がんばっても売上が伸びない理由

起業家や事業主、あるいは営業や販売に関わっている人の共通の悩みは「どうすればもっと売上が伸びるのだろうか?」ということではないでしょうか?
私も「熱狂顧客のつくり方」(IBCパブリッシング)という本を書いていることもあり、多くの方から集客や売上にかんするご相談をいただいています。
その中で一番間違えやすいのが、「売上が伸びないのは頑張りが足りないから」。というもの。
たしかに頑張りは大事です。サボっている人に、結果は残せない。
でも客観的にみて真面目に仕事している人に、「まだまだ頑張りが足りない」などと一昔前の営業部長やセールス・マネージャーの小言をぶつけたところで、まったく効果はあがりません。
また、「話し方」や「セールス・テクニック」を身に着けようと勉強したり研修を受ける、何かいい方法がないかと自己啓発本を購入したりセミナーに行く、も多くの場合いい結果は得られないものです。
また安易に「商品が良くないから売れない」と思うのも考えものです。(そういう場合もありますが・・・)
実は、売上があがらないのは、売上がこれ以上上がらない構造的な理由があることが多いのです。

売上UPの構造とは? 

売上が思ったように上がらない構造的な理由は次の3つのステージでそれぞれ決まります。
1.スタートアップ
2.営業を開始後、売上が伸びている状態
3.開始後時間がたって、それなりに売上が上がっているが、頭打ちの状態。

成長グラフ

(もっと言えば、この1の前に、「0to1」:事業アイデアを形にする、サービスや商品をつくるというステージがありますが今回は省略し、この話題は別テーマで行います。)

大事なことを一つ述べます。
売上が伸び悩む理由は、ステージごとに異なります。2のステージで伸び悩んでいるときに、1のステージで成功したやり方を強化しても労力ばかり費やして、効果があがらない場合が多い。3のステージでも同様です。
それぞれのステージに合わせた施策を打つ。これが大事です。
しかし多くのひとが、ステージは変わったのに以前のやり方を続けています。

ロジスティックモデル

新たな商品やサービスを立ち上げたとき、どのくらい売上をあげられるのか。
それを予測するのは簡単ではありません。しかし、売上がどのように推移していくかという予測ならできます。
新商品の売上=普及度合いは、時がたつにつれ、下図のように推移していくでしょう。

ロジスティックモデル

これはロジスティック曲線と呼ばれていて、人口増加、流行病の感染、商品の普及等あらゆるところに見られるものです。
最初は、当然0ですが、比較的初期の段階では、指数的に新商品の導入が進みます。そしてある程度普及してしまうと、ブレーキがかかってだんだん伸び率が低くなってきます。
世の中の商品や流行と言われるものはすべて、このロジスティック曲線の動きを取ります。
どれくらい普及するかは、その商品の潜在顧客数、感染率(普及率)、口コミ頻度によって決まります。

1.スタートアップ

それでは、ロジスティック普及曲線を見つつ、「どうすればもっと売ることができるか」を考えていきましょう。
実はこのロジスティック曲線には問題があって、新製品の売り出し段階、つまり殆ど顧客がいない状態では口コミは起こりません。また、普及率という数字をひねり出したところで、顧客が0であれば、0にどんな数字をかけても0ですから、いつまでたっても商品の販売高は0です。
そのためにスタートアップ時には、広告などの販売促進策が必要になります。
この販売促進策(広告等)を加えたモデルが、エリック・バースが考案した、バースモデルです。

バースモデル

どのような販売促進策が良いかは、商品やサービスによって異なります。
TV・新聞・チラシといったメディアを使った宣伝広告から、比較的安価な、WEB、ブログ、SNSのようなインターネットの活用。店舗や営業部隊というフェーストゥーフェースなど最適なものを選択します。
もちろんひとつにこだわる必要はなく、例えばインターネット、特にSNSの活用などはどの商品やサービスでも活用できますので、他の手法と組み合わせると効果が倍増します。

2.営業を開始後、売上が伸びている状態

スタートアップを乗り切ると、ロジスティック曲線、あるいはバース曲線に沿って売上は上昇カーブを伴って伸びていきます。
なぜ上昇カーブを伴うかというと、フィードバック・ループである口コミループが働くかあです。
顧客が商品を買ってそれが良ければ口コミで周りの人に広がる、あるいは顧客自身長期に渡って利用し継続して利用料を払う。この自己強化ループが働くので、顧客数(売上)は上昇カーブを描きます。
また売上が上がれば、使える広告費や販促費の枠も増える効果があり、それがまた顧客を呼ぶ効果があります。

