生成AI(Midjourney)にて制作
SFに注目する企業が増えている
先が見えないビジネス環境の中で、「未来」を見据えてそれに取り組む「SF思考」あるいは「SFプロトタイピング」を行う企業が増えています。
NECは2017年に未来創造会議を開催し、シンギュラリティ以降の2050年を見据えて、国内外の有識者が集い、今後の技術の発展を踏まえながら、「実現する未来像」と「解決すべき課題」、そしてその「解決方法」を構想」することを目指すと発表しました。
またパナソニックは2020年にZ世代が100歳になる2096年の暮らしを考えるプロジェクトを、樋口恭介氏を始めとするSF作家と組んで実施しています。
そしてソニーグループのデザイン部門「クリエイティブセンター」では、2050年の「Well-being」「Habitat」「Sense」「Life」をデザインするプロジェクトを実施、2021年に銀座の「Ginza Sony Park」でその成果が公開されました。
他にもLIXIL、総務省や農林水産省など様々な企業・官庁などの組織がSF思考やSFプロトタイピングに取り組んでいます。
「SFプロトタイピング」は、インテルのフューチャリストのブライアン・デビット・ジョンソンが著書「Science Fiction Prototyping: Designing the Future with Science Fiction」(邦題:インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング )の中で唱えた言葉です。
その後世界に広まり、日本でも上述の樋口恭介氏の「未来は予測するものではなく創造するものである ――考える自由を取り戻すための〈SF思考〉」など様々な人が手法を紹介しています。
樋口氏はITコンサルティングをしながら、ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞して作家デビューシされた方です。
比べるのもおこがましいのですが、私もコンサルタントをしながらSF小説を書いているので、親近感を(勝手に)持っています。(私の場合はSF新人賞で一次審査は通過したものの落選という経歴です。)
未来は予測するものではなく創造するものである ――考える自由を取り戻すための〈SF思考〉(樋口恭介著)
なぜSF思考やSFプロトタイピングが求められるのか
先日、日本のGDPがドイツに抜かれる見込みであると報じられました。またこれから10年以内に英国やインドにも追いぬかれるという予想もあります。
しかし樋口さんの著書にもありますが、日本企業は20世紀の後半頃までは、とてもイノベーティブな製品開発を行ってきたということが知られています。
例えば、ソニーのウォークマンはその典型ですね。これはソニーの社員が「ただ自分がほしいからつくってみた」ものだったことが知られています。
ウォークマンの事業化にあたっては、製品企画会議に出席した営業部門や販売部門のメンバーは総じて反対したそうですが、その後の顛末は言うまでもなく、大成功に終わりました。
日本が誇るイノベーションとは、マーケティングドリブンでも技術ドリブンでもなく、単に自分が欲しかったから、という理由で生まれたものだったのです。
日本のビジネスシーンは21世紀に入ってから停滞しています。2000年代初めに持て囃された「携帯電話」「モバイル・インターネット」がiPhone一機種に一層されてしまって以来、日本発の製品・サービスはほとんど見られなくなりました。
企業の担当者は皆「これからの市場ニーズがわからない」「これからのテクノロジーのトレンドがわからない」「新たなテクノロジーの効果がわかっても、それをどう新たな戦略に結びつければよいかわからない」と言います。
要するに彼らは一様に「わたしたちは未来を見失っている」のだと言っているのです。もちろん彼らはロジカルシンキングのフレームワークを持っており、データ・アナリティクスの整備をしており、現在を可視化うることには長けてます。しかし彼らは未来を見つけることができせん。
これは決して、日本人一人ひとりの能力や勤勉さが劣っているからではないと思います。
多くのビジネスパースンは、自分の私利私欲よりも周りの人(同僚や家族や顧客)のため一生懸命働いています。デザイン思考の「Human Centered Design」(顧客中心デザイン)は「おもてなし」に代表される日本人の考え方の影響があったこともよく言われています。
2010年頃から、日本でも「デザイン思考」がブームとなりました。これは上述のように、日本が20世紀後半に世界経済を席巻した理由を分析した欧米の人たちが生み出したメソッドです。
しかし、メソッドは広まったものの、実際にデザイン思考から新製品や新サービスを生み出せたものはほとんどない、とも言われています。
樋口さんの本でも『デザインシンキングは現状、「デザイナーのように考えるプロセス」ではなく、「デザイナーのように見えるアウトプット」に焦点が当てられ、その結果様々な企業の会議室で、たくさんの付箋が貼られたホワイトボードだけが大量に生まれている。』と述べられています。
もともと日本が得意な「顧客中心思考」、日本に足りないのはもっと別のことだったのかもしれません。
樋口さんは日本衰退の直接の原因は、誰ものが一斉に「自己中心的な楽観主義」をやめてしまったことにあると主張します。
自分の欲部を忘れ、遊び心をなくし、反対を恐れない責の事業をやめ、前例踏襲を前提とする改良志向に舵を切り、縮小再生産を繰り返し、未来を見るのではなく、かつてあった栄光のノスタルジーに浸ることをよしとする雰囲気が、日本企業からイノベーションを奪ったのです。
そして日本に必要なものは、SF思考、SFプロトタイピングであると主張されています。
SFの物語は、未来を想像/創造し、それまでは決して存在することのなかった概念や道具や風景や社会を創出することで、現実に存在する人々に働きかけ、何もかもを一夜のうちに一変させてしまうような、ありうるべき未来の実現に向けて、いま・ここにいる人々を動かす力を持っています。
SF思考、SFプロトタイピングは、アート思考で鍛える
SF思考、SFプロトタイピングの手法でよく使われるのは、「SF小説を書いてみる」というやり方です。
上述の、ソニーやパナソニックもSF作家と組んで、ストーリー作りを行っています。
またこれも新たなテクノロジーの生成AIを使うのも有効でしょう。ChatGPTなら、いろいろなストーリーを導くこともできます。
また、画像生成AIも未来の想像を可視化してくれるとても便利なツールです。
現在弊社でも企業向け、学生向けの「アート思考ワークショップ」の中で、画像生成AIを活用しています。先日も大学生に「2040年の未来」というタイトルで、「どんな世界を望むのか」というグループワークショップを行いました。
テクノロジーや環境に関することなど様々な意見が出ましたが、それらをキーワード化して画像生成AIで出力してみたところ、結果は意外なことに、「春」という言葉が強く表現されました。
今日本から急速に春と秋が無くなろうとしていますが、日本が世界に誇る「春の美しさ」を守りたいという想いが感じられました。
SF小説やSF映画などもアート表現の一種ですので、SF思考・SFプロトタイピングは、アート思考ワークショップととても相性が良いです。
年数回にわたってビジネスパースン向けに行っている「生成AIを活用したアート思考ワークショップ」でも、SFプロトタイピングの手法を取り入れ、イノベーションやパーパスの共有などに効果を上げています。
日本能率協会主催「生成AIを活用したアート思考入門セミナー」