システム思考を身につけることで、視野が広がり、目標を達成するためのより正しい意思決定や問題解決が可能になります。
システム・シンキング(バージニア・アンダーソン/ローレン・ジョンソン著 日本能率マネジメントセンター)を訳された伊藤武志氏はその本の訳者前書きで、その理由を4つにまとめられています。

・短期的な視点による対応的な行動ではなく、長期的な視点による根本的な問題解決を可能にする。
・1つの要素を選んでそれを分析するのではなく、全体像を捉えたうえで中心的な問題を把握しバランスのよい意思決定を可能にする。
・物事の一瞬だけを捉えるだけでなく、時間の経過につれて動きを見せる現象を捉えることを可能にする。
・始まりと終わりがあるような直線的な考え方から、物事はめぐりめぐって戻ってくるような循環的な関係にあるという考え方の理解を可能にする。

「木を見て森を見ず」という言葉があります。わたしたちはつい、この木は何という種類なのだろうか?木はどんな成分からできているのか?木の細胞はどんな構造なのか?と細かく詳細に調べたくなります。
このように問題や事象を詳しく分析することを論理思考(ロジカルシンキング)と呼びます。これはこれで大事なことではありますが、ともすれば、細かく見てしまうがゆえに、森で今起きている問題を見過ごしてしまいがちです。

例えば、その森に獰猛な動物がいて、その森に住む他の動物たち襲う被害が出ています。そこでハンターたちを集めて獰猛な動物ををみんな狩ってしまいました。
それでその森に平和が戻り、めでたしめでたしとなったと思いきや、動物たちは天敵がいなくなったおかげでどんどん増え、木の葉や下草を食べ尽くしてしまい、森全体が滅びてしまいました。

人間に置き換えれば、地球環境問題にも同じことがいえます。
経済を成長させるために一生懸命になったおかげで、たしかに豊かな社会にはなりましたが、景観の破壊や公害問題で豊かな心とか健康を害する人もいます。温暖化問題を原因とする異常気象で被害にあう人もいます。

もっと身近な問題でも、例えば家族のために一生懸命働いたお父さんが、多忙で家族の為の時間が取れず、家庭関係が悪くなって、熟年離婚を突きつけられるという切ない話も聞きますね。

「家族をおもって一生懸命働いていたのにひどいじゃないか」という夫の論理。「結婚してもいつも家を開けてばかりで、淋しい気持ち全く考えてくれなかった」という妻の気持ち。論理的(ロジカル)に考えてどちらも間違っていません。
では両方が妥協して、「収入そこそこ、家庭の時間そこそこ」とするしかないのか?
これがロジカル・シンキングの限界です。

最近注目の集まるシステム思考では、「木も見て森も見る」ことができるようになりますが、これは1点だけを見るのではなく、森全体を見る目が養われます。、「森全体」とは空間的な広がりの把握だけではありません。
今後森がうなっていくのか、たとえばもっと広がるのか、あるいはやがて枯れ果ててしまうのか。
これには森をシステムとして理解する必要があります。森の中の食物連鎖をみる。これは森の構成要素である木や草や虫や動物や鳥の関係性を見ることですし、外部要因である太陽や雨や風を把握することも大事。
このように森の内外の要素と要素の繋がり、そしてふるまいを見ることによって、森の将来がどうなるのか、問題点がどこにあるのか知ることができる。
それがシステム思考のポイントです。

「森」に関しては私たちは外から見た観察者です。
しかし私たちが属している社会システム(例えば家庭・学校・職場・地域社会・地球)では、私たちはそのシステムの中でそれぞれの機能を果たしています。
そこでは私たち自身がシステムの一員であることを理解する必要があります。システムが私たちに影響を及ぼしている一方で、私たちもシステムに影響を与えているのです。これをシステム思考では「フィードバック」といいます。

私たちが豊かになろうと頑張った結果が、二酸化炭素の増加になって、それが遠い北極や南極の氷に影響を及ぼし、それが今度は私たちの住む地域の気象に影響を及ぼして、異常気象になったり、モルジブなどの南の島が国土全体を失うかもしれない危機に面する。

身近な問題でも、あなたはこんなことをつぶやいたことはないですか?
「良かれと思ってやったのに・・・・。」
これがフィードバックです。

ではいったいどうすればよいのか? もちろん答えを見つけるのは簡単ではありません。
しかしながら解決のヒントもまた、システム思考の中、フィードバックの中にあります。
思いもしなかった意外なことで悪い結果が自分の身に降りかかっているのだとしたら、逆に言えば解決のポイントもまた思いもよらない、意外なところに解決のポイントがあることにあります。
私たちは問題点のそばに原因あるのだと考えがちですが、原因も解決策もまた遠いところ意外なところにあることが多いのです。
有名な事例が、ニューヨークを犯罪都市から安全な街に、たった数年で作り変えた政策です。

システム思考によってシステムの問題、課題点を把握すれば、私達にも身の回りのビジネスや家庭、人間関係の問題など様々な課題解決のヒントを得ることができるようになります。