地方自治体や地域企業のDX導入

最近、地方自治体や地域企業のDXに関する仕事が増えています。
地方自治体のDX導入に関するセミナーやコンサルであるとか、今度の11月には、北海道で、自治体主催の地元企業のためのDX導入やデザイン思考のセミナーで講師をすることになりました。
(北海道の東の方は、まだ行ったことがなかったので楽しみです。)

地方自治体の仕事や地域企業の仕事は、個人的にも思い入れがあります。

2011年の東日本大震災のあと、いろいろなご縁があって、宮城県の石巻市や岩手県の陸前高田市などで、復興の街づくりなどに関わらせていただきました。
また、石巻でのワークショップで慶應SDMと出会い、その研究プロジェクトで海士町(島根県)や奥尻島(北海道)にも通いました。

これら地方を訪ね、また地域の人達とディスカッションする中で、その地域や地方というよりも「日本の課題」が浮き彫りになった気がします。

総務省が2022年8月に発表した、今年1月の人口動態調査で1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)の日本人人口が、1975年の調査開始以降初めて前年を下回ったことがわかりました。

しかし御存知の通り、地方都市ではもう数十年も人口減少、そしてそれに伴うマーケットの縮小、工場閉鎖など産業の衰退、税収減による住民サービスの低下でそれがまた転出など人口減少を加速させるという負のスパイラルに苦しんでいます。
つまり、地方は将来の日本を映す鏡であり、その警鐘は日本の将来に向けたものでした。

しかしながら私たちはその警鐘に耳を貸さず、根本的解決を先送りし続けてきました。

その結果が、最近の日本を取り巻く状況であると言っても良いでしょう。

そしてもうひとつ、地方自治体や地域の企業がDXができるかどうかで、これから日本が再生できるか、ますます衰退するか決まってしまうということです。

これは、日本の人口減少の構造を少し分析してみるとわかります。

都県別出生率推移

 
 
グラフのように、日本の出生率は地域によって差があります。
最も低いのは(日本の人口の1割を有する)東京で、これが日本全体の平均を引き下げているのは明らかです。

少し想像してみればわかるように、東京というところは、子供を生んだり育てることに向いた環境ではありません。
多くの家庭は共働きで核家族であり、地域の繋がりも薄い。
何よりも住居費は高く、保育園などの環境も十分ではない。通勤時間も長いので定時上がりができても家に帰れるのは夜。教育費ももちろん高い。
できれば子供がたくさんほしいと思っても、仕事のために諦めたり、1人が精一杯という家庭が多いのではないでしょうか。

そして日本の人口構造は、(比較的出生率の高い)地方から(出生率の低い)東京へ移動し続けている。東京は日本のエアポケットやあるいはブラックホールのような存在なのです。

この構造を変えない限り、日本の人口減少が止まることはないですし、マーケットの縮小ひいては日本経済のシュリンク、そして現役世代の負担増加が留まることもないでしょう。

トリクルダウン論の誤り

以前小泉政権で総務大臣を務めた竹中平蔵慶應大学名誉教授は、東京が豊かになることによってその恵みが地方へ波及する。ということをテレビで述べていました。
この主張は、円安政策や法人税減税によって大企業が潤えば、その関係企業や取引先など全国の中小企業も豊かになるといういわゆる「トリクルダウン理論」に通ずるものです。

しかし、小泉政権発足後の20年間、世界の中の東京の位置づけ、日本経済のプレゼンス低下(例えば90年代、世界の17%を占めていた日本のGDPは2020年には5%)を考えると、これらの政策が機能していたとは残念ながら思えません。
日本の9割以上を占める地方が豊かにならないことには、日本全体が浮上することも望めないと考えます。

逆に言えば、地方が豊かになることで日本全体が浮上する、強い豊かな日本が復活することも可能になるのではないでしょうか。
そのためには、民間も県や市区町村などの公共機関も「改革」をする。今までのように国や東京を当てにしている考え方ではますます沈没していくだけだと思います。

地方を豊かする3つの指針

まず大前提として、誰かに、あるいは何かに「頼る」「依存する」のではなく、「自律」できる体制づくりが必要です。
今、元気と言われる自治体、例えば徳島の神山町にしても島根の海士町にしても、国などに頼るのではなく、自分たちで考え、試行錯誤を重ねていき、それを応援する人たちが集まってくる。そういう構造があります。

では、何を頼りに「自律」できる自治体を考えればいいか。
私は「3つの指針」がその拠り所となるのではないかと考えます。

Society 5.0

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。

狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、
新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱。

Society5.0社会

 

アジャイルガバナンス原則

Society5.0の実現に向けて、革新的な技術の社会実装を進めるための、新たな技術がもたらす社会構造変化を踏まえたガバナンスモデル(組織モデル)。

一律かつ硬直的な事前規制ではなく、リスクベースで性能等を規定して、達成に向けた民間の創意工夫を尊重するとともに、データに基づく EBPM を徹底し、機動的・柔軟で継続的な改善を可能とする。データを活用して政策の点検と見直しをスピーディに繰り返す、機動的な政策形成を可能とする。
 

アジャイルガバナンスの共創モデル

 
  

自治体DX

デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会(誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化)を実現する。

この3つの指針の関係性は、「どのような社会を目指すのか(Society5.0)」、目指す社会を実現するために「どういった組織づくり、組織運営が必要か(アジャイルガバナンス原則)」、そして、「実現するためにどういう仕組みを導入するべきか(自治体DX)」を考えるという関係になります。

図示化すると下図のような形になるでしょう。


 
 
これは自治体だけでなく民間企業などにも言えることですが、DXやそれに伴うシステム導入というのは目標でも目指す姿でもありません。

自分たちは「何を目指して仕事をしているのか」を、一人ひとりが考えることで、自分や自分の周り、つまり地域が幸せで豊かになり、ひいては国全体が豊かになる。

そういう姿を目指していきたいものです。


日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催