イノベーションは技術革新と訳されますが、これはある意味「誤り」「誤解」です。実際の意味は「新結合」。イノベーションを定義した、シュンペーターによれば、資源、労働、機械など生産のために必要な要素をそれまでとは異なる仕方で新しく結びつけ直すことが、新結合すなわちイノベーションです。

つまり新たにシステム(要素とその相互作用)を作ることがイノベーションであり、システム思考なくしてイノベーションは語ることができません。

日本で「技術革新」という訳がなされたのは、1958年の経済白書が最初と言われています。
技術革新は「technical innovation」あるいは「Technological innovation」で、Innovationのひとつです。
シュンペーターは、イノベーションのタイプを5つに分類しました。
・新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
新しい価値を生み出すものの生産。20世紀初めの自動車、20世紀後半のコンピュータ、インターネット。
今世紀に入ってからのスマートフォンなどが挙げられます。

・新しい生産方法の導入
ソフトバンクが買収したARMは、半導体設計の委託という新たな市場を開拓しました。
AIやIOTを第四次産業革命もこの新しい生産方法の導入になります。

・新しい販路の開拓
インターネットを活用したEコマース。中でも電子書籍やデジタル音楽(iTunesなど)は、私たちの生活様式も変え用としています。

・原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
再生可能エネルギー、炭素繊維、最近ではミドリムシ(ユーグレナ)にも注目が集まっています。

・新しい組織の実現
従来の系列関係とは違った企業間関係。クラウドサービスやシェアサービスの普及は、所有を前提とした組織を変えようとしています。
クラウドファンディングフィンテック活用による従来の金融組織の革新、クラウドソーシングなど個人が企業組織と同等な関係になるケースも増えています。

イノベーションのジレンマ

少し前から話題になっているのが、「イノベーションのジレンマ」。

顧客の声を聞いて、改善を行ってきた製品が、いつの間にか、それまで全く見向きもされなかった「ちゃちな商品」に置き換えられてしまう現象をいいます。
クリステンセンの同名の著書で有名になりましたが、優良企業が合理的に判断した結果破壊的イノベーションの前に敗れ去る。優秀で真面目な経営者ほどこのジレンマに陥ります。

日本人や日本企業は、このイノベーションのジレンマに陥りやすいと言えそうです。
顧客の声を聞き、全身全霊で顧客のために製品を改善していく。
これぞ日本企業の価値の真髄とも言えますが、その日本企業が、アメリカやアジアのベンチャー企業に次々と敗れ去っているのは、このイノベーションのジレンマに陥っているという面も大きいのではないでしょうか。

イノベーションにシステム思考が必要なわけ

上述したように、イノベーションは「新結合」と訳されます。
言葉の意味から誤解されがちですが、イノベーションとは「ゼロから1を生む」とは言われますが、「何も無いところから、なにか新しいものを生む」のではありません。
既存のあるもの(要素)と別のもの(要素)を結びつけて、新たな価値を生むのがイノベーションです。
エジソンの発明した電球。
様々な物質に電流を流すこと、そして熱を加えると光を発することは、エジソンの時代にはすでに知られていました。
エジソンの努力は、そのための物質は何が最適なのかを調べることでした。
そして日本の竹が適しているのを実験で確かめた結果、竹のフィラメントを使った電球を発明したのです。
竹も電気も既存のものですが、エジソンはそれを結ぶことで新たな価値をつくりました。

蓄音機の発明も同じです。
音が振動によって生まれている波であることは、もちろんエジソンの時代にも知られていました。
実際、人類の発生とともにある様々な楽器はものを叩いたり弾いたりして振動の幅や強さを調節することで、様々な音色を作り出すものです。
「音」そのものを保存することは難しい。(現在の技術でも)
しかしながら振動の記録を残すことは不可能ではない。
音が鳴る→物が振動する→振動の跡が残る。
この因果関係は誰もが知っているものです。エジソンがやったことは、電球のときと同じく、それに適した物質を調べることです。
そうして試行錯誤を重ねて、ろうを塗った筒に針を当てて、振動を針の先に伝える。
現在の私たちの生活を支えている様々な記録媒体の元祖が生まれた瞬間でした。

ソフトバンク創業者の孫正義氏は、学生時代に「毎日1発明」の訓練を自分に課していたそうです。
その方法は、ある単語を書いたカードを大量に作り、毎日無作為に3枚ひく。そしてその3つをつなげて強引に今までにないものを考案するというものです。
例えば「コーヒー」「新聞紙」「帽子」・・・。
「新聞紙で巻かれた帽子型コーヒー焙煎機」。わけがわかりませんが(笑)、こういう訓練を毎日行っていたわけです。
そうして学生時代中に発明したのが、音声型自動翻訳機で、この権利を1億でシャープに売ったことが、その後のソフトバンクの原点になっているのです。

このように要素と要素を結びつけて、新たな価値を生むこと。
これは、上述のように「システムを創ること」にほかなりません。
システム思考の定義である「世の中をシステム(要素と要素の相互作用)と捉え、課題解決を図る」。と「要素と要素を結合し、新たな価値を生む」は、まったく同じことを言っている。というのは言いすぎかもしれませんが、かなり近いことを言っているというのは誰もが認めることでしょう。

実際にシステム思考を活用しイノベーションを生む方法はこちらでまとめました。