではなく課題の提起ができるようになる」
このことに尽きます。単純ですね。
ますます複雑になる社会、「課題解決」は一人では、あるいは人間だけではできません。だから「課題解決型リーダー」という言葉自体意味のないものになります。
当然組織は「自律分散型、自己組織化型」に移行していきます。そういう中リーダーに求められるのは、課題の解決ではなく、提起です。

したがってリーダーには、「理念」や「ビジョン」が求められるのですが、ちょっと注意しなければならないのは、「課題解決型」の理念やビジョンではだめだということです。
課題解決型の理念やビジョンというのは、目標やゴールをしっかり定める型を言います。一方の課題提起型は、社会のどういった課題に取り組むのかを考えるような理念やビジョンです。実際の解決策はリーダーではなく、現場やそれぞれの組織で生まれるようにする。これがリーダーのおこなうべき課題の提起です。

また、これまで「デザイン思考」など課題解決思考がちょうどこの10年間のブームでした(「デザイン思考が世界を変える」(ティム・ブラウン)の発売が2010年)が、課題提起型の思考法がこれから必要になるでしょう。2017~18年頃より「アート思考」という言葉が聞かれるようになったのは、まさにこの潮流です。

課題を提起するためには、もちろん課題の認知が必要。
世の中にはどんな課題があるのか、自分事としてとらえることから始まります。

それができない人は頭がでかい女の子に、今年も怒られるでしょう(笑)。
「ボーっと生きてんじゃねえよ!」