私たちの夢の対象が社会システム(政治・ビジネスなど人がつくったシステム)が対象のものであるならば、それをかなえるためのメソッドとして、「システム思考」を身に着けることで、その夢の実現に近づくことができます。

システム思考は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のジェイ・フォレスター教授の開発した「システム・ダイナミクス」が基となっています。
システム(社会システムや技術システム)を構成する要素の動き(ふるまい)や要素感の関係性に基づいてシミュレーションを行う。そのことにより、そのシステムの目的を達成するためには、どのようにすればよいか、目標の達成を阻害する原因がどこにあるのかをシミュレートでき、対策を打つことが可能になります。
当初は、企業活動のシミュレーションを目的に、インダストリアル・ダイナミクスとして始まり、その後都市開発(アーバン・ダイナミクス)や、地球環境問題や資源問題(ワールド・ダイナミクス)の問題解決・課題解決のツールとして企業、政府機関、NGOなど様々な分野で使われてきました。
システム・ダイナミクスでは、コンピュータを使い、数値シミュレーションを行いますが、システム思考(システム・シンキング)では、数値シミュレーションによらず図に書いた構造化からその特徴を把握したり、システム全体のふるまいを予想するものです。

そしてMITのピーター・センゲ博士は、「システム原型」=いわゆる「システムの型」の発見によって、社会にまつわる多くの問題が、実は数種類にすぎず、その数種類の組み合わせが、多くの複雑な問題になっていることを見出しました。
逆に言えば、数種類のシステム原型(=ほとんどは2、3個の円を描くだけで表せます)を理解することで、世の中の課題、ビジネスや政治経済、人間関係など、多くの課題解決につながります。
もちろん、システム原型は、柔道や剣道の「型」と同じなので、頭で理解しただけですぐ実践というわけにはいきませんが、型を覚え、ちょっと経験や訓練を積めば、だれでも使いこなせるようになります。

システム思考は、紙とペンがあれば誰でも取り組むことができます。
米国では小学校からシステム思考を学ぶカリキュラムがあるほどです。

物質(例えば製品など)の流れを表す「ストック&フロー図」そしてシステムの構成要素の因果関係を表す「因果ループ図」。
この2種類だけを覚えれば、システム思考をマスターすることができます。

システム思考を活用した地球温暖化モデル

一方国内では、2008年に新しくできた慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科においてもシステム思考の研究と実践が行われています。
慶応SDMで扱う「システム思考」では、既存の社会システムの問題把握や課題解決にとどまらず、新たな社会システム、例えば起業であるとか街づくり、あるいは企業内のプロジェクトや新たなアイデア(イノベーション)の実行などの設計や実践等、より広い視点から「システム思考」を捉えています。

学内では宇宙ロケットの設計している人の横で街づくりの研究をしていたり、ビジネスの新しいアイデアを設計していたり、それぞれが真正面から議論していたりという風景がふつうにみられます。

大規模なプラント建設や宇宙ロケット開発など数百万点の部品やサブシステムを持つ大規模システムの開発で使用されるVモデルのメソッドを様々な社会分野で応用します。

Vモデルとは、システムの要求定義を行い、その要求定義に沿って、サブシステムに分解しサブシステムや製品の開発してそれを統合していく一連の流れを記したモデルです。
ただソフトウェア開発に見られる要求定義→開発→検証というウォーターフォールモデルに形は似ていますが、一番異なるのはMITのシステム思考、ループ図と同じように、常にフィードバックの流れがある点です。
かんたんなソフトウェアのようなシステム開発であれば、その発注者(依頼主)からやりたいことを聞いて、そのやりたいことをまとめたもの(要求定義)に沿って設計開発し納めれば済みます。

しかし大規模なシステム、あるいはビジネス設計などのような社会システムでは、発注者ひとりを考えればよかった小規模なシステム開発と違い、様々な利害関係者(ステークホルダ)の調整も必要となり、それがまた構築しようとする、あるいは構築中のシステムの中身にも関係し、修正したり調整したりしなければなりません。

一見小さいシステム開発に見える「個人起業」という社会システム開発であっても、構想していた商品やサービスをリリースすればよいわけではなく、潜在顧客や既存顧客、資金提供者、競合など様々なステークホルダの常に変わりゆく「ふるまい」を想定しながら、満足を満たしたり調整したり策を打ったりという行動(あなた自身のふるまい)がまた、まわりに影響して・・・ということを踏まえた設計をしなければいけません。

慶応SDMのシステム思考」では、小さいところでは人間関係の構築から企業や地域社会、地球環境に至るあらゆるステークホルダからの多様な要求を確実に定義し、情報共有し、システムの全体像を設計することができるようことを目指しています。

慶応SDMのVモデル
(慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科HPより)