毎年6月に行われるAKB48グループの選抜総選挙。
要はその次に出るシングルCDの選抜メンバーをファンが決めるというだけ(?)のイベントですが、毎年芸能欄のトップで扱われたり、テレビが生放送で中継したりと、グループ人気と相まって社会の高い関心を集めています。

ネットを見ると「歌もダンスも下手」「アイドルとしてそんなに可愛くない」といった悪口も書かれていますが、だからこそマーケティング・ブランディングの観点で見ると、このグループの面白さがあります。

私自身は、このグループやシステムに精通しているわけではないので、間違いもあるかと思いますが、AKBおよび総選挙システムについて知っていることを書いてみます。

AKB48グループは、「会いにいけるアイドル」をコンセプトに2005年12月にデビューした女性アイドルグループです。
秋葉原に専用劇場を構えて、ここでの公演をベースに握手会などファンが直接アイドルに会えるイベントを多く行っています。
その中で人気が出たメンバーは、テレビ出演やアイドル誌などの雑誌に掲載され、普通のアイドル活動をおこなっていますが、大部分のメンバーはこちらから『会いに行』かないと会うことができません。
ただしGoogle+などSNSの活用を各個人がしていて、それぞれが自己プロデュースを行っています。
姉妹グループをいれると300人を超えるメンバーがいますが、当然彼女たちは「アイドルとして成功したい」「女優やタレントとしてステップアップしたい」などそれぞれの夢や目標を持っています。
しかし上述したように、彼女たちの中でテレビ出演できるような「有名アイドル」になれるのはほんの一部。それぞれのファンを巻きこみ、熾烈な競争を繰り広げられます。

そして同時に彼女たちはアイドルタレントという「商品」です。
企業(プロダクションやレコード会社等)からみれば、どの商品をどう売るかという戦略や戦術が重要なのはいうまでもありません。総選挙以外のシングルCDを歌うメンバーは、企業(運営)側が決めるので、その戦略・戦術に沿うメンバーが選ばれます。
ビジネス関係ですので当然のことながらメンバーやそのメンバーのファンから見て民主的に決められる制度では無いわけです。

様々な「商品」を発掘し、売り出そうとする企業。それぞれがまた別の夢や目標を持っているアイドルタレントという「商品」。商品を消費するばかりでなく、様々な機会(公演や握手会などのイベント参加、総選挙投票)で声を上げるファンという消費者。
これらが表立って結果の見える「素材」はそうそう無く、マーケットに興味ある者にとって、非常に興味深いものです。

総選挙上位者の顔ぶれを見ると、必ずしも「美人(あるいは可愛い)順」あるいは「歌やダンスが上手い順」ではありません。
その中で、20万票もの投票を受ける子がいる一方で、その10分の1以下の子たちが大多数という得票分布になります。
基本的には彼女たちは何百倍もの厳しいオーディションを勝ち抜いてメンバーになった子たちですので、みな魅力的な素材を持った人たちです。
当然最初は横一線。ファンの数はゼロです。

彼女たちは劇場公演や握手会などのイベントを通じて、ファンを増やしていくのですが、ここからは一様ではありません。上述したように美人であるとか歌やダンスのうまさというのは、決定的な要因ではないようです。

しかし、システム思考的に見て、法則(めいた)ものはあります。

それがこちらにも記した経路依存性です。

アイドルやタレントがファンを増やす行為は、まさに成長理論に沿っています。これは商品が売れる。成功を手に入れると同じことです。(だから興味深いわけです)

成長は、決して直線(リニア)にはなりません。毎日同じような活動したとして、1日10人ずつ、1年で3650人というふうには決してならないのです。
成長曲線は必ずS字カーブを描きます。
つまり初期段階では、指数的な伸びです。
1週目1人、2週で2人、3週目で4人という感じです。

バース曲線でも書いたように、広告などの手段で最初に広く告知してもらうのは取っ掛かりとして良い方法です。
しかし、運営側が鳴り物入りでデビューさせて、最初から顔が知られるメンバーもいますが、それが必ずしも後の成功に結びつくとは限りません。広告や媒体告知は、それだけでは直線の伸びにしかならず、指数的に伸びるメンバーにはかなわないからです。

ではどうすれば指数的に伸びるのか。
こちらを見ればその答えがありますが、正のフィードバックが起こるかどうかにかかっています。

具体的には、公演や握手会などに何度も行きたくなるようにすること。でも中には熱しやすい人がいて、短い期間に何度も通ったりお金を使う人がいますし、そのほうが短期的流行の波には乗りやすいかもしれませんが、フィードバック効果から考えると、細く長いタイプのファンを増やしたほうが後々成功します。
「◯◯さんは、面白い」「こんなところが魅力的」と、友達に言ったりSNSに書きたくなるようなものを持つ。
そのためには個性とか特徴(キャラ)といったものが必要です。
それが「かわいい」なのか「面白い」なのか難しいのですが、何かファンが人に言いたくなるようなもの。
とにかくAKBでいえば「握手会にまた行きたくなるような対応のよさ」が左右するでしょう。(ファンに媚びるのがいいのかツンデレがいいのかとか個別なことまではわかりませんが(笑))

これはあらゆる商品やサービスに言えることですが、目の前のお客に買ってもらうことと同時にあるいはそれ以上に、そのお客がリピーターになってもらうにはどうすればいいか、友達や家族1人にでもいいから、「この商品いいよ」と言ってもらうにはどうすればいいか。それを考えること、そしてそれを継続することが大事です。

実は、お客にリピーターになってもらう、口コミを(たった1人でも)起こしてもらうことの重要性をほとんどの人は知っていますが、これを継続的、持続的に行っている人は殆どいません。
なかなか効果は目に見えないからです。
どうしても人は、広告とかマスコミPRなど、目に見えるものを優先しがちです。

でもこの持続的なフィードバックを続けていくと、ちょっとずつS次グラフの角度が上がってきて、ある時期になって効果が実感できる時が来ます。
そうなると、このフィードバック効果がますます増えます。いわゆる雪だるま的に増える、という状況です。
こうなると、強者は強者のフィードバックが働いて、プロダクションのバックアップやマスコミの掲載がなされ、そうすると世間も「なんであの子が人気に?」という議論も起こり、それがまたフィードバックにつながります。

現在総選挙で上位にいる人は、それが意識的なのか無意識なのかにかかわらず、フィードバック効果を起こすことができた人です。
バタフライ効果のように最初はほんの小さな羽ばたきでも、ハリケーンが起こってしまうのがフィードバックの凄さです。
最初の羽ばたき、つまりきっかけは、運営側のプッシュなのか、歌やダンスの上手さなのか、顔やスタイルの良さなのか、性格や面白さなのか、そこに公式はありません。
もちろんそこには何かしらの才能が必要ですが、そういう才能はオーディションを勝ち抜き、デビューした時点で誰もが持っているものでしょう。
繰り返しになりますが、そういった才能はもちろん必要なものですが、その才能の種類や大小は決定的要因にはなりません。

小さくても羽ばたき続ける。(周りの空気とのフィードバック効果を起こす)
そんなところからハリケーンのような総選挙上位(爆発的に売れる商品)は生まれるものです。