もし、この時期になかなか顧客が増えない、思ったように売上が伸びないとすると、この口コミのフィードバック・ループがうまく働いていない可能性があります。

こういう企業に多いのが、スタートアップ時のように新規顧客の獲得や目先の売上ばかりに目が行って、既存顧客のフォローが手薄なパターンです。
商品に対する不満を放置していたり、アフターフォローなどサービス体制に不備があって、口コミのフィードバック・ループがうまく働かず、相変わらず広告や新規営業など、新規顧客獲得ばかりに資源を注いでも、売上が伸びない以上、使える予算は一定か減らさざるを得なくなりますから、売上は伸びない結果になります。

口コミの効果は目に見えづらいのですが、軽視するのは間違いです。あなたがお店を開店したとします。宣伝に力を入れられなかったので、最初の月、顧客は友人たった1人だけでした。(涙)
でもその友人は、商品をすごく気に入ってくれて、毎月1人だけですが、口コミで新規顧客を連れてきてくれました。
その新しい顧客もやっぱり気に入って、毎月1人の顧客を連れてきてくれました。たったこれだけを繰り返していたら、あなたのお店は、2年半で日本人全員が顧客になり、約3年で世界中の人が顧客になります。(計算してみてください)
まさにフィードバック・ループの力です。
ビル・ゲイツも、この力を知っているがために成功しました。(詳しくはこちら

もちろん、広告や販促など直接的な新規顧客獲得活動もスタートアップ時同様に行わなければいけませんが、この時期では、既存顧客のフォローに気を配って、フィードバック・ループがどうすれば回るか、という戦略を打つことが大事です。
顧客管理システムを活用したり、コールセンターなどの顧客の声を聞くシステム、そして口コミを促進するような仕掛けなどの施策を考えてみましょう。

成長の限界(供給側)

順調に伸びていた売上もやがて頭打ちになります。
潜在顧客と獲得した顧客の差が少なくなり、新たに獲得できる顧客数が減るためです。
どんな人頑張っても商圏人口以上には顧客を増やすことはできません。

ただ実際には潜在顧客数いっぱいまで、顧客数を伸ばすことは、現実には難しいです。多くの場合供給側に「成長の限界」があって、売上や顧客数が増えると、それまでどおりの商品水準、サービス水準を保つことが難しくなるためです。
商品の確保はもちろん、生産設備の拡張、サービスレベルの維持、商品提供チャネルの確保などが顧客の伸びに対応できないと、顧客の不満が高まり、口コミで新規顧客が来ることがないばかりか、逆に悪評がたってしまう場合もあります。
これはシステム原型の「成長の限界」で説明されているとおりです。
この原型でのバランスループを外すか弱める施策を打たないと、いくら顧客を増やそうと努力すればするほど、バランスループのブレーキも強く働いてしまいます。

成長の限界ループ図

成長の限界モデル

成長の限界(需要側)

供給側でうまく手を打てたとしても、潜在需要以上には、顧客は伸びません。
またこのシミュレーションでは、潜在需要は一定なものと仮定していますが、実際には、一つの製品に対する潜在需要は一定ではなく、時間の経過につれて低下することが多いです。
流行のある製品は、その流行がすぎると、もう顧客の興味が失われます。ファッションやゲームなど嗜好性の高いものは、いわゆる流行りすたりがあります。
こういう商品は、マーケティングをしっかりして、モデルチェンジを図っていく。新製品を投入し続ける必要があります。
もうひとつは技術革新です。
有名な事例が、フィルム産業で、たった10年くらいの間で、一つの産業が“消滅”してしまいました。
そして世界最大のフィルムメーカーだったイーストマン・コダックは倒産。
富士フィルムは、フィルム製造技術を活かして、他の分野、化学や医療の分野を開拓し、乗り切ることができました。

「成長の限界」を迎えたとき、富士フィルムのように新たな事業を開拓するのは本当に難しいです。
大きな会社で多いのが、競合や補完関係の技術を持つ会社を買収するケースですが、東芝のように失敗や命取りになる危険もあります。
無論個人企業や中小企業が容易に取れる手段ではありません。

一番参考になるのが、ジョブズ復帰後のアップル、マイクロソフト、アマゾンのように、システム思考を活用して、ビジネスシステムを構築していくやり方です。

この3社に共通しているのは、顧客を単に「商品を売る相手」とは思わず、大きなビジネスシステムとして捉え、そのネットワークの中で、新たな商品であったり、手段をとることを考えていることです。
これはベンチャーや中小企業でも参考にできると思います。

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