コロナ禍で、休業を余儀なくされたり、外出自粛でお客さんが来なくなったりと、多くの事業者が甚大な打撃を受けています。
しかしこのような状況下でも、ピンチをビジネスチャンスに変え、事業を拡大したり売上を伸ばしているところも珍しくはありません。
食の分野でも、レストランやカフェなどが打撃を受ける一方で、Oisixのように、「注文が殺到」しすぎて、受付を停止しているところもあります。
コロナ禍であっても国民の食べる量が減るわけではなく、消費がまったく無くなったわけでもありません。購入の経路や方法が変わっただけとも言えます。
外食産業では、宅配やお持ち帰り、通販(Eコマース)へとビジネスモデルや事業モデルの転換や新たなビジネスへの挑戦を試みているところもありますが、それだけで売上減少分を補うのは並大抵ではありません。
Youtubeなどの動画を使ったり、ブログやSNSを書いたり、宅配アプリやチラシのポスティングを行ったり。今では様々な便利なツールがあります。
勿論このようなツールの使い方を覚えようというのは悪くはないのですが、単にタッチポイント(顧客との接点)を増やすという発想では実はうまくいきません。
Eコマースが登場して20年以上になりますが、その間多くの企業や事業者が、リアルのビジネスをネット販売にも展開してきました。
しかし成功した会社は、ご存知のようにごく一部です。
それを今になって慌てて仕組みやツールを取り入れたところで、(当然同業他社も同じことを考えますし)ライバルがますます増える環境で、果たしてどれだけうまくいくのでしょうか。
「でも上記のOisixのように成功している事例もあるではないか。うまくやればウチだって・・」
という反論もあるかと思います。
これは、Oisixが今までのアナログとは違う「デジタルの思考」で新しいビジネス(事業)に取り組んだからです。
アナログのビジネスとデジタルのビジネスの違いとは
アナログのビジネスを図示化すると、下図の「バリューチェーンモデル」です。
生産・卸・物流・小売りまで仲間内で閉じられた世界です。
閉じられた世界なので、その中でいかに顧客などのステークホルダーを「囲い込む」ことができるかの争いになります。
顧客や取引先の数(リスト数)、製品やサービスの数をいかに多くするかという競争の世界です。
これをネットの世界に応用しようとしてもうまくは行きません。
なぜならネットは開いた世界。敵も味方も織り交ぜた呉越同舟で、サービスをプラットフォーム上に展開するアプローチです。上述のOisixもそうですし、アマゾンやアップルを始めとするGAFA、Uber、Airbnbなど成功している企業はみな「囲い込み」を行いません。
そうではなくてプラットフォームを開放し、誰もが相乗りできるような「共創モデル」を採用しています。
注意していただきたいのは、このモデルはインターネットの仕組みに詳しいと良いとか、ツールやアプリや覚えればできるとか「そういう次元の話ではない」という点です。
そういう意味で今回のコロナ禍で注目の事例があります。名古屋の飲食店の話ですが、まさにピンチをビジネスチャンスに変えた例です。
1万円でも100個完売…“外食自粛”で名古屋の9つの名店が『豪華特製弁当』 シェフ「家で味わって」
名古屋市中区の飲食店が集まって、1日限りの特製弁当を販売しました。
鴨肉とフォアグラをパテにした高級フレンチに、日本酒を使って仕上げた「豚の角煮」、
そしてデザートには、ミシュランガイド3つ星、「土方」から大ぶりの「寒熟いちご」を。
それぞれの特徴を生かした一品を持ち寄った幕の内ならぬ「丸の内弁当」。
和洋折衷、ふんだんに盛り込まれた、豪華な弁当。お値段は1万円で、この日限り100個限定の予約販売でしたが、即完売となりました。https://locipo.jp/article/f99646e4-08ab-4bdd-a55b-1599f619e9e5
このようなモデルは、今までのような「Value Chain」モデルではなく、「Layer Stuck Ecosystem」モデルと呼ばれています。「バリューチェーン」を囲い込むのではなく、共創する他の会社や他の事業という「レイヤー(層)」を垂直方向に重ねていくというイメージです。
GAFAなどのいわゆる「プラットフォーム戦略」を表すのによく使われますが、名古屋のお弁当の例でも同じなのがわかりますね。
お弁当というプラットフォームの上に、各店の自慢の料理が乗って、それぞれのお店の価値が共創しているのが「1万円」でも即売した理由です。
言うまでもなくこのお弁当の事例に、パソコンもインターネットも出てきません。
パソコンやインターネットを使えたり、ツールを活用することと、新しいビジネスを作ることは「関係がない」ことがわかりますね。
ではなぜ、名古屋のお弁当が成功したかというと、それぞれのお店の「強み」を持ち寄ることができたからです。
そして顧客の囲い込みをせず、共創することに成功したからです。
強み=価値(バリュー)とは何か
既存のビジネスに、デジタル(動画、SNS、ブログ、Eコマースシステム)を使ってご自身の商品やサービスを届けることができないかということは、誰もが考えられると思います。
しかしお店のメニューを単にSNSに載せたり、写真や動画をアップしたりしたところで、上述したように、正直それほど注目されることもないと思います。
それこそネット上には美味しそうな食べ物、興味深い商品やサービスの動画、写真、レシピの記事が山のようにあります。
そこにコンテンツが一つ加わってどれほどインパクトがあるでしょうか?
