ブームが続く生成AI

生成AIブームが続いていますが、ほんの半年前まで、ITへの関心が特にないほとんどの人は、「生成AI」「ChatGPT」という言葉すら知らなかったことを思えば、この半年の動きはすごいものがありますね。

これから数年の生成AIの革命的な進歩はどれほどのものになるでしょうか?

何より考えなければいけないことは、生成AIの普及が私達の仕事や暮らしに与える影響でしょう。
この社会の変化に対応できる人とできない人では、大きな差がついてしまうのではないでしょうか。

その第一歩として必要なことは、生成AIの仕組みを知り、それをどのように活用するのか考えること、そしてAIではなく人間にしかできない創造性とは何かを考えることだと思います。
 
そのヒントは「アート思考」にあると考えますが、その点については後ほど述べていきます。
まずは、生成AIの要点について大事なポイントだけを簡単にまとめてみましょう。

生成AIの中核をなすテクノロジーが、2017年Googleが発表した「Transformer(トランスフォーマー)」というメカニズムです。
 
Transformerは、それまでの自然言語処理(AIによる文章作成や翻訳など)システムで主流だった、リカレントニューラルネットワーク(RNN)とは異なるアーキテクチャを持ちますが、その最大の特徴は自己注意機構(Attentionメカニズム)です。

RNNの処理の仕方は、単語一つひとつを逐次的に文章の流れに沿って積み上げて処理をしていきます。一方のAttentionは、データの要素(トークン≒単語)間の関連性を計算し、その情報を利用して文脈を理解します。

ぶっちゃけた言い方をするとTransformerは情報を一回バラバラに分解して、情報の要素の関連性や関係性を再構築するイメージですね。

これは、Stable DiffusionやMidjourneyなど画像生成AIのテクノロジーの基礎となっている「拡散モデル(Diffusion Model)」も同じです。この拡散モデルでは学習データの画像にノイズを加えてバラバラにします。そして画像作成時にはプロンプト(テキスト入力)の意味を汲み取って、逆拡散つまり収束を行って新たな画像を生成する仕組みです。
    
    

逆拡散(ノイズ→画像生成)

   
   

生成AIとアート思考の共通性

生成AIのアーキテクチャが注目される理由の一つは、そのプロセスが人間の創造プロセスと驚くほど似ていることです。生成AIはデータや文脈を要素に分解し、新たな情報を生成します。

 これは、芸術を制作するプロセスと共通しています。アーティストは観察や経験からアイディアを引き裂き、それを独自の創造物に昇華させます。

私たちは、このアート思考と生成AIの関連性に注目し、アート思考ワークショップの手法もアップデートしました。

この「アート思考ワークショップ」を最初に開発した1人が、フランスの名門ビジネススクールÉcole Supérieure de Commerce de Paris(ESCP)のSylvain Bureau教授ですが、彼が開発した「Art Thinking Improbable」では、「貢献」「逸脱」「破壊」「漂流」「対話」「出展」という6つのプロセスがあります。

私たちもこの6つのプロセスを基に、独自の手法を開発して主にビジネスパースン向けのワークショップを行っています。
ビジネス開発のためのアート思考ワークショップ手法

この6つのプロセスも、生成AIの拡散モデルと同じように、破壊と再構築という2つの大きなくくりに集約されることはすぐわかりますよね。
    
     

アート思考6つのプロセス

   
   
上図の左側の「対話」「出展」のプロセスが「再構築」にあたりますが、ワークショップの実際では、手元の素材から作品を作る、ビジネスモデルなどやりたいことを具体化して発表するなどのやり方を行ってきました。

この「対話」→「出展」の部分に画像生成AIを活用するのが新たなやり方です。
「対話」は言うまでもなく言葉で行われますので、言葉を基にしてアート作品、あるいは新製品やサービスなどのイメージをかたちにすることができます。

ただし実際にやってみるとわかりますが、言葉(プロンプト)から思い通りのイメージを生成するのって結構難しい。

ワークショップのプロセスでいうと、「対話」のところでグループの意思を「言葉」できちんと確認する必要があります。

つまりコミュニケーションの大切さを再確認することができるという意味でも、普段とは違ったワークになると思いますし、特にビジネスを目的にアート思考を活用しようとしている人には向いているワークショップになるのではないかと考えます。
  
   
そのほかに、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発され、現在多くの美術館や教育現場、企業研修などでも導入されている「対話型鑑賞法(Visual Thinking Strategies:VTS)」といわれる美術教育プログラムがあります。

VTSではファシリテータと対話(ファシリテータの問いかけに答える)をします。ファシリテータとの対話では「この絵ではどんなことが起こっていますか?」「この絵からどんなことを感じますか?」という絵の内容に関することや「どこからそういうことを感じたのですか?」という根拠を聞いたりすることで、そのアートに関する理解を深めたり、物事を深く観察し、その意味を汲み取る手法を学びます。

これも「対話」とあるように、アートを言葉に置き換える、転換することで、そのアート作品の本質に迫ったり、観察対象を深く考えるわけですが、対話型鑑賞が「イメージ」→「テキスト」の流れならば、生成AIは「テキスト」→「イメージ」という流れになりますね。

そしてこの2つの流れはちょうど「拡散モデル」と同じで、「イメージ」→「テキスト」が拡散、「テキスト」→「イメージ」が逆拡散にあたります。

弊社ではこの後者に当たるワークショップ、対話の言葉を「プロンプト」にして画像生成を行う「対話型絵画法」ワークショップをはじめました。
    
     

生成AIを活用した「対話型絵画法」

   
    
生成AIとアート思考は、破壊と創造のプロセスにおいて共通の原理を共有しています。これらを結びつけることで、私たちは新たな可能性を切り拓き、イノベーションへの道を開拓する。
生成AIとアート思考の融合は、新たなる創造的な時代を切り開く鍵となるのではないでしょうか。


日本能率協会主催「生成Ai時代のアート思考入門セミナー」