対話型鑑賞とは

Visual Thinking Strategies for Innovation(VTSI)は、弊社で開発したビジネスイノベーションのための対話型鑑賞法です。もともとVTSは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のフィリップ・ヤノウィン氏が開発した美術鑑賞法でアート鑑賞を、教養を高める手段として、あるいはビジネスに必要な思考法を鍛える手法として注目されているものです。

VTSのやり方と普通の鑑賞法の違いは、
1)ファシリテーターとの対話によって、絵画、そして絵画を見る自分自身と対話し気づきを得る。
2)普通の鑑賞のように絵のタイトル・作者を基に鑑賞するのではなく(多くの場合、それらは隠される。)、純粋に絵画そのものだけの情報から、その印象や感じられることを述べる。

といった点にあります。
 
ヤノウィンによれば、この対話型の美術鑑賞法によって、「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成することができ、また教育手法として美術のみならず、数学(算数)、社会、理科など他教科へも応用できるメソッドであるところが特長と言われています。
 

アート思考ワークショップでのVisual Thinking Strategies for Innovationの様子

 
VTSのやり方としては、ファシリテーターによる「何が起こっているだろう?」「どこからそう思う?」「もっと発見はある?」の3つの問いかけを順に行って、鑑賞者とコミュニケーションをします。グループの場合様々な意見や感想が生まれますが、自分と違う意見や発想を聴くことから、また新たな気づきを得ることができます。

VTSの発展形として、京都造形芸術大学のACOP(Art Communication Project)やはたらける美術館のArt for BIZがあります。細かい違いはありますが基本的な考え方や、進め方は同じで、ファシリテーターの主導で対話型鑑賞を行います。

ハードルが高い対話型鑑賞法

このように、対話型鑑賞法は教育やビジネスの関係者などから注目を集めているのですが、問題はどういった方式にせよ対話型鑑賞法に精通した「ファシリテーター」が必要な点にあります。ヤノウィンの著書などを読んでVTSのプロセスを勉強することでファシリテーター技法を身に着けることも可能とは思いますが、知識だけではなく場数を踏む必要もあります。(勿論すべての「ファシリテーター」に必要な事ですが)
 
手っ取り早いのは、VTSを実施している組織に依頼したり、セミナーやワークショップに参加したりすることですが、いずれにせよハードルがあります。

そこで私たちが開発したのが、ファシリテーターを必ずしも必要としない対話型鑑賞法である、Visual Thinking Strategies for Innovation(イノベーションのための対話型鑑賞法)です。

Visual Thinking Strategies for Innovation(VTSI)のやり方

下図は、昨年の日本ソーシャル・イノベーション学会で発表した、「「アート思考」を社会課題に繋げるフレームワークの提案」で示した、アート思考の「思考の流れ」です。
Why、What、Howと「自己言及」、「自省作用」が働いているのがアート思考です。

VTSIでは、この思考の流れに沿って、考えていきます。
用意するのは、ポストイットとペンのみ。

ひとつのアート作品を見ながら、数人でグループを作り、話し合いをします。
まず、「How」です。「そんなものが描かれているか」「どう描かれているか」という「事実」だけに注目します。
 
レオナルド・ダヴィンチの「モナリザ」でいえば、「右肩の後ろに橋が見える」「少しだけ左口角がやや上がっている」「こちらを見ている視線」「左手の上に右手を添えている」「構図が3角形になっている」とポストイットにひとつずつ書いていきます。
Howが一通り出し終わったら、What(その絵に対して、何を感じたか、どのように解釈するか)について、Howのときと同じように、ポストイットに書いていきます。

例えば、「謎めいたほほ笑み」「高貴な感じ」「聖母のような佇まい」といったポストイットが張られていくと思いますが、そのWhatの紙は、必ずHowと戦で結んでください。
例えば「謎めいたほほ笑み」は「少しだけ左口角がやや上がっている」と結ばれるという感じです。(1対1でなくてもかまいません)
 
Whatのポストイットを出し終え、Howと線で結び終わったら、まとめたり、つながりを結んだりして、「構造化」を行います。そしてそのアートに込められた意味や課題を見つける。あるいは自分に置き換えてみます。。なぜ(Why)作者はその絵を描いたのか、存在理由や意味、その背景にある社会の課題について意見を出し合います。

下図は、ルネ・マグリットの「光の帝国」でVTSIを行った際のものの一部です。


 

イノベーションのメソッドとしてのVTSI

VTSIは、その名前にもあるように、イノベーションのためのメソッドです。
 
それはこれを絵などアート作品ではなく、違うものに置き換えてみると、そのことが一層よくわかるでしょう。
下図は、コーヒーカップを対象にしたVTSIです。

コーヒーカップのHow、What、Whyを考えると、それぞれの部位がどんな機能を持って、そしてそれがどんな意味を持つのか整理できることがわかるでしょう。

このように物事を観察するやり方が身につくと、今度は、「それを変えてみたら、どうなるだろう」、「違うやり方でできないだろうか」ということが発想できるようになります。
 
例えば図のピンクで書いた部分がそれです。
「白い色の代わりに黒い色にしたら、ミルクならは美味しく見えるだろうか」「ホット用のストローがあったら取っ手はいらないかな」など「代替え案」も考えやすくなると思います。

ここに自社の製品やサービスを置いたら、面白い発想も生まれるかもしれません。

実際、最近スマートフォンの分野にも進出して注目を集めたデザイン家電の「バルミューダ」は、創業社長の寺尾弦氏がミュージシャン出身というアーティストということもあり、アート思考のものの考え方をされていることが、著書で描かれています。
イノベーティブな製品開発のため、「センスを磨くために日々心がけているのは、身の周りのモノをよく見ること」「観察しながら、本当に良いものは何か、皆が好きなものや多くの人が良いと感じる状態はどのようなものかを分析する」と述べています。

バルミューダはデザイン家電メーカーですが、決して「スタイリッシュな外観」やあるいは「技術開発」をベースにしているのではなく、人々が「どのような人生を送るのか」「どうすれば人生が良くなるか」「そのためにバルミューダはどんな役に立てるのか」を日々の設計や開発で考え議論しているそうです。

同社の躍進のきっかけの扇風機「GreenFan」をもとにVTSIをやってみるとその事がよくわかります。


  
あるいは、ものやサービス以外たとえば、「組織」を対象とすることも可能です。
弊社のクライアントで、このやり方で「自社の理念」「パーパス」を定め、自分たちの生き方と会社の方向性を合わせて一体感や会社一眼となって課題解決に望む社内文化の構築に成功した例もあります。

VTSIは仲間内、あるいは慣れれば一人でも行うことができます。
まずはVTSIをやってみたい、それを製品開発などに応用したり、今ならDXに役立てたいという方は、下記のようなセミナーも開催しておりますので、ご興味ある方は参加いただければ幸いです。
 
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