対話型絵画法(Visual Generative Strategies)-生成AI活用のコラボラティブ・アート-
「対話型絵画法」(Visual Generative Strategies)は、「対話型鑑賞法」や「コラボラティブ・アート」の手法を基に、弊社で開発したアート思考の手法です。
画像生成AIを活用して「対話をしながら絵を描く」ことで、言葉を通じてアイデアやコンセプトを共有し、アイデアやコンセプトをグループの仲間やAIと協働しながらアートを制作するワークショップです。
企業など組織の「創造性(イノベーション)」「多様な視点の結合や共感・つながり(コミュニケーション)の促進」「新たな視点の発見」そして「新製品や新サービスの具現化と共有」「会社や組織のパーパスの共有」に役立てることなどを目的としています。
この手法の基になったメソッドの一つ「対話型鑑賞法」は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)元教育部長のフィリップ・ヤノウィンらによって開発されました。現在では美術館などのほか教育現場や企業研修などでも広く活用されています。
鑑賞者は他の鑑賞者と対話を行いながら鑑賞することで、感想や観点を共有する機会を持ち、ディスカッションを通じて、作品に対する理解が深めることができます。
また、鑑賞者は作品を見て感じたことや考えたことを他の人と共有するだけでなく、自分自身と向き合い、深く考える機会を持ちます。このプロセスを通じて、自己の感性や思考を豊かにすることができます。
弊社でも「イノベーションのための対話型鑑賞法(Visual Thinking Strategies for Innovation)」を開発し、企業研修の「アート思考ワークショップ」の中で、延べ200人以上のビジネスパースンに実施して効果を上げています。
参考記事:イノベーションのための対話型鑑賞法(VTS for Innovation)
一方、対話を通じてアートを創造するプロセスは、「コラボラティブ・アート」(Collaborative Art)として知られています。
一般にコラボラティブ・アートは、複数のアーティストが協力してアート作品を制作する方法を指します。
異なるアートスタイルやアイデアが融合し、新たな創造性や意味が生まれることも少なくありません。コラボラティブ・アートは、アート作品自体だけなく、アーティスト同士の交流やコミュニケーションも重視されるアプローチです。
「複数のアーティストが一つの作品を創り上げる」 これを会社の業務やプロジェクトに置き換えて考えると、ビジネスパースンが日常行っていることでもあります。
あるいは地域社会や国や世界をひとつのキャンバスと捉えることもできるのではないでしょうか。ここに「アートの視点」を入れて、組織や地域の仲間とともに新たなものを共創する、このような新結合(=イノベーション)がコラボラティブ・アートの考え方、発想法です。
「対話型絵画法」の開発
「コラボラティブ・アート」は基本的にはアーティストのためのメソッドです。一方で普段絵を描かない人、絵を描くのを苦手とする人でも、生成AIを活用すれば、同じような効果をあげることができるのではないかという仮説のもと、弊社で手法の開発を進めているのが「対話型絵画法」(Visual Generative Strategies)です。
やり方は上述の「イノベーションのための対話型鑑賞法」(VTSI)を踏襲しています。
VTSIでは対象の絵画について、「どのように描かれているか?(How)」「何を感じるか?(What)」「そこにどんな意味があるのか?(Why)」についてそれぞれ付箋で書いていき、さらにそれぞれの項目がどのように繋がっているかを線で結びます。
(詳しくはイノベーションのための対話型鑑賞法(VTS for Innovation)を御覧ください)
有名なルネ・マグリットの「光の帝国」で、VTSIのワークショップをまとめたのが下図です。
「光の帝国」の対話型鑑賞法(VTSI)
「対話型絵画法」では、これらの付箋の言葉が「プロンプト」になります。
このプロンプトを「Midjourney」などの「画像生成AI」に入力をしていきます。
ここで大事なのは、プロンプトを入れる順番です。
Midjourneyでは、基本的に前に入力したものが重み付けされます。
対話型鑑賞法ではHow→What→Whyの順番で行いますが、「対話型絵画法」ではどうでしょうか?
