因果ループ図は、システム思考を表現する際の重要なツールの一つです。

そのループ図は、変数と矢印の2種類だけからなります。
とてもシンプルなので、小学生でも書くことができると言われ、実際米国では多くの小学校で「システム思考」の授業が行われています。

私は大学院(慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科)の授業で、初めてこのループ図を書いてみましたが、「正しく」書くのは意外と難しいということがわかりました。

その経験も踏まえて、「ルール編」「実践編」で、因果ループ図の書き方を解説してみたいと思います。

まずは実際にそのループ図から見てみましょう。

上でも述べたように、ループ図は「変数」で構成され、それらの変数は、因果関係をあらわす矢印で結ばれています。
産み出された卵の数は、親鳥であるニワトリの数によって決まります。またニワトリの数は卵の数によって決まります。

もちろん実際には、親鳥一羽あたりいくつの卵を産むか、とか、孵化率、死亡率などほかの変数によって、これらの数は変化します。
現実にあるすべての変数を載せていたら、当然わけがわからなくなります。目的に合わせ何が重要な変数で、何が重要でないかを決めて記述することが「モデル化」「モデリング」で大切なことになります。
(実践編で詳しく解説します)

さて、それぞれの因果関係を示す矢印では元(原因)の変数が変化した時、矢印の先(結果)の変数がどちらに変わるかという、向きを示す記号、(+)または(ー)の記号がつけられます。
(+)は、「原因が『増える』とそうでなかった場合に比べて結果も『増え』、原因が『減る』と、そうでなかった場合に比べて結果も『減る』ことを意味する」
一方、(ー)の関係は、「原因が増えると、そうでなかった場合に比べて結果が比べて結果は減り、原因が減ると、そうでなかった場合に比べて死亡数は増える」(『システム思考』ジョン・スターマン著)

単純に考えて、(+)が増える、(ー)が減ると考えると間違いですので、注意してください。
(+)の代わりに「同」あるいは「S」(=Same)、(ー)の代わりに「逆」あるいは「O」(=Opposite)の記号を使う場合もあります。

また上記の説明には少し注釈が必要です。
親鳥であるニワトリの数が減っても、それで卵の数が自体が減るわけではありません。
1月に10話のニワトリが10個の卵を産んで、2月には半数が死んで5羽に減ってしまったとします。でも卵の数は15個に増えています。
仮にニワトリの数がゼロになっても卵の数は減るわけではありません。

原因が増える(減る)と結果が増える(減る)というのは、そのものの数や量の増減ではなく、プラス(+)影響を与えているのか、マイナス(ー)の影響を与えているのか、影響力の増減であると考えたほうが、間違いがないと思います。

相関関係と因果関係

変数間の矢印は、因果関係を示すものでなければならず、単なる相関関係を含めてはいけません。
アイスクリームの販売量と犯罪事件の発生件数には相関があると言われており、実際そのとおりだとしても、両者の間に因果関係はありません。もし因果関係があるとすると、アイスクリームの販売量を減らせば犯罪も減るということになってしまいます。

実際には原因は、「気温」「不快指数」であるわけで、アイスクリームの販売量も犯罪件数もその結果であるわけです。また、「満月」と「犯罪件数」もスピリチュアル本などで取り上げられますが、満月は夜出歩く人が多く、その結果犯罪件数が増えていると考えると、満月と犯罪件数には相関関係はあっても直接の因果関係はないので、満月→犯罪件数という矢印は結べません。

健康や医療関係でよく論争が起きるように、相関関係と因果関係の違いは、実際には非常に微妙です。将来アイスクリームの成分に、人間の理性を狂わせる成分が発見されたとしたら(そんなことはないでしょうが(笑))、アイスクリーム販売量と犯罪件数に因果関係があったということになるかもしれません。
実務的には、因果ループ図作成に関わる(ステークホルダー)のほとんどの人が「因果関係がある」と納得できるようにする。ということになると思います。

ループ図の種類を決める

フィードバック・ループには、変化を促す「自己強化型ループ」と、変化を抑制する「バランス型ループ」の2種類からなります。
上図では、卵の数とニワトリの数のループ図が自己強化型ループで、ニワトリの数と死亡数のループはバランス型ループです。

すべての社会システムは、自己強化型ループとバランス型ループの組み合わせで成り立っています。各々のループがそのくらいの強さでどのような振る舞いをしているかで、そのシステム自体の挙動が決まります。
システムの分析をして、それをどのように変えるか、(自分の夢や目標を達成できるように)制御していくか、の第一歩として、各ループが自己強化型かバランス型かを判断することが大事になります。

上図のように変数が少なければ、判断は比較的容易ですが、変数の数が多くなると、どちらなのか一瞬で判断できません。
見極めるコツとして、どこか任意の変数を出発点として、ループに沿ってぐるっと一周し、それが、最初の変数の変化を強めているのか、抑制しているのかで判断します。
変化を強めているのが自己強化ループ、抑制しているのがバランスループです。

変数の内容に触れず、形式的に判断できる方法もあります。ループ図の矢印で、(―)の矢印の数を数える方法で、マイナスの矢印の数が複数(0を含む)なら自己強化ループ。奇数であれば、バランスループであると判断する方法です。

後者の方法は、迅速に判断できる反面、数え間違いや、作成時の(+)と(―)のつけ間違いは、往々にしてあるので、両方の方法で判断されることをおすすめします。
実際市販本や、公開されている論文でも、ループ図に間違いが発見されることは珍しくありません。(私自身のを含めて)
2つの方法でチェックすることで、ループ図の矛盾や間違いを判断したり、ループ図の意味や構造をより理解できる助けになります。

<<アート思考・システム思考・デザイン思考を活用した企業向けオーダーメイドのワークショップを実施しています。>>
ワークショップの例


日本能率協会主催「DX時代に求められる「3つの思考法」入門セミナー」開催


 
 
コンサルティングやワークショップに関するお問い合わせ
 
 

関連ページ
システム思考とは
因果ループ図の書き方 実践編
ルールを覚えても、因果ループ図がうまく書けない理由
ループ図 (因果ループ図 Causal Loop Diagram)
システム原型を知れば、課題に予め対処することができる