士業の現在と未来
コロナ禍で、デジタル化やAIの活用など変革の流れが速まっていますが、一方で時代の流れについていけない仕事も多くなっています。
その中の筆頭が、意外なことにかつてはエリートの代名詞であった「士業」です。
例えば「弁護士」といえば、エリートの中のエリートというイメージがありましたが、かつて平均年収が一千万円超えだった時代は遠く、現在では700万円位と一般サラリーマンとそう変わりません。また中央値が400万円台というデータもあり、そうだとすると弁護士の半数が400万円に届かない年収ということになって、エリートの影は微塵も感じられません。
また、様々な書類の電子申請も当たり前となり、AIの活用も増えてきている現在、司法書士や行政書士、税理士といった仕事は、有名なオズボーンリスト(オズボーン教授が作成したAIに代替えされる仕事のリスト)でも高い確率で、AIに代替えされる業務として挙げられています。
士業ブランディングの失敗
また、士業衰退の理由として、あまり指摘されていないことですが、ここ10年ほど士業業界で言われてきた「ブランディング」手法も、その理由の一つとして挙げられると思います。
ここでいう士業ブランディングとは「☓☓に強い◯◯士」とか「△△地区で◯◯士といえば自分」というやり方です。士業や関係者の方なら、一度は目にしたり聞いたことががあるのではないでしょうか。
この方法、日本が失われた20年に突入した1990年代以降、産業界で流行った「選択と集中」を真似たもの。コンサルティングファームが推奨したことで、先が見えなくなった多くの企業の戦略として取り入れられました。
しかし、その結果がどうなったかは、20世紀に世界を制覇していた電機産業を見れば明らかです。
液晶技術に絞り込んだシャープ、原発に賭けた東芝、家電事業を中国企業に売却してプラズマ技術などのAV事業を推進したパナソニックはどうなったか。
士業業界も同様でいっとき「サラ金の過払い対応」に特化した法律事務所が業績を伸ばしましたが、需要が一巡すれば顧客の数も減り、すぐに過当競争状態になりました。
「☓☓に強い・・」すなわち「選択と集中」や「セグメント」が今の時代うまく行かない理由は簡単で、VUCAと言われる先が読めない時代にセグメントを行うのは、単純に選択の幅を狭め可能性を減らすだけだからです。「選択と集中」が成功するためには、時代の変化に合わせたイノベーションや業務革新、事業創造が欠かせません。
しかし士業業界は「イノベーションからは最も遠い事業」で、これではうまくいきません。
士業が生き残るためのふたつの道
そのような中で、士業が生き残るためには2つの道があるとされています。
一つは、AIの徹底活用で、各種申請業務においてAIを使いこなし、薄利多売で多くの業務を請け負う形。
もう一つは、AIでは対応できない業務、具体的には専門知識や経験を活用して、顧客の課題解決を行うことです。
AIの徹底活用か、AIにできないことを徹底するか。その2択。
時代の変化に目をつぶり、現状維持を図ったり、中途半端な対応するところは、AIに代替えされる。これは間違いないことだと覆います。
最初のAI活用ですが、弁護士法人や会計法人など大手はこの道を歩みそうです。個人や少人数の法律事務所や会計事務所で優秀なAIエンジニアを雇うのは難しいかもしれません。
後者のコンサルティングも、大手法人(特に会計コンサルティング)がすでに行っていることですが、これは個人でも対応できる分野でもあります。
複雑な問題解決のためのシステム思考
ただし、コンサルティングと言っても、法律や会計などの専門知識や経験に基づいた相談への対応という部分は、AIや検索エンジンで代替できます。
「このような問題には◯◯法の第△条が適用できます」とか、「このような取引の処理は会計原則の◯◯に基づいて処理をしましょう」といった解答するような相談は、AIの最も得意とするところですね。
しかし、世の中の問題、顧客が抱える問題というのは、このような単なる専門知識だけで解決できるのはむしろ少ない。いろいろ複雑に絡まる問題が多い。
例えば、今世の中を覆うコロナ禍。パンデミックの問題といえば「医療問題」で、これは医療や薬剤の専門分野で解決すべき問題と思ってきましたが、実際に直面してみると、私たちが今まさに思い知らされているように、経済問題、経営問題、政治問題、人との関係の問題、デジタル技術などITの問題など様々な問題が複雑に絡み合っているわけです。
このような問題の解決には、論理的に専門分野を細分化して深めて世の中を理解しようとする、いわゆる還元思考では対処は難しく、様々な専門分野を横断する思考法、システム思考やデザイン思考の活用が欠かせません。
専門性を深めていく為の思考、専門思考や論理思考をそれぞれの縦軸と捉えると、横軸的な思考法がシステム思考などにあたります。
具体的なイメージについては、スライドに乗せているのでご覧いただければと思いますが、士業が今後生き残る方法として最も有効なのは、自分の専門(縦軸)を活かしつつ、横軸的な問題解決思考を身につけることで、複雑な問題の解決を与えることができ、コンサルティング分野で生き残ることができると考えます。
また、今現在、大手コンサルティング会社でも、基本的にはロジカルシンキング(論理思考)に基づいたコンサルを行っており、後述の複雑な問題解決のためのシステム思考やデザイン思考などは、まだまだ弱いところも多いので、個人や少人数の士業事務所でも大手に対抗できる分野かもしれません。