実際にHow→What→Whyの順番、Why→What→Howの順番で、それぞれ入力して比較してみましょう。
対話型絵画法による「光の帝国」(How→What→Why)
対話型絵画法による「光の帝国」(Why→What→How)
上図のように、How(どのように描かれているか?)からプロンプトを入力すると、元の絵の構図に近いものが描かれます。
また下図のようにWhyから入れていくと、絵の構図は元のものと異なりますが、この絵の意味や作者の心象風景が反映されたような絵が描かれます。
やり方はもちろん自由ですが、このワークショップの目的から考えると、Whyつまり意味や意図から入力していくやり方が、目的にあったものができるのではないかと考えます。
対話型絵画法の実際
前項のような「対話型鑑賞法」→プロンプトの作成→生成AIへの入力、というのはあくまでも「対話型絵画法」のメカニズムを説明するためのものです。
企業研修や教育現場などで、実際にどのようなものを描いていくか、どのような効果が期待できるか、いくつか例を示してみます。
新製品・新企画のイメージの具現化と共有
新製品やサービス、新しい企画を立てる際には、ブレインストーミング(ブレスト)など様々な手法(デザイン思考のメソッド等)を行います。
大事なことは、新たな製品やサービス、あるいはプロジェクト等のコンセプトを明確にすること、そしてそれらを共有することです。
一例として、バルミューダの扇風機「グリーンファン」を挙げてみます。
NHKの朝ドラのモデルになるなど家電業界に(文字通り)旋風をおこしたバルミューダ。実は創業社長の寺尾玄氏は、家電メーカー出身でもデザイナーでもなく、ロックミュージシャンという異例の経歴の持ち主です。
彼はアーティストらしく、「どうすれば顧客の人生が良くなるのか」「製品でどのように世界の役に立てるか」ということを常に考えていると、寺尾氏は著書「行こう、どこにもなかった方法で(新潮社)」の中で書いています。
対話型鑑賞法(VTSI)でグラフ化したバルミューダ「グリーンファン」
寺尾氏の本の内容をもとに、グリーンファンの製品化の経緯を対話型鑑賞法の要領で描いたのが上図です。これをプロンプトと考えて、バルミューダの想い、商品コンセプト、さらには機能などのイメージを視覚化することができます。(下図は実際に生成AIで作成したイメージ)
対話型絵画法で描いたバルミューダ「グリーンファン」
このように「対話型絵画法」は、事業のアイデアややりたいことをイメージとして 具現化してくれます。
頭の中でもやもやしていたものを「絵画」という形にすることで、事業や新しい製品やサービスをイメージ化することができます。
イメージ化の結果、「これは思っていたのと違う」という結果になったら、またプロンプトをいじって可視化し直してみる。
何回でも何十回でも繰り返していくことで、きっとイメージするもの、あるいは思いもよらなかったものに出会えることでしょう。
1回の画像生成は数分程度で創れますし、何十回、何百回繰り返そうが生成AIは文句を言いません。
またグループワークとして行うことで、個人の想いやコンセプトをイメージとしてグループで共有したり、すり合わせていくことができます。
会社や組織のパーパスの共有
「対話型絵画法」は製品とか商品のように「形があるもの」ばかりでなく、ソフトウェアやサービスのような形のないものでもできますし、会社や組織というようなものを対象に考えることもできます。
パーパス(企業理念)の共有ということでは、私自身は2012年に会社を訪問したラスベガスに本社を置くZapposに学ぶことが多かったですが、この会社の有名な「10のコアバリュー」をプロンプトにして、生成AIで作成したのが下図です。
対話型絵画法によるZapposのコアバリュー
描いてある物自体はよくわかりませんが(笑)、Zapposのコアバリューである「Deliver WOW though service」(サービスを通じ「驚き」を届けよう)や「Enbrace and drive change」(変化を受け入れ、その原動力となろう)「Create fun and a little weirdness」(楽しさとちょっと変わったことを、創造していこう)などのコアバリューが視覚的に表現されていると思いませんか?
今では多くの企業で理念やパーパスを定めていますが、その「浸透」が課題になっています。文字として覚えるだけでなく、イメージとして捉える、さらには従業員自身の想いや人生の目標も併せてプロンプトとして入れるとどんなイメージが生成されるでしょうか。
社員や従業員の一体感を高めたり、想いや目標を見つめ直したり、というところでとても高い効果を上げることが期待されます。
現在、シミュレーションおよび実証検証中ですが、それらを踏まえ、秋からの「デザイン思考セミナー」「アート思考セミナー」で、「対話型絵画法」を実際に始めます。
また他にも生成AIを活用したセミナーやワークショップも予定しています。AIの技術革新は、今後も進んでいくと思いますので、積極的に取り入れて良いものを作っていきたいと思っています。