仕組みより善意に頼ってきた日本企業
今月(2021年2月)、アマゾンの創業者でCEOのジェフ・ベゾスが、CEOからの退任を発表しました。今後は会長となり、彼が立ち上げた他のビジネス(宇宙ロケット事業など)も含め高所からビジネス全般を見る立場となるようです。
ベゾスの言葉としては、「Good Intention doesn’t work, only mechanism works!」(善意は役立たない。仕組みだけが役に立つ)が有名です。これを最近の労使問題や、いわゆるアマゾン・エフェクト(既存企業が駆逐されること)にからめて、アマゾンのブラック企業体質を象徴する言葉であるという報道も散見しました。無論アマゾンの様々な問題点を否定はしませんが、本質はそこではないと考えます。特に今の日本の状況を見ると、私たちがしっかり認識する必要があるところでしょう。
今からちょうど四半世紀前の1996年に「少数の例外を除いて、日本企業には戦略というものがまったくない」と指摘したのが、有名な経営学者のマイケル・ポーターです。
「日本の大企業には、戦略がない。あるのは、業務効率だけである。戦略がなく、すべて横並びなので、ラット(ネズミ)レースのように利益を食いつぶしていってしまう」
当時この意見に関しては、多くの経営学者や民間から反論の声が上がりました。
当時、携帯電話ビジネスやハイブリットカーが好調で、ITビジネスの起業も盛んだったこともあり、「日本企業そして日本の経済も捨てたもんじゃない」という空気感は強かったと思います。
しかし、今から振り返るとポーター教授の指摘は正しかったと言わざるを得ません。
一時は世界最先端と言われた携帯電話は、あっという間に海外メーカーのスマートフォンに取って代わられ、ハイブリットカーが最先端だった時代もあっという間に過ぎました。
そしてこの2つの分野のヒットを最後に日本が世界をリードする製品やサービスは消滅しました。
もちろん、それで日本が駄目になったとか、日本人は凋落した、などと言うつもりはありません。日本のGDPは中国には追い抜かれたものの、世界第3位の位置をキープしており、iPhoneの重要部品の多くに日本製品が採用され、中国や韓国などで製造される機械や半導体の製造装置や検査装置でも、日本企業の製品が使われています。
つまり日本人の技術力が落ちたとか、製品開発力が無くなったわけでもないと考えます。
しかしバブル崩壊以降、失われた20年と言われた期間で、日本企業、日本経済の世界のプレゼンス(影響力)はみるみる落ちていきました。
そういう中、日本が世界に誇れるものは何かというと、「カイゼン」と「おもてなし」。
「カイゼン」によって、製品の性能を極限まで上げて、「おもてなし」の心で顧客に寄り添った製品やサービスを生み出す。
私も好きなドラマである「下町ロケット」の世界観のようで、日本人が好きな考え方ですが、これらは上のジェフ・ベゾスの言葉に従えば、「社員の善意」に頼ってきた日本企業の姿でもあります。たしかにドラマとしては美しいのですが、善意に頼るビジネスモデルで、社員は疲弊し、また上からの強制(いわゆる空気による強制も含みます)は超過勤務や滅私奉公を強いるブラック企業の温床ともなります。
何より、90年代以降、平成以降に多くの企業が生まれましたが、その中で世界に名の知られた企業は皆無に近い状況。アマゾンやGoogle、Facebook、テスラ、アリババやテンセントといった、どれも90年代以降に生まれた、あるいはAppleのiPhoneのようなビジネスは日本からは生まれませんでした。
つまり、新しいビジネスモデルや仕組みを創る発想が私たちになかったのが、今の日本を覆う閉塞感や行き詰まりの大きな原因のような気がします。
仕組みやビジネスモデルをつくることは難しくはない
では、その新しい仕組みやビジネスモデルを創ることは難しいのでしょうか?
もちろん「簡単である」というつもりはありません。しかし私たちには不可能である、というものでもないと考えます。
スティーブ・ジョブズがiPodやiPhoneを発表した時、「こんなのは誰だって創れる」という言葉は結構ありました。「iPodはPCを小さくしたものに過ぎないし、iPhoneだってiモードの丸パクリ」というのはある意味外れていません。
今回のコロナ禍でもっとも有名になった会社はZoomですが、このようなテレビ会議や動画コミュニケーション・システムの構築は、日本の多くの会社も手掛けてきたはずです。
そのような会社の中で、Zoomになれるサービスがなぜ日本からで出なかったのでしょうか?
仕組みづくりの方法論
答えは簡単で、私たちに仕組みづくりをする、という発想がなかった(足りなかった)だけではないかと思っています。
「仕組みを作る」というのは「言われたことをそのとおりにやる」とは正反対です。
今必要性が叫ばれている「イノベーション」も要は今までにない「仕組みづくり」をするということ。
イノベーションについても、ゼロから何かを生むのではなく、既存のものの新たな組み合わせ(新結合)であることをご存じの方も多いでしょう。
逆に言えば、仕組み創りのための方法論を知ることができれば、技術力にも富んで、真面目で誠実な日本人にも再び昔の輝きを取り戻すことができるのではないかと考えます。
ICONIXプロセスの生みの親であるローゼンバーグは、「分析中毒」が新たなもの(システム)創りを妨げる大きな原因であると述べています。
「顧客の声を聞く」これは「新たな仕組みを創る」ためにも欠かせないプロセスですが、ともすれば私たちは「御用聞き」をすることが「顧客の声を聞く」と間違えがちです。そして顧客の言うとおりのものやシステムを作って納品する。
でもそれが業務改善にも業務変革にもならず、高いお金を支払ったところで価値の創造には繋がりません。
最近流行りのDX構築に関しても同様です。
今までアナログだったものをデジタルに変換したところで、それは単なる「価値の置き換え」であって、「価値の創造」ではありません。
価値創造のためには、顧客の声を聞いて分析をした後は、それを「仕組みづくり」のプロセスに乗せる必要があります。
このプロセスにも様々な方法論があります。ローゼンバーグが提唱したICONIXもその一つです。
これは個人のものづくりから、中堅や大企業のシステム構築などにも活用できるフレームワークです。
私は昨年、このICONIXプロセスを「ビジネスモデル作り」に応用した方法論を開発して、日本ビジネスモデル学会で発表しました。(今年発行の論文誌で公表される予定)
このプロセスを主に個人の仕事づくりや起業プロセスに適用した講座を今春開きます。
2月18日にその説明会を行いますが、これにとどまらず今後、起業プロセスの他、企業のイノベーションや価値創造の仕組みづくりに応用していきたいと考えています。
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