自分の強み=ビジネスモデル(事業モデル)の価値(バリュー)をもう一度見つめ直す必要があります。
ひとつ例をあげてみます。お蕎麦屋さんやラーメン屋さんの価値はなんでしょうか?
老舗の蕎麦屋では、「つゆ」や「かえし」を先祖代々創ってきたものに「継ぎ足して」使うと言われていますね。この場合、このつゆの作り方こそがこのお蕎麦屋さんの「価値」です。
例えばですが、神田の名店「やぶそば」の料理人による、「そばつゆの作り方」などという動画講座があったらどうでしょうか?
おそらく高い講座料を払っても受けたいという人がたくさんいるのではないでしょうか?
そしてその「そばつゆ」を通販で売ったら大人気でしょう。(実際に販売されています。)
このような「強み」あるいは「価値」(バリュー)を持って、YoutubeなりSNSといったデジタルプラットフォームの会社と共創する。そういうイメージで臨むのが「Layer Stuck Ecosystem」モデルでの成功の秘訣です。
今までの「Value Chain」モデルの考え方のまま、デジタルを単なる広告媒体や販売チャネルの一つくらいに考えるのとはまったく発想が違うのがおわかりいただけるでしょうか?
では自分の強みや魅力といった価値(バリュー)をどうやって見つけるか。ここではそのやり方について述べてみたいと思います。
バリューグラフ
自分の強みや魅力という価値(バリュー)を探索するのに役立つ手法のひとつが、バリューグラフです。
「バリューグラフ」は、製品やサービスを起点にして、下位方向に「How」つまり「具体的にどのように実現するか」を拡げていき、上位に、「Why」 「そもそも何の目的のためか」を考えていく手法です。
考案者の石井浩介スタンフォード大学元教授が著書「価値づくり設計」(養賢堂)で紹介したのが下図になります。
石井浩介 飯野謙次. 「価値づくり設計」:養賢堂 2008
例えば、新商品を考えたい場合、「Why」から考えて、その代替品を探索するというプロセスを行うとうまく行く場合が多いです。
「髪を乾かす目的」のためには、ドライヤーでなくても「電子レンジ」でもいいのではとか、いっそ「坊主にする」などという代替案(つまり新商品や新サービス)を考えることもできますね。
また今回のようなケースでは、併せて下方向、「How」を考えると、その製品やサービスの「強み」に近づける場合が多いです。
石井ドライヤーの場合、「モーター」「ファン」「ヒーター」などの項目がありますが、仮に「ファン」に関して他社にない技術を持っていたらどうでしょうか?
この「ファン」を利用して最上位の顧客にとっての目的(価値)を実現する手法が他にもできるかもしれません。
例えば、顧客の「健康維持」という最上位の目的のため「コロナウイルスのエアロゾルを吹き飛ばすファン」としてドライヤーを活用する方法というのもあるいは可能かもしれないわけです。
また、蕎麦屋さんの例で「バリューグラフ」をつくると下図のようになるかもしれません。
この「バリューグラフ」から、Why、目的であり顧客から見た蕎麦屋の価値である「家族団らん」と、Howを結びつけて、「つゆの通販」「レシピを活用したそばづくり講座」などで、現在のような状況下で、家族が家で楽しく過ごすことができるコンテンツを提供することができます。
そしてそれは理念である「美味しい蕎麦を気持ちよく」にも合致し、そばの魅力を伝え、お店のファンも増やすことにつながるでしょう。
このようなやり方で、ご自身のバリューグラフを創り、コロナ禍も乗り越える新しいビジネスモデル、新しいビジネスを創ることができると思います。
個別相談、もちろん歓迎します。
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