システム思考とは

・システムとは
システム思考というと、何か人間味のない冷たいイメージを与えると考える方もいると思いますが、これは他の「思考」たとえば、論理思考とかロジカルシンキングと呼ばれるものに比べ、非常に人間臭い思考法です。
なぜなら、人間関係に代用される「繋がり」とかお互いの関わり(相互作用)に着目している思考法だからです。

そもそも「システム」というと、一般の人は「コンピュータシステム」とか機械をイメージしがちですが、これは「システム」という言葉の一部を表しているに過ぎません。
スポーツの世界(サッカーの「3-3-4システム」とか)や、「社会システム」など広くこの言葉は使われています。
システムズ・エンジニアリング(システム工学)の世界的団体「INCOSE」では、システムを「目的を成し遂げるための、相互に作用する要素を組み合わせたもの」と定義しています。
この記事の主題に言い換えれば、「幸せになるため、あるいは夢をかなえるため、関わる人たちと、どう繋がるか」を考えるのが「システム」であり、システム思考の一つの形です。

一方よく比較される論理思考とは、「要素を分解して、その要素は何でできているかを調べて物事の原因を分析する」思考法です。幸せについて考えると、「幸せとは一体何か」「幸せは何でできているのか」を問うていきます。例えば「お金」とか「健康」とか、その構成要素を調べて、ではどうやってお金を稼ぐか、などと考えていくのが、論理思考です。

・アドラーの教えとシステム思考
心理学の世界でいうと、フロイトは論理思考、アドラーはシステム思考の考えに近いと思います。
人間の精神を分析して、それを顕在意識と潜在意識にわけ、悩みや精神疾患の原因はどこにあるかを調べ、その原因を取り除く治療をしたのがフロイトです。
一方アドラーは、「すべての悩みは対人関係に起因する」としていて、システム思考に近い考え方です。
現在のように複雑な社会では、原因を特定できたとしても、そこから解決に導くのは簡単ではありません。精神疾患の原因が、子供時代の親子関係にあったとしても、いまさらその体験を変えることはできません。薬をつかっても副作用があったりします。
近年、アドラーが注目を集めていることも、現代の社会の複雑さがますます増していることと無関係ではなさそうです。

・人間関係をシステムと捉える
「システム思考」とは、物事や事象をシステムと捉えて、課題の解決を図る思考法です。
人間関係を例にすると、何かトラブルが起こった時、論理思考では、そのトラブルの原因を探ります。そして、自分が悪いとか、相手が悪い。相手のどこそこのこういう行為が悪い、などと原因を探ります。民事裁判を担う弁護士さんなどには論理思考は必須ですね。

一方システム思考では、要素を分解するのではなく、その繋がりや関係性に着目します。複雑に絡み合う因果関係をループ図などで表し、システム全体の姿を浮き彫りにします。
そうしてトラブルの原因を取り除くのではなく、システムのどこを押せば、システム全体がうまく回るのか、(レバレッジポイント(=梃子の支点))を探していきます。

あらゆる複雑な課題解決に役立つ

システム思考を活用した課題解決法として有名なのが、かつての犯罪多発都市ニューヨークを数年で安全な街に作り替えた「割れ窓理論」です。
1980年代までのニューヨークは、強盗や殺人事件などが多発し、ニューヨーク市警はその対応に追われていました。そしてスラム街などはギャングの巣窟となり、地下鉄は薄汚く切符の販売機や改札は壊され、無賃乗車は当たり前。地下鉄内は落書きで溢れている。警察は重大犯罪に追われていますから、そういった軽犯罪に対応する余裕がない状況でした。
そういう状況の中、市長に就任したジュリアーニ氏が行った政策が、上記の割れ窓理論に基づく施策でした。
重大犯罪の撲滅という課題に対し、レバレッジポイントを、壊された窓を修理して回ることに見出したのです。街を汚すことにより、それが犯罪を呼び込む。そして街はますます汚くなり、善意の人々は街に出歩かなくなる。そうしてますます犯罪者を呼び込む。
こういったフィードバック現象が起きているのが、犯罪都市なのですから、個々の問題(事件)に対応するだけでなく、このフィードバックを抑えるにはどうすればよいか。その答えが、街をきれいにすること。窓を壊すような軽犯罪を見逃さないこと。でした。

そしてニューヨーク市の重大犯罪発生件数を、数年間で四分の一にするという、劇的改善を達成しました。

個人の目的達成にも有効

このようにシステム思考は、企業の課題解決(インダストリアル・ダイナミクス)や、上記のような都市の課題解決(アーバン・ダイナミクス)だけではなく、現在では、温暖化問題に代表される地球規模の資源環境問題(ワールド・ダイナミクス)に活用されています。

しかしながら、もちろん個人がこの社会の中で自分の夢や目標を達成する、あるいは学校や職場、家庭の問題解決にももっと、このシステム思考が生かされるべきだと考えます。
例えば、家庭はとても小さな社会単位ですが、だからといって、家族の問題が簡単に解決できるというものではなく、複雑に入り組んでいて、なかなか解決できないことも多いのは、多くの人が実感しているのではないでしょうか?
家族というシステムの複雑性を多くの人が軽視していることに、家庭の問題の深刻さの一旦があり、これは学校の問題や職場の人間関係の問題などにも見られるのではないでしょうか?

システム思考を、個人間の関係や、目標の実現といったことに活かしていく、いわばパーソナル・ダイナミクスの浸透が、これからの教育や社会に必要なのではないかと考えています。