なぜアート思考が注目されているのか

ここ数年、ビジネスパースンの間でアートやアート思考が注目されています。
その理由は、不確実な世の中で、個の思想や感性が重要視されていること、「パーパス」「SDGs」「ESG」などという言葉が聞かれる最近の経営環境の中で「何のための仕事なのか」意味や意義が社会からも問われていること等いくつも挙げられます。

ここでは「自律型人材」あるいは「自律型組織」の観点から、アート思考について述べてみたいと思います。

アーティストと自律型人材

アーティストとは、日本語では芸術家と訳されますが、「芸術作品(アート)を創作・創造し、表現する人」です。デザイナーも近い存在ですが、デザイナーの場合、クライアント等の依頼を受けて、そのクライアントのために創作、創造するのに対し、アーティストは自分の意志で行うのがその大きな違いとなります。

デザインとアートの違い

 
ここでアートやデザインと少し離れて、「仕事」を考えてみたいと思います。
多くの場合、仕事は誰かの依頼を受けて行います。
「会社員」「サラリーマン」が典型ですが、上司の依頼(命令)を受けて、言われたとおりに業務を行う。上司がイメージするもの通り忠実にできる人が高い評価を得る仕組みです。

あるいは、言われたことをその通りやるばかりでなく、「改良」「改善(カイゼン)」を行って期待以上の成果を挙げる人もいます。
特に20世紀後半の高度成長期、日本の製造現場では、「QC活動」などを通じこのような人材を多く輩出し、性能の高い製品製造の原動力となって日本経済の発展に寄与してきました。
これは上述の区分で言えば、「デザイナー型人材」と言えます。

「デザイン思考」は2010年頃、米国のデザインファームのIDEOなどの手法が紹介されたことで、日本でもブームになりましたが、それまで日本で普及していたKJ法と多くの部分で共通していました。(実際にKJ法がもとになったデザイン思考の手法もあります。)

いずれにせよ、誰か(上司やクライアント)からの指示、命令、依頼を受け、そのとおりにあるいはそれ以上の成果を出していれば、高い評価をうけることができるのが、ビジネスという社会の「常識」でした。

しかし今世紀に入ってその「常識」あるいは「前提」は覆りました。
90年代に始まったIT革命がもたらしたのは「情報の非対称性の解消」です。

今まで「情報」というのは、社会のエリート層が握っており、そこから一方的にもたらされる情報によって世の中を動かすことが可能でした。

例えば昔は「流行」や「流行語」などというものの多くは、古くは新聞、そしてその後はTVCMが創ってきたことをご記憶の人も多いでしょう。(だから「電通支配論」みたいな陰謀論めいたことが未だに語られたりするのでしょうが(笑))

正しい情報はエリート層、会社で言えば上司が握っているのだから、下の人間はそれに従う。これが社会、特に会社組織では当たり前の行動で、それがうまくデキる人が評価され出世したわけです。

しかしIT革命によって「情報の非対称性」が解消されると、情報の発生元に近い「現場」、わかりやすくいうと「消費者自身」が情報を握り、逆に現場から遠く、しかもITに疎い「エリート層」のほうが世の中がわからず、適切な指示が出せないという逆転現象が生じています。

つまり現代のビジネスシーンでは、誰かからの指示、命令、依頼を受けて動く人材ではなく、周りの状況を観ながら自ら考え判断し行動できる「自律型人材」である必要があり、今までのデザイナー型人材というより「アーティスト型人材」が求められるということなのです。

しかしながら、日本の教育体制は、いまだに戦時体制、すなわち上官の要求に(無茶なものでも)応えられる人材の育成というフォーマットに則ったものであり、その上会社の就職でも「体育会系」がもてはやされたように、アーティストやデザイナーどころか仮面ライダーの戦闘員、スター・ウォーズのストームトルーパーのような人材(?)が求められていたものです。(その人材が今の日本経済の第一線にいるわけです!)

ストームトルーパーからフィンのように覚醒(解りづらい説明ですみません(笑))できるようにするにはどうしたらいいか、という答えのひとつがアーティストの思考法を学ぶこと、すなわち「アート思考」が求められている理由なのだと思います。

ストームトルーパー(https://starwars.disney.co.jp/movie/r1/character/character09.html)

自律型人材とアート思考

自律型人材で求められるのは、自分の頭で考え行動(表現)ができることです。しかも自分勝手ではなく、周囲と協調、共創ができる必要があります。
上記の図で表したように、相手に共感できると同時に、自分自身にも共感してもらう表現力、行動力が求められるのです。

アート思考における「共感」をまとめると下図のようになるでしょうか。

アート思考の「共感の構造」

相手のことだけを考えるのではなく、自分のことだけを貫こうとするのでもない。
これが「アート思考の共感」だと考えます。

そしてこのような事ができる人が、「自律的人材」であり、ブレーク・スルーを産むイノベーション人材でもあるのではないでしょうか。

私達のアート思考を活用したセミナーやワークショップでは、絵画鑑賞ワークショップやを通じた共感と意味の醸成、ビジネスイノベーションのための『アート思考』ワークショップ」を企業や学校などで行い、導入も進められています。


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