DX人材とは

DX(Digital Transformation)の推進のため、日本企業の間でも「DX人材」の必要性が認識されるようになってきました。

今までのIT化では、システムに関する知識を持った人材、あるいはビジネスの様々な場において、Excelを始めとするITツールを使いこなすことができる人材の育成が必要とされてきました。

その文脈ですと、現在では、AIやIOTを活用できる人材ということになります。
機械学習やディープラーニングの知識、Pythonのライブラリを扱える人材、あるいはIOTプログラムの活用ができる人材ということになるでしょうか。

実際このような研修プログラムなども、オンライン講座も含め充実してきているようです。研修会社にとっては大きなビジネスチャンスでもありますよね。

しかし、上記で述べたことはDXの前半分、D(Digital)をカバーしているに過ぎません。DXは単なるデジタル(IT)の活用ではなく、このデジタルを活用して、ビジネスを変革(Transformation)するのが目的です。
 
AIやIOTといった「ツール」を導入するだけで組織やビジネスが変革できるわけでもなく、今の時代の変化の中で、組織やビジネスをどのようにデザインするのかの視点が欠かせません。

このような、ビジネスや組織を「デザインする力」を持った人材がDXには必要で、このような両方のスキルを持った人材のことを「DX人材」と呼ぶわけです。

最初に結論から述べると、DX人材とは、「デザイン思考」×「アジャイルマインド(アジャイル思考)」×「データ活用」の3つができる人材です。
 
 

  

デザイン思考とアジャイルマインド(アジャイル思考)

日本を代表するITベンダー富士通は、2020年7月に発表された第1四半期決算発表で、「全社員(約13万人)をDX人材に転換する」と発表しました。
そしてそのための具体策として、「デザイン思考とアジャイルマインド(アジャイル思考)の教育を進めていく」としています。

私自身、大学院(慶應義塾大学大学院SDM研究科)でデザイン思考を学び、またアジャイルのスクラムマスターの資格を持っているので、この両者について語ることができると自負していますが、この2つの活用がDXの肝であることは間違いないと考えます。

なぜなら、コロナ禍のような誰も予期せぬ出来事が起きたことが証明しているように、VUCAと呼ばれる先の読めない時代の流れの中で、その変わりゆく外部環境、内部環境を踏まえて、組織やビジネスをどのようにデザインするかというのは、まさに「デザイン思考」そのものであり、そして、「先が読めない」時代に対応するには、柔軟で俊敏な「Agility(アジャイル)」が求められるからです。

実は、デザイン思考とスクラムを始めとするアジャイルはそれぞれ非常に親和性の高いメソッドです。

デザイン思考では「プロトタイピング」を重視します。いきなり完成品を目指すのではなくプロトタイプ(試作品)をまず作り、それを顧客とディスカッションをしながら修正し作り変えます。これはアジャイル開発と通じるところがあります。

またデザイン思考は「ブレインストーミング」など「チームによるデザイン」を重視しますが、アジャイル開発もまた、スクラムの日々のデイリースタンドアップ(朝会)や、レトロスペクティブ(振り返り)で、顧客を含めたチームの共有を行うながらプロジェクトを進めていきます。

したがってDX人材の育成のためには、デザイン思考とアジャイルを別々ではなく、両方同時に身につけることが、ポイントになるでしょう。

DXで欠かかせないデータ活用のメソッド

ただし、デザイン思考とアジャイルマインド(アジャイル思考)の2つを身につけることは、必要条件であって十分条件とは言えないかもしれません。
AIやIOTの活用という「D(Digital)」とデザイン思考とアジャイルの活用という「X(Transformation)」を結びつけるものが必要で、それは「データ」です。

2010年代から普及し始めたクラウドやIOTそしてAIによって生み出されるようになった、多くのデータ(ビッグデータ)をどのように活用するのか、というところからDXの流れが生まれました。

ここが今までの「イノベーション」のブームと異なるところかもしれません。
そのため「データサイエンティスト」の需要が高まっています。

もちろんデータサイエンティストを雇ってAIのデータを分析させてレポートをまとめたところで、DXができるわけもないのは言うまでもありません。経営者からシステム開発者、そして現場社員まで、それぞれの視点から「データ活用」ができるようにならないといけないのです。

