国連人間環境会議からちょうど50年の日

今日6月5日は、国連地球環境デーであり、日本でも「環境の日」と定められています。
今からちょうど50年前の1972年6月5日、世界で初めての国際環境会議である「国連人間環境会議」がストックホルムで開催されました。

1950年代から60年代のいわゆる高度成長期で、日本だけでなく世界(先進国)に車、テレビなどの家電製品を始めとする生活を豊かにする製品が行き渡り、人々の暮らしは豊かになりました。

しかしこの頃から、大気汚染や水質汚染などの公害が人々の健康を蝕み始め、先進国と発展途上国の格差(南北問題)、食糧問題、気候問題など一国だけでは解決が不可能な問題や課題が浮上し始めました。
「地球はいつまで人類の棲息を保証できるのだろうか。」このような危機感を持った人たちの働きで、上述の国連人間環境会議や、その少し前の1968年「ローマクラブ」などが発足したのです。

会議の準備段階などで、「かけがいのない地球(Only One Earth)」、「宇宙船地球号」など今も知られるキャッチコピーも創られましたが、さまざまな国の政策立案者との討論でも、その反応は、漠然と世界の危機は感じてはいても「考える暇がない」「未来はなんとかなるさ」という有様で、さしたる成果は得られませんでした。

そこで方針を転換し、「コマンドー作戦」が採用され、ショック療法的な「突破作戦」が行われることになりました。

この「コマンドー作戦」を依頼されたのがMITのジェイ・フォレスター教授のチームです。

デニス・メドウズを主査とする16名のコマンドーチームで、システム思考(システム・ダイナミクス)による世界規模のシミュレーションが行われました。

「World3」と名付けられたシミュレーションモデルは72年3月に「成長の限界」(The Limit of the Gloth)とタイトルが付けられて出版されました。

「成長の限界」はショック療法にふさわしく衝撃的な反応が世界を駆け巡りました。

その結論を言うと、「今のままの経済体制(特に先進国の消費行動)を続けていくと、100年以内に環境汚染の拡がりと資源枯渇により地球の成長は限界に達する」というものです。

併せて「消費行動の適切な抑制、自然エネルギーや循環(Regenerating)の導入等による、自然との共創や持続可能(sustainable)な世界を創っていかなければならない」というメッセージが打ち出されました。

「World3シミュレーション」は、その後の国連の「持続可能な開発目標(Sustainable Developlent Goles)」、SDGsへと繋がる貴重な第一歩となったわけです。

成長の限界

World3シミュレーション

World3シミュレーションは、上述のようにMITのジェイ・フォレスター教授のチームで約2年がかりで開発されました。
ジェイ・フォレスターが開発したシステムダイナミクスという手法で、地球環境にかかわる100を超える因子を抽出し、そのデータ及び相互作用を調べることで、複雑な社会のシミュレーションを行うものです。

下図がそのモデルとシミュレーション結果のグラフです。
このシミュレーション結果では、21世紀半ばには地球の環境負荷が限界を迎え、経済活動、人口ともピークとなりその後停滞や減少を迎えます。

レポートでも強調されていたのですが、このピークから減少への道筋は、徐々に訪れるというよりも、ある閾値を超えた瞬間、急激に起こる。
あたかも人間の身体の不調がある日急に起こるように、地球のカタストロフィーも同じような感じで起こるということです。

WORLD3モデルとシミュレーション結果

システム思考での「成長の限界」

World3モデルで使われたシステムダイナミクスの手法は、その後「因果ループ図」と言われる手法に発展しました。
因果ループ図は、システムダイナミクスで使われる要素とその繋がりを定性データとして抜き出したもので、定量分析には向きませんが、視覚的にわかりやすく、初心者にも扱えるようになっています。

この「成長の限界モデル」を限りなくシンプルに表したものが、システム思考の分野で「成長の限界」と呼ばれるシステム原型です。

最もシンプルに「成長の限界」を示した、因果ループ図(システム原型)

左のループが、消費活動が経済成長につながるループです。
消費が経済成長に繋がり、経済成長がまた消費を生む。際限なく増えていきますから「自己強化ループ」と呼ばれます。

しかし、人々は往々に右側のループもあることを忘れがちです。
消費には「資源」が必要ですが、これは有限のもの。日々の活動の中で、地球のキャパシティは無限のように感じますが、実は地球というのは「以外に小さい」。

車を持っている人ならおわかりと思いますが、週に数回、自分の近所や近県しか車でいかなくても、地球一周にあたる4万kmには車検(2~3年)までかからないのではないでしょうか?

右側のループはバランスループと呼ばれていますが、これは右側の「環境負荷の上限」に達するまで回り続けますが、その上限に近づくと急に回らなくなります。

だから私たちはこのことに「気が付かない」。あるいは「気づいたときにはもう遅い」という状況になりがちなのです。

このようなことは、地球環境問題だけでなく、私達を取り巻く個人的、あるいは社会的な問題や課題で常に「起こっていること」でもあります。

だからこそ、システム思考で、自分や自分たちとまわりの相互作用を可視化してみることが有効に働きます。

研究メンバーのその後

World3の研究メンバーは「システム思考」の分野で活躍しました。ジェイ・フォレスター教授の元からは、メドウズ夫妻のほか、ジョン・スターマン、ピーター・センゲらがビジネス論や組織論へのシステム思考の応用で活躍。

世界で3000万部のベストセラーになった「成長の限界」の筆頭著者となったドネラ・メドウズは研究者から実践者への道を進み、米国の北西部のバーモント州で「Cobb Hill Cohousing」という環境との共生を実践するエコビレッジの開設に尽力しました。
彼女は1999年に亡くなりましたが、その意志を継いだメンバーによって2002年に開村しました。彼女の名前はCobb Hillに併設された研究機関、「Donella Meadows Institute」(旧Sustainability Institute)にその名が残されています。


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