マツダの独自技術へのこだわり
自動車メーカー、マツダは長年にわたり、自動車を単なる乗り物としてだけでなく、芸術のような美しい存在として捉え、独自のアート思考に基づくものづくり戦略を貫いてきました。このユニークなアプローチは、他の自動車メーカーとは一線を画し、マツダを世界的にも特別な存在として際立たせています。
先週の日経新聞で、マツダのロータリーエンジンが脱炭素時代のエンジン技術として注目を集めている、という記事がありました。
ロータリーエンジンは、マツダの代名詞とも呼べる技術であったのをご存知の人も多いと思います。軽くて小型にもかかわらず高出力で振動も少ない。
そのようなロータリーエンジンやマツダの車には根強いファンがついていましたが、2012年にロータリーエンジンの生産は中止されました。
ロータリーエンジンの弱点として、特に低速時の燃焼効率つまり燃費の悪さがあります。
脱炭素や環境基準に厳しい(そしてそれを域内産業保護に利用する)EUの新たな排ガス基準導入が、ロータリーエンジンに引導をわたす形となりました。
その後マツダは、エンジンやトランスミッションなど駆動システムを全体的に捉えて設計する「スカイアクティブ・テクノロジー」を推進し、低燃費で高効率のエンジンシステムで、特にスポーツタイプの車などで存在感を示しています。
ただこれからEVの時代となると、主導権は電池メーカーが根幹技術を握ることになり、トヨタを頂点とし、広く下請け産業まで広い裾野を持つ、日本の自動車産業は壊滅的影響を受けるとも言われています。今までのガソリンエンジンの技術の蓄積がEVにはほとんど役立たないからです。
そのような中で、マツダの技術者たちはロータリーエンジンの開発を諦めず、新たな可能性を探り続けました。
ロータリーエンジン技術は、PHV(プラグインハイブリッド)エンジンの発電機として、そして水素自動車のエンジンとしての活用が見込まれています。
アート思考とデザインの融合
マツダは単に顧客の要望を車のデザインに反映させるだけでなく、「自らが理想を描き、その信念や哲学を創造的に表現する」アート思考を大切にしてきました。これにより、マツダの車は単なる乗り物ではなく、感性を刺激する芸術品としても捉えられるようになりました。
マツダはデザインに対して独自の哲学を持ち、”魂動(こどう)”というデザインコンセプトを掲げています。これは、一瞬の動きから生まれる美しいフォルムを追求するものであり、車が動き出す瞬間の美しさをデザインに反映させるという独自のアプローチです。
この魂動デザインは、特に世界の専門家や車にこだわりが強いユーザーには極めて高く評価されており、最近では、2020年に、MAZDA3が世界で最も優れたデザインに与えられるワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。
この章は1年間に世界で発表される100車種以上から最高のデザインが選ばれるもので、魂動デザインとしては、2016年のロードスターに続いて2台目。ちなみに日本車では、これまでマツダ以外の受賞はありません。
このようにマツダが自動車メーカーの中で独自の存在感を示せているのは、同社の「アート思考に基づいたものづくり」の姿勢にあると、延岡健太郎大阪大学教授は「アート思考のものづくり」の本の中で強調しています。
延岡教授は、顧客の価値感が変化しUX(ユーザーエクスペリエンス)が求められる中で、欧米発の「デザイン思考」が注目されてきたものの、「しかし、多くの日本企業では、デザイン思考の導入は進んでいないか、たとえ導入しても効果が十分に発揮されていない。欧米発のやり方では、うまく馴染まないように見える。「顧客の問題を解決して経験価値を高めるデザイン思考と、完璧な品質の作り込みにこだわり、匠の技術を重視する日本のものづくり哲学はあまり相性が良くないのかもしれない。」と述べています。
そのため「日本企業はデザイン思考よりも、『「自らが理想を描き、その信念や哲学を創造的に表現する」』アート思考の方へ進むべきではないだろうか」というのが延岡教授の主張です。
アート思考とデザイン思考の融合が日本企業の解
もちろんマツダのデザイナーがデザイナーではなくアーティストのように自分たちを捉えているという意味ではありません。
大事なことは従来の顧客中心のデザイン思考的な視点ばかりでなく。自分自身の視点、即ち「自らが理想を描き、その信念や哲学を創造的に表現する」視点を製品やサービスづくりも含めた「ものづくり」に活かしていくべきというのが、アート思考の考え方です。
そういう意味合いも込めて、私自身もアート思考を、ものづくりの体系である「システムズエンジニアリング」に組み込むことができないかと、世界最大の学術団体であるINCOSE(International Conference of Systems Engineering)が主催するアジア・太平洋地区での国際学会(Asia-Oceania Systems Engineering Conference)で、「A Method of Art Thinking for Adapting to Systems Engineering of Utilizing Architectural Framework for Self-Organizing」として発表をいたしました。
そしてその中で、提案するアート思考のフレームワーク(下図)の検証として、マツダの事例を紹介させていただきました。
AOSEC2019 at Bangalore in india
顧客の感性を捉えるデザインと独創的な技術を組み合わせるマツダのやり方は、日本企業の復活のためのヒントとなるものと考えます。アート思考が、多くの企業の発展や元気な日本を取り戻す一助になると考えています。
日本能率協会主催「生成AIを活用したアート思考入門セミナー」