ExcelでDXに成功したワークマン

この「データ活用」という点で非常に参考になるのが、ワークマンです。
ワークマンはもともと現場作業員やブルーカラーのおじさんのためのお店として認知されていました。それが最近では防寒や耐久性などの機能性が注目され、若者や女子にも人気の店となっています。

このように業態のTransformationに成功したのは、データ活用にあるのですが、ワークマンはAIやデータサイエンティストをあえて採用せず、社員一人ひとりがExcelで管理していることが大きな特徴です。
AIやデータサイエンティストを採用すれば、データから様々なレポートを素早く作成できることはワークマンも認めていました。しかしそれでは生データから分析レポートができる過程が「ブラックボックス」になってしまいます。

ワークマンは社員がExcelで分析する過程においての「気づき」を重視し、そこから「アイデア」が生まれたり、イノベーションが起こることを期待しました。
そして、実際「ワークマンプラス」「ワークマン女子」などの新店舗が各地でオープンし活況を見せています。


 

データ活用とはデータに「意味」をもたせること

AIなどを導入するにせよ、ワークマンのようにExcelで管理するにせよ、DXで大事なのは「データに意味をもたせる」ことです。
したがって、DX人材の3つめのピースは、「データの意味を読み解くことができる人材」ということです。

ではどうすれば「データの意味を読み解くこと」ができるようになるのでしょうか?

これはAIの仕組みを理解することでそのやり方(メソッド)も理解できると思います。
AI(機械学習)がやっていることは、大量のデータを集め、そのデータ同士の関係性(相関関係・因果関係)を割り出し、そこから共通のパターンを見つけていきます。

データ同士の関係性からパターンを見つけていくのがAI(機械学習)の仕組み


  
 
ざっくりいうとこのパターンから様々な予測を行うのが、AI(機械学習)の仕組みです。例えば、画像に写っているものを認識したり、今までの販売データから売れ筋商品を見つけたり、ゲームの勝ち方を学んだりできるわけです。

私達が行う「データ活用」も基本的には同じです。(というよりも、それを機械(AI)が真似しているのに過ぎないわけですが。)

DXに欠かせない「データ活用」はどうすれば私たちも身につけることができるのでしょうか?
実は、このメソッドも「デザイン思考」の中にあります。

例えば、デザイン思考のワークショップをやったことがある人はご存知だと思いますが、デザイン思考のプロセスは「発散」と「収束」の繰り返しです。


 
 
デザイン思考ワークショップでは、多くの場合、最初にブレインストーミングを行いますが、これは「多量のデータ」を用意することですよね。
そして親和図法で、ブレインストーミングで発散されたデータを「共通のラベル(パターン)」を見つけながらまとめて(収束させて)いきます。
さらにそれを並び替えたり、データ同士の関係性を見つけたりしながら、イノベーションの種(パターン)を探していきます。

「データの意味」とは、データ同士の関係性(相関関係・因果関係)の中にあります。ちょっと哲学的なことを言うと、「私たちの生きる意味」も私たちを取り巻く「人間関係」の中にあるのと同じです。

システム思考の因果ループ図がまさにそうですが、データの因果関係を可視化することで、データの意味を見つけることができ、様々な課題の解決手段を見出すことが可能になります。

また、アジャイルとの関係性で言えば、一度見つけたパターンに固執するのではなくチームや顧客などのステークホルダーと共創しながら、柔軟に新たな発想や価値を見つけていきます。

弊社でも、デザイン思考、アジャイルマインド(アジャイル思考)、データ活用を踏まえたDX人材研修やワークショップ(オンライン)を行っていますので、気軽にお問い合わせいただければと思います。

DX人材育成研修内容(一部抜粋)
・デザイン思考
・アジャイル開発の基礎
・アジャイルのためのシステム設計
・質的データ活用
・データの相関・因果関係からパターンを作成
・システム思考

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日本能率協会主催「デザイン思考入門セミナー」開催