システム×デザイン思考とは、慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科で、研究が進められる、システム思考とデザイン思考を融合した新たな課題解決手法です。

今、社会に起きている様々な問題の原因の根本は、人間が構築したこの複雑な社会システムに当の人間自身が追いついていないことにあります。
私たち個人が豊かで幸せになるために創られたはずの社会が、個を犠牲にする。
何かを成し遂げよう、夢をかなえようと思っても、社会システムがそれを妨げる。
環境問題のように、社会システムの負の側面が無視できない状況になってきた。

このような課題や問題に対して、今までは私たちは「論理思考(ロジカルシンキング)」といわれる手法で、対応していました。

論理思考とは、物事の構造(成り立ち)を分析し、それが何でできているのか要素をさぐること。
物理学風に言うと、我々の身体は何でできているのか、構成要素である、内蔵・細胞・分子と細かく分解していくことです。
今では、素粒子物理学がこの宇宙は何でできているのか、という謎に取り組んでいるのはニュースでもおなじみです。
つまり物事をどんどん分解して、その原因となるものを探る。これが論理思考の核になります。何か問題事が起これば、何がその問題を引き起こしているのか、その原因となるものを探る。犯罪行為であれば、その犯罪者を特定する。病気であれば、その病巣や、病気を引き起こしている細菌やウィルスを排除するという具合です。

しかし現在のように社会が複雑となると、この論理思考では、解決が難しくなってきました。
つまり分析して原因が判明したとしても、この複雑な社会で、その原因を除去するのは簡単には行きません。
温暖化問題で、二酸化炭素が原因だとわかっても、どうすれば減らすことができるでしょうか?
ガソリン車を減らすことはひとつの解決手段といわれていますが、電気自動車に変わっても、電気は化石燃料から作られますから、問題を別の場所に移したに過ぎません。
二酸化炭素を排出しない原子力発電は、御存知の通りまた別の問題を引き起こします。

太陽光や風力など環境エネルギーなら問題ないと考えがちですが、社会の多くのエネルギーを賄うとすれば、とてつもないほど、数多くの装置をつくらなければいけませんが、これらを製造するために必要なエネルギーはどこから賄えばいいのでしょうか?

システム思考とは

私たちを取り巻く社会をシステム(生態系=エコシステム)ととらえ、課題解決を図るのが、システム思考です。
論理思考が、物事の要素への分解、分析という手法をとるのに対し、要素のつながりに着目して、要素間の因果関係の流れから、課題解決を図ります。

よく論理思考が西洋的、システム思考は東洋的と言われますが、西洋医学では、解剖学に特徴されるように身体の構造そのものに着目して病巣を取り除こうとするのに対し、東洋医学で「気の流れ」に着目して、その流れをよくすることを図るという点では、そのとおりだと思います。

具体的には、因果ループ図を作成して、要素間の因果関係の流れ図示化します。
そうしてどのポイントを押せば、システム全体が動くか、あるいは制御できるかというレバレッジポイント(てこの支点)を探して、課題の解決手段を見つけようというものです。

デザイン思考

一方、デザイン思考も注目を集めています。
デザイン思考とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉(Wikipedia)です。
マッキントッシュのマウスをデザインし、デザイン会社IDEOを設立した、デビット・ケリーが提唱したと言われています。
IDEOは、製品(モノ)のデザインから、サービスのデザイン、そしてビジネスのデザインへと領域を拡張していきます。
IDEOの思考法をまとめると、「人(利用者)が中心のデザイン」「多様性」「プロトタイプをつくりテストを繰り返す」になります。
ここから、ブレインストーミング、プロトタイピングなどのワークショップ手法が編み出されました。

これらの手段は様々な意見の集約やイノベーションの訓練にも役立つということで、2010年前後には、多くの企業や自治体で、ワークショップに取り入れられました。
しかしながら、「手法」が拡散したこともあり、形骸化やワークショップのためのワークショップであるという意見も上がるようになりました。

デザイン思考は、多様性の中でアイデアを生む手法であるため、実際にアイデアが生まれかどうかは、その時々によります。
上記のように、研修手段としてワークショップが開かれたり、「デザイン思考セミナー」が開催されたりしますが、これらは「ファシリテーターの養成」という観点からは有効ですが、個人に「イノベーション力」をつける方法論ではないことに注意が必要です。

システム×デザイン思考

慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科で生まれた、システム×デザイン思考は、システム思考とデザイン思考を融合させ、左脳(システム思考)と右脳(デザイン思考)を両方使うことで、イノベーションがどのように生まれるかをメソッド化しています。
IDEOおよびスタンフォード大学のd-schoolが生んだ「デザイン思考」にももちろんメソッドはあります。慶応SDMでは、このデザイン思考とシステム思考を結びつけることにより、個人でもイノベーション力を高め、社会や自分自身の課題解決(夢の実現、目標の達成など)をはかることができるようになりました。

システム・デザイン

この図の上半分が、d-schoolでもおなじみの「デザイン思考」の流れです。
下半分は、システムズエンジニアリング(Systems Engineering)で使われる、Vモデルと呼ばれるものです。
この図を見ていただければ解るように、デザイン思考の流れと、SEの流れは、実はかなり一致しています。
例えば、最初の「共感」とは、顧客(あるいは社会)を観察し、共感を持ってか問題課題の気づきを得ることを指しますが、デザイン思考では、(考え方に)多様性がある人が集まり、そのディスカッションの中で「気づき」を得ます。
一方システム思考では、観察したものを因果ループ図などに落とし込み、そのつながりに着目して、効果的なレバレッジポイントを見つけ出します。

システム思考、デザイン思考ともに、普段気づかない、「思考の枠」を超えて新しいアイデアを見つけるための思考法といえますが、デザイン思考では、ブレインストーミングなど複数の人とのディスカッションを通すのに対し、システム思考では、ループを描き、つながりや因果関係に着目することから、木を見て森も見る、全体思考に脳の状態を持っていくことで、新たに気づきを得る思考法になります。