データ活用で生まれ変わる東芝

6月2日、東芝の代表執行役社長 CEOの島田太郎氏は、経営方針を発表し、「収益の柱をデータサービスにする会社に東芝を変貌させたい」と発言しました。
「ハードウェアとソフトウェアを分離する『Software Defined』を推進し、デジタルとデータの力を活用してカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現に貢献する企業になる」との方針とのことです。

東芝資料より

 

新社長の島田氏は、世界で有数のIOTのリーダー企業の独シーメンス出身で、東芝データの社長に就任後「東芝に眠るデータの活用」を訴えてきました。
例えば、東芝がシェアトップのPOSレジのデータを「スマートレシート」という形でサービス提供しています。
利用する個人は、スマートレシートのデータを会計後にスマートフォンで確認したり、家計簿ソフトとの連携が可能になります。
そして、このような購買データの蓄積は、様々な企業にとって貴重なマーケティングデータとして活用することができるようになります。

今回の発表でも、例えば以前には非中核事業と位置づけられ、どちらかといえば地味な存在のエレベータ事業も、安全装置として入れられていたセンサーやエレベータの稼働データを収集することにより、人流、利用者属性、運行状況、機器稼働状況などのデータと外部アプリと連携して、データをビジネス化する「コア事業」と位置づけています。

現在では東芝だけでなく、多くの企業が「DX活用の本命」としてデータを位置づけています。長年の事業運営の中で、特定の領域に限ってデータを使ってきた企業が今、データ革命に遭遇しているのです。データは新たな情報源から生み出され、新しい課題に適用されており、イノベーションを推進する力になっています。

ビックデータの本当の意味とは

2010年頃から「ビックデータ」という言葉が使われるようになり、アマゾンやGoogleのようなクラウド運営企業の「飯の種」となってきました。
GAFAの4社だけで一時は日本企業全体の時価総額を上回ったなどと言われましたが、これからはあらゆる会社が、データ活用ができる、できないで未来が定まってしまう。そんな時代なのです。

そういう意味で今のDX(デジタル・トランスフォーメーション)ブームがあるわけですが、経営者が勘違いしがちなのが、「クラウドツールやAIを導入する」「データサイエンティストを雇用して分析させる」で何か新しいことができるわけではないということです。
データは所詮データであり、それだけでは価値ははっきり言ってありません。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)研究の第一人者である、デビッド・ロジャースコロンビア大学経営大学院教授は著書「DX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略立案書」の中で、3つの神話「アルゴリズムですべてがわかる」「相関さえわかればよい」「良いデータはすべてビックデータである」について触れています。


 
 
つまり、「最高のスーパーコンピュータを集め、あらゆる手持ちの非構造化集合を比較し、予期せぬパターンを掘り起こしさえすれば、画面上にインサイトが現れる」という「神話」があるが、もちろん実際のデータ解析はそんなものではない。
コンピュータはたしかに相関関係は示してくれるけれども、大事なのは、「意味」を加味した因果関係の解析だということです。
「それらはビックデータの領域に掘り下げなくても、価値あるデータを構築し、それを自社の戦略目的に使うことができる。データ戦略で重要なのは、あくまで顧客とビジネスにとっての価値を創出することである。」と述べています。

データ活用のフレームワーク

ではどうすれば、「顧客とビジネスにとっての価値を創出するデータ戦略」を組み立てることができるのか。ロジャース教授は「顧客データを事業価値に変える4つのテンプレート」というフレームワークを提供しています。

具体的には(1)インサイト(見えないものを可視化する)。(2)ターゲティング(フィードを絞る)。(3)パーソナライゼーション(ニーズに合わせて最適化する)。(4)コンテクスト(参照の枠組みを提供する)という4つのテンプレートです。
以下の説明では、ロジャース教授のフレームワークを実際にどのように行うか、デザイン思考やシステム思考を使った手法にまで落とし込んでみたいと思います。

(1) インサイト(見えないものを可視化する)
価値創造の最初のテンプレートは、インサイトです。これまで見えなかった関係、パターン、影響力を明らかにすることで、データは企業に巨大な価値をもたらします。

このような解析手法に、システム思考の因果ループ図があります。当サイトで度々取り上げている、ニューヨーク市の犯罪撲滅で活用された「割れ窓理論」は、犯罪と「割れた窓」の関係やパターンに注目して、犯罪を減少させた事例です。


 
 
(2) ターゲティング(フィールドを絞る)
ターゲティングというとかつては、年齢、住所、製品仕様歴などに基づいて、大まかにセグメンテーションを行うというものでした。一方、今日の先進的なセグメンテーションのスキームは、はるかに多様な顧客データに基づいています。

また顧客をどうターゲティングするかについて、リアルタイムで変更することも可能です。例えばどのようなeメールやコンテンツをクリックしたかなどの顧客の行動データに基づいて、それぞれの顧客を特定のセグメント(マイクロ・セグメント)に帰属させることができます。

(3)パーソナライゼーション
マイクロ・セグメントへの顧客ターゲティングができた企業の次のステップは、その顧客のそれぞれが、意味があり価値があると感じられるよう、彼ら顧客を個別に扱うことです。メッセージング、オファー、価格設定、サービス、そして製品を個々の顧客にニーズに合わせたものにすれば、企業は提供する価値を高めることができます。

(4)コンテクスト(参照の枠組みを提供する)
コンテクストとは、参照の枠組み(基準座標)を提供し、特定顧客の行動や結果が、母集団とどう違っているか説明するものです。
わかりやすく言うと、上記(2)(3)等で行うセグメントの間の関係性をみることにより、ある顧客のデータと他の人のデータを比較したり、時間軸による変化を観察することで、その顧客の現在の状況を判断し、価値提案をすることができるようになります。

例えばナイキ製品やAppleWatchなどで収集した健康データの比較による病気の検知、クレジットカードの使用履歴の比較による不正使用の検知などです。

大事な点は、(2)(3)(4)で、価値提案をするためには(1)のインサイトに基づいて、人が設計を行う点です。
データに基づくインサイトにより、価値提供の仮説が生まれ、それをデータで検証していく。
その繰り返しにより、あらゆる顧客に沿った価値提案ができる企業になることができます。

デザイン思考(例えば親和図法やKJ法など)やシステム思考(因果ループ図やCVCA)の様々なフレームワークは、多くのデータからどうすれば、価値を生むインサイトを得ることができるのか、その「思考の流れ」のプロセスを一人ひとりに与えることが目的であると行っても、過言ではないと思います。

日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催