コンサルタントとひとくくりに言っても、様々な種類の人たちがいます。経営コンサルタント、ITコンサルタント、会計コンサルタント、業務コンサルタント、組織コンサルタントなどなど。ちょうどお医者さんが、外科医、内科医、歯科医、耳鼻科医、産婦人科医など更には精神科医など様々な専門に別れているのに似ています。
実際コンサルタントと医者は似ている職業といえなくもありません。身体の調子が悪い際に、その原因を見つけて治療するのが医者で、企業組織や経営者に対してその事業の問題点、課題点を見つけて、その対処法を提案するのがコンサルタントです。
社長や経営者は事業内容に関しては専門家であっても、経営管理や財務戦略、ITなどに関しては外部の専門家に頼ったほうが効率的なケースも多いものです。
身体であれ組織であれ、まず大切なