ここ数年の新聞やニュースで、IOT、人工知能(AI)、ビックデータなどの文字を見ないほうが珍しい時代となりました。
企業は競って、これらの導入をしています。
そうした中、2013年、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が発表した「10年後に消える仕事」が注目を集めています。
オズボーン氏は、700種類の職業を綿密に調査し、総雇用者の半分がAIやロボットに取ってかわれるとしています。
また、銀行の融資担当者、レジ係、簿記・監査の事務員、ホテルの受付など数十種類の職種では90%の仕事がAIやロボットに変わるだろうとしました。

自動化や機械化の歴史が多くの失業者を産んできたのは、今に始まったことではありません。
しかしその多くは、単純労働者であって、いわゆるホワイトカラーのビジネスマンには関係ないと思われてきました。
しかし、AIやロボットは、いわゆる技能者や知的労働者の仕事も奪ってしまうというのが、過去の歴史とは異なるところです。

では、どのような職種や人が生き残るのか?

多くの人は、専門的スキルを持った人と答えるでしょう。日経新聞の5月5日の社説「サービス料は脱・安売りを競え」では、「今後はITやロボットが人の仕事を肩代わりしていく。従業員には何らかの専門家としての能力を磨き、高度なサービスの担い手を目指してもらうべきだ。付加価値の低い仕事は安く外部に委託したり、取りやめたり、別料金を徴収したりすることを考えたい」としています。

確かに正しい意見だと思います。とはいえ「優秀な」経済新聞の論説委員でもこの認識なのか。と思わずにもいられません。
ちなみに新聞や雑誌の記事を書いたり、編集をしたりするのも、やがてAIに置き換わるだろうと言われています。

「専門家」「高度なサービスの担い手」といいますが、この社説内でも紹介していますが、長崎のハウステンボスのホテルでは、受付だけでなく、コンシェルジュサービスもAIやロボット行われています。
上で述べたように、オックスフォード大学の調査では、「専門家」も多くAIにかわれてしまう。例えば数ある資格試験の中で、最も難しく、知的専門家の頂点とも言える、弁護士の仕事も、過去全ての判例と法律条文をビックデータから読み込んで判断すると言うのは人間の脳よりもAIのほうが、優れた仕事をするだろうということは容易に予想ができます。
アートやの専門家だって、今よりもっと優れたデザインソフトや3Dプリンターがあれば、かなり脅威です。

今まで私たちは「たくさんの知識を持った人」「豊富な知識をもとに推論し判断ができる人」を専門家と呼んできました。
そして専門家養成機関である大学は、そのような人を生み出すため、多くの専門知識が教えられましたし、その大学に入るためには、これまた膨大な基礎知識を暗記する必要がありました。

しかし今やGoogleの検索窓に入力するだけで、あらゆる知識が無料で即座に手にはいります。そして推論や判断もAIが人間の能力を追い越そうとしています。今世紀半ばにはコンピュータの性能が人間の脳を追い抜く「シンギュラリティ」が起こると言われますが、そうなると芸術を含むあらゆる専門分野で、AIが使われるでしょう。いやこうなるとAIが人間を使うのかもしれません。

ではこういう時代に生き残るのは、どのような人でしょうか?

過去の機械化や自動化の歴史を見れば、そのヒントがあります。
工場が機械化された時、多くの労働者がその職を奪われました。そういう中必要とされたのは、その機械を設計、製造できる人、使いこなす人でした。
コンピュータ化の時代には、そのコンピュータを使いこなす人、プログラマー、システムエンジニアなどの、コンピュータシステムを創ることができる人。そしてシリコンバレーの起業家に代表される、そのコンピュータやシステムを使って新しい価値を生み出せる人です。

つまりAI、ロボット時代には、そのAIやロボットを創れる人、活用できる人、AIやロボットを活用して新しい価値を生み出せる人、ということになります。

AIやロボットを創れる人は生き残ること確実でしょうが、これを読んでいる方で、その技術に長けている人はそう多くないでしょう。
活用できる人、機械やパソコンのように、素人では操作が難しいインタフェースの時代なら、こういったものを操作できる人(オペレーター)は必要でしたが、人間より賢いAIやロボット相手にオペレーターがそれほど必要とも思えません。
では最後の「AIやロボットを活用して新しい価値を生み出せる人」とはどんな人でしょうか?
AIやロボットは大抵のことができますが、難しいことがひとつあります。
そもそもAIやロボットはどんなシステムなのかを考えると「課題や問題に対して、その答えを出したり、人の代わりにそれを行ってくれるシステム」と言えるでしょう。
しかしAIもロボットも、正しい答えは出してくれるけれども、正しい問題や課題は出してくれません。

今の時代いろいろと混沌しているのは、「正しい問題」「正しい課題」とはなにかがわからないことにあります。
例えば地球温暖化問題。その原因は二酸化炭素の増加にあることはほぼわかっています。
では、課題は「二酸化炭素の増加を減らしたい」でいいのでしょうか?
では二酸化炭素の増加を減らすには?とAIに命じたとします。その原因である工場の稼働をやめる、人が呼吸をやめる、森林伐採を一切なくす、様々な解答を出してくれるでしょう。
でもそれに従って工場稼働をやめたり、伐採を一切無くせば、経済停滞などまた別の問題が起こることは明らかです。

今の時代に必要なのは、何が正しい問題点なのか、課題点なのかを知ることでしょう。
当サイトでも触れているように、この複雑な社会をシステムとして捉え、問題点、課題点を明らかにしようとするのが、システム思考です。

実は、システム思考と最新のAIは構造的には、非常によく似た構造をしています。
現在のAIの仕組みは、ディープラーニングという、機械学習の一分野であるニューラルネットワークを進化させた技術を活用したものです。
このディープラーニングは、ビッグデータを活用し大量の情報を集めて、その情報の要素のつながりを見つけるという技術です。
例えば、画像認識技術では、大量の猫の写真を解析して、そのパーツ(要素)情報のつながり、例えば目と耳と鼻の位置関係であるとか、足と尻尾の情報など、あらゆる猫画像の情報(要素と要素のつながり)と比べて、この画像に写っているものは「猫」である、と判断します。
システム思考の主要ツールである因果ループ図は、要素の変数とその因果関係から構成されます。そして描かれたループ図から、レバレッジポイント(梃の支点=効果的な解決ポイント)を探して、システムを制御する、つまり社会システムの課題解決を図るのが、システム思考アプローチです。
つまりループ図を作成するのと、AIが機械学習するプロセスはほとんど同じです。
そしてAIは、要素とそのつながりを判断することまではできますが、それ以上のことはできません。システム思考で言うと、ループ図を作成するところまでは、機械学習でも可能ですが、そこからレバレッジポイントを探して解決策を打ち出すということは、最新AI技術(ディープラーニング)では難しいと言われています。

AI、ロボットの時代に生き残ることができるのは、職種や業種はどうあれ、「システム思考ができる人」「システム思考家」しかないといえると思います。