フィードバックは、日常用語でも「振り返り」などという意味で使われています。
システム思考は、「システム」「情報」「制御」を3つの柱にしてものごとを捉え、夢や目標の達成、社会課題の解決に取り組むもの。
取り組む対象を「システム」としてとらえ、そこに流れる相互作用の「情報」に着目して、意図するように「制御」するアプローチがシステム思考です。
この3つの柱はどれも大事で、3脚のように1本でもかければ、ひっくり返ってしまいます。
したがってどれが一番重要、というものはないのですが、実務として考えると、「制御」がキーになると思います。
この社会の中で何らかの夢をかなえる、目標を達成するということは「社会システムの制御」と同義と言ってよく、それこそが「システムで思考する」目的でもあるからです。
システムを制御する方法
制御する、とは、目的物を思い通りにすること。「私がシステムを制御する」とはシステムの振る舞い(動き)を私の思ったようにすることを指します。
制御するやり方は、いくつかありますが、システム思考で最も使われ、重要なのが「フィードバック制御」です。
フィードバック制御は、第二次大戦中に対空砲の自動追尾装置システムとして開発されました。現在ではほとんどの機械装置に組み込まれています。
フィードバック制御装置の中で、一番シンプルなものとしては、コタツのサーモスタットが挙げられます。
温度が一定以上になると、サーモスタットが働いて、コタツの電気が切れる。そして少し冷えると、また電気が入る。この働きで、コタツの中は一定の温度に保たれます。
A(コタツの温度)がB(サーモスタット)に働くと、Bが働いて(サーモスタットが切れて)、Aを制御する(温度を下げる)。
上述した、戦争中に対空砲自動追尾システム(サーボ機構)の開発にあたったMITのジェイ・フォレスターは、戦後この技術を経営の課題解決に応用するシステムダイナミクスを開発します。
フォレスターは著書インダストリアル・ダイナミクスで、フィードバックシステムについて次のように記しています。
情報フィードバックシステム
環境がある意思決定を行わせた結果として、その環境に逆に影響をおよぼすような行動が生まれて、それが将来の意思決定にも影響を及ぼすとき、情報フィードバックシステムが存在するという。
・サーモスタットから温度低下の情報を受け取ると、炉の火を入れよという結果を下す。その結果温度が上がってくれば、炉の火はとめられる。
・人間は倒れそうだと感じると身の平衡を修正する。こうしてちゃんと立つことが可能になる。
・ビジネスでは、注文と在庫の量から、注文を満たし、在庫を調整するための生産に関する
意思決定がなされ、さらに新しい生産に関する意思決定がなされる。
・新製品に対する競争上の必要から、技術的な変革を生むような研究課題への支出がおこなわれる。
このように、フィードバックシステムは、機械だけでなく、人間をはじめ生物やビジネスにも共通して働いています。
生命のフィードバックシステムをホメオスタシス(身体恒常性)といいますが、この発見は20世紀になってから。
社会システムをフィードバック制御する
社会が安定しているのも、社会システムの中に、様々なフィードバックシステムが働いているからです。
つまり私たちの周りには、さまざまなフィードバックシステムが働いていますが、普段私たちがそれを意識することはほとんどありません。
だから、私たちが何か事を起こそうとすると、フィードバックシステムが働いて、これを阻止しようとします。社会にとって良いことであろうが悪いことであろうが同じです。
一生懸命やればやるほど、フィードバックシステムも強く働きます。
それに対処する方法はひとつ。
どんなフィードバックシステムが働いているか知ること。
例えば、あるところにある大きな石が邪魔なので動かしたいと思ったとします。
一生懸命押しますが、岩はびくともしません。
これはもちろんフィードバックシステムが働いていて、あなたの力を押し返しているからです。このフィードバックシステムのことを、摩擦力といいます。
フィードバックシステムの正体がわかれば、この力を弱めるにはどうすればいいか、知恵を絞ればいいわけです。
地面に丸いコロを並べて、その上を転がすというのは、摩擦力であるフィードバックシステムを弱まるための一つの方法です。
そして人類は自動車の車輪という逆に摩擦力を活用して動力とする発明までしてしまったのですが、これは物を動かすときに働く、フィードバックシステムの正体を知ることで可能になったことです。
システムダイナミクスの手法(ストック&フロー図)やシステム思考で活用される因果ループ図は、私たちの周りにあるフィードバックループを明らかにしようとする行為にほかなりません。
私たちをとりまく状況をループ図で表すことにより、どんなことが私たちの夢の実現や目標の達成、課題の解決を阻止ししようと働いているのか、フィードバックループのどの部分に働きかければ、全体がうまく動くようになるのか。
因果ループ図を書けるようになることで、様々なことが見えてきますが、そのために必要なことは、フィードバック制御の原理、働き方を知ることにあるのです。