専門家失業(?)のAI時代がやってきた

Google出身のチームが創った、AI(人工知能)アルファGOが、囲碁の世界チャンピオンを破ったニュースは、世界に衝撃を与えました。
少し前から将棋の世界では、AIと棋士の勝負である“電脳戦”が行われており、最近では
AI側に圧倒的な分配が上がっています。
もし、プロ棋士が単純に「スキルとして将棋が強い」ということだけの定義であれば、プロ棋士は全員(?)がAIになって、人間の棋士は軒並み失業ということになるでしょう。

「機械」の進歩は、失業を生み出します。
今でも忘れられないのですが、私が新入社員だったころ(約30年前)、社用で役所へ行きました。そこの待合室に、「人手不足解消のため人員採用を!」というポスターが張ってありました。今でも覚えていますが、たったひとりの窓口担当に、何十人の市民が押し寄せている絵でした。
そしてその隣のポスターが、「失業を有む、業務のコンピュータ化に反対!」というものでした。ちょっと今では考えられないですが、古くは、産業革命のヒッタイト運動に始まり、いつも起こってきたことです。少し意味は違いますがトランプが地球温暖化協定のパリ条約を脱退したのも、支持者である石炭労働者の雇用を守るとめとされています。

今までは、機械やコンピュータに負けないためには、「専門家になる」「専門知識を身につける」ことでした。
最近は「パーソナル・ブランディング」がブームとなり、「他人にはない、独自のスキルや知識を身につける」ことが「勝ち組」の条件であると言われたものです。

しかしAI時代にはその様相も一変しました。
高度なスキルを身に着けた、プロ棋士をAIが破ったように、知識とスキルを身に着けた「専門家」は、ほとんどAIにとって変わられる時代になったのではないでしょうか。
例えば、資格試験の最難関と言われる弁護士。彼らの仕事は、法律知識と過去の判例から、様々な紛争案件に「答え」を出すのが仕事ですが、過去のあらゆる(すべての)判例と法律を覚え、最適解を判断するのは、AIの最も得意分野とも言えます。

企業でも、いわゆるホワイトカラーの管理職の多くの仕事はAIに変わられるでしょう。向上の機械化やFAは、ブルーカラーの仕事を奪いましたが、AIは管理職を不要にします。
そもそも管理職は、人間一人が「管理」できる人員や情報に限りがあるため、組織をピラミッド型にして、管理する側⇔される側に分割したものです。
IOTで会社の隅々まで経営情報収集の拠点が行き渡り、ビックデータをAIが管理、最適解判断を行う時代になれば(もうなりつつありますが)、「管理職」が、今で言う「電話交換手」と同じ感覚の言葉になる日も近いかもしれません。

AIの仕組みのおさらい

AI時代に生き残る。AIに(勝てないまでも)負けないためには、そもそもAIとはなんぞや? を知ることが大事でしょう。敵を知らずにただ攻め込んでも、太平洋戦争の日本のように精神論でどうにかなる相手では無いからです。
またAIを無用に恐れる必要もありません。AIは人間の頭脳が置き換わったものでもなく、できることとできないことがあるコンピュータの一種に過ぎないことも事実だからです。

ここでは簡単にAIの思考回路について述べましょう。
今のAI、「機械学習」とか「ディープラーニング」と言われるものであることは、多くの人がご存知と思います。
では、この機械は何を学習しているのでしょうか?

AIが行っていることは、次の2つに要約できます。
1) 大量のデータを収集する。
2) データの振る舞い(動きや変化)を調べて、データ間の相関関係を見つけ出す。
以上2つです。

ディープラーニングという言葉を有名にした猫の写真判別で説明しましょう。

普通のコンピュータで、猫の判別をさせるには、予め猫とはどういうものか、というのをプログラミングしておく必要があります。
例えば目が2つあって、顔がまるくて、耳が顔の上部(120度前後)に左右あって、形は三角形、といったふうにです。
実際はもっとたくさんありますが、コンピュータは、このプラミングデータと写真を突き合わせて、この写真に写っている物体は、90%の確率で猫である。などと判断します。

しかし機械学習、ディープラーニングでは、そのようなプログラミングは一切行いません。
代わりに猫の画像を大量に収集し、目の位置、耳の位置といったデータとその相関関係を調べていきます。画像の中の目の座標が◯◯ならば耳の座標が☓☓である。と言った具合に。
もちろん位置関係だけではなく、形状、色、大きさ、変化や動きなど、ありとあらゆるデータを収集し、そのデータ間に相関関係があるのかないのか、あるとすればどのような相関関係があるのかを調べていきます。
そうして、データとそのデータの相関関係(要は繋がり)の判断から、新たな画像を示されても「個々に写っている物体は『猫』である」と判断することができるようになります。

ディープラーニング

囲碁や将棋でも原理は同じ。

玉や駒のデータ、振る舞いとその振る舞いの結果の相関・因果関係を過去の対局場面はもちろん自己対戦シミュレーションを繰り返し、最適解をさぐっていきます。
大量のデータを収集し、そのデータの動きや振る舞いを調べて、データ間の相関関係や因果関係を調べて最適解を導き出す、という思考方法に変わりありません。

システム思考とAI思考の相似性

すでにお気づきの方もいると思いますが、このAIの思考法は、システム思考と同じです。
因果ループ図やシステム・ダイナミクスのシミュレーションモデル(ストック&フロー図)では、データ(変数)をピックアップし、そのデータ間の因果関係を矢印で結ぶ。
そうして(社会)システムの構造を明らかにすることで、課題解決(最適化)を図る。
もちろんシステム思考とディープラーニングの仕組みは異なりますし、1950年代にMIT
で生まれたシステム思考とかたや1990年代に生まれたディープラーニングでは出自も異なるのですが、根本のところでは同じ目的を持つ、というところが興味深いです。

AI時代に求められるのは社会システムをデザイン(設計)できる人

つまりは、この複雑な社会の課題解決手段として、ビックデータ収集、そしてそのデータを結びつけて、因果関係を解ける人が、このAI時代勝ち残っていけるのではないでしょうか。
そのうち、ビックデータの収集は、コンピュータやデータベース、あるいはGoogleに任せればいいので、私たちは様々なデータの繋がりや関係性を見抜く事ができるかどうかが問われるでしょう。
「イシューからはじめよ」の著者としても有名なYahoo!のチーフストラテジックオフィサー(CSO)の安宅和人氏は、「AI時代の三種の神器はデータ、処理能力(チップやデータセンター)、そしてそれらを扱える人材だ」と経済産業省の審議会で述べたそうです。
この「扱える人材」とは、もちろんAIコンピュータのオペレータを指すわけではないでしょう。(もちろんAIコンピュータを創れるひとは生き残れるでしょうが。。)
AIと同じく、課題解決ができる人。
システム・ダイナミクスの現在の第一人者MITのジョン・スターマン教授は、ダイナミックな複雑性が増すこの世界で、効果的な意思決定や学習を行う為、私たちは「システム思考家」にならなければならない。と著書で述べていますが、まさにそういう人材だけが、AI時代生き残り、勝ち組となるのではないでしょうか。