令和時代が明けました。令和元年の初日、5月1日の日経MJの一面は、「(平成生まれ、令和を語る)「共感」次代の主役に」です。
新時代、消費のけん引するのは、平成生まれの若者たちかも、ということで、インフルエンサーの菅本裕子(ゆうこす)さん、直木賞作家の朝井リョウさんらに令和時代の消費スタイルをインタビューするという内容です。

共感消費の時代

令和時代の消費スタイルは何か。ゆうこすさんは、「共感が大事」と言います。「これまでのアイドルは老若男女みんなに愛されることが求められてきました。共感する人がクラスに一人の割合であっても、全国に輪が広まればフォロワーは150万人になります」そしてそのためには、「本気で好きなことにぶつかるしかない」「そうするとそれを(SNS等で)見た人が、自分の気持ちを代弁してくれる人に共感して、『言ってくれてありがとう』『その気持ち、わかる』と拡散する」と言います。(「」文章は日経MJ記事より引用以下同じ。)

博報堂若者研究所のボヴェ圭吾氏は、平成生まれの若者を「非連続性の時代を生きてきた感覚を持っている」と評しています。ボヴェ氏によれば、平成生まれが主流となる令和時代は「個人の時代が到来する」と指摘しています。製品やサービスは消費者一人一人のニーズにこたえる必要がある。すでに大量生産・大量消費を前提にしたメガブランドは若者に飽きられ始めています。「20歳前後に最も好きなファッションブランドを聞いたところ『特になし』だった」とSHIBUYA109ラボの長田麻衣所長は語っています。お仕着せのブランドには目を向けず、「本当に好きだったり、共感したりできる商品にはおカネを惜しまない」

日経MJはこのように今後の消費のキーワードを「共感」としています。「作り手や製品のストーリーに共感してもらう時代になる」としています。

この「共感」という言葉、もちろん平成時代も言われてきた言葉です。取り立てて新しい言葉ではありません。ただここで注目していただきたいのは、消費者やユーザーに「共感する」ではなくて、「共感してもらう」という点です。

「製品開発では、ユーザーに共感することがまず大切な事」と言われてきました。
デザイン思考でも、5つのダイアグラムで、なによりまず「共感(Empathize)」が挙げられていることでもわかるでしょう。
デザイン思考では、ユーザーやユーザーの振舞いをよく観察し、ユーザーの気持ちや感情に「共感」することが、その第一歩です。

勿論この「ユーザーに共感すること」は、令和時代も大事なことです。
しかしながら、現在のような競争過多で、時代の変化が激しい時代、これだけでは生き残れないのも事実。

平成の時代とともに始まった、デジタル経済、インターネット経済の波。その中で日本は「モバイル」「携帯電話」の分野で世界をリードしていました。
車にせよ電化製品にせよ、日本企業は製品をコンパクトにして使いやすくする。そしてユーザーのきめ細かい要求にも丁寧に答え製品を改善し続ける。という能力は世界一であり、携帯電話も1980年代の登場から、わずか10年足らずで下図のような機種が登場するまでになりました。(右は1999年に発売された富士通の機種F501i HYPER、世界初の携帯IP通信サービス「iモード」対応1号機)


そしてほぼすべての大手電機メーカーがこの市場に参入して競争にしのぎを削ったのですが、気が付くと、どこも同じような機能、同じようなデザインに。
つまりすべての企業が、お金をかけて市場調査を行い、ユーザーインタビューなどから、ユーザーの要求や振舞いに真摯に答え、携帯を持つ手の機能を研究し、UI/UXを行った結果、同じような形態が並ぶという結果となったのです。

下図は2007年に発売された携帯電話。全部違うメーカー(Apple, Sony, シャープ, 三洋電機)製品ですが、どれがどこの製品なのか答えられる人いますか? (1社はすぐわかると思いますが。(笑))

ご存知の方も多いと思いますが、Appleは「市場調査」をしない会社として有名です。
登場したころのiPhoneは、日本各社の携帯電話製品に比べ、ユーザーに優しい商品とは必ずしも言えませんし、WEBページが観やすかったり、iPodがそのまま使えること以外はそれほど機能的ともいえない。

でもiPhoneの発売日には、全国のAppleストアに徹夜で並ぶ行列ができるなど、「Apple信者」「ジョブズ信者」が多数出現。

つまりAppleはユーザーに共感するというより、「共感される」会社として、「時価総額世界一」企業となりました。
一時は倒産の危機にまで落ち込み、ライバルのマイクロソフトの支援を受ける程だったのがうそのようです。
そして、ユーザーに寄り添い、世界をリードしていた日本の携帯電話は、10年足らずでほとんどが撤退。自動車産業と共に日本経済の屋台骨だった大手電機メーカー各社も、かつての勢いをすっかり無くしてしまいました。

TVやビデオ・DVD・ゲーム機・携帯電話・ウォークマン・CD・PCなどかつて私たちをワクワクさせてくれた製品を次々と生んでいたかつての会社はもうないのでしょうか?

今こそ日本に必要なのは「共感する」ではなく「共感される」会社なのかもしれません。

具体的に、「共感させる」とは何か?
これこそまさにアーティストの思考法、「アート思考」です。

アート思考には共感が組み込まれている

アート思考(アートシンキング)に関する学術団体の「芸術思考学会」のウェブサイトによれは、この「芸術思考」について、『芸術家が芸術を生みだすときに使っているその思考プロセスを活用して、 豊かな生き方やビジネスを創造』することと記されており、その「芸術思考のプロセス」とは、『心の底にある気持ちをカタチにし、人と共鳴することで、新しいモノを生みだしていく』としています。

つまり下図に描いたように、自分自身の心を反映した作品(会社や製品)に対して、「共鳴、共感してもらう」思考法が、このアート思考です。

アートとデザイン

日経MJに話を戻すと、特集で取り上げられたゆうこすさんや、朝井リョウさんは、ファンや読者の共感を得ることに成功したアーティストであり、彼らの想いに反応した若者たちが「共感」することで、いわば「経済圏(=価値)」を創り出したということになります。

では一体どうすれば、そのような「共感消費」を産み出すことができるのか?
アート思考にその答えがあるのか?

今、そのことに関する論文を執筆中ですが、その一部について、5月18日に開催される「芸術思考学会ビジネス研究会」で発表する予定でおりますので、ご関心ある方は、学会の方にお問い合わせいただければ幸いです。

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芸術思考学会第6回ビジネス研究会
日時:2019年5月18日(土)13:00~15:00
会場:明治大学 リバティタワー6階 1064教室
参加費:無料

研究会アジェンダ:
1   「中小企業のオリジナルブランドの作り方」 
芸術思考学会 事務局長/株式会社カラーコード  代表取締役/明治大学サービス創新研究所客員研究員/静岡県地域づくりアドバイザー
浅井 由剛氏 

2 「Art Thinkingを新規ビジネスや製品開発に組み込む手法」
株式会社SALT代表取締役/
慶応義塾大学大学院SDM研究科付属研究所 研究員
島 青志 氏

3 芸術思考をビジネスに活かす オフラインディスカッションセッション ① 「音楽ダウンロードに変わった音楽業界で、アーティストはどうトレンドを読み、ビジネスモデルの変化についていったか」 
富士通株式会社 文教ビジネス推進統括部 ソリューション推進部 津久井広樹氏
芸術思考学会 副会長/株式会社 Leonessa 代表取締役 秋山 ゆかり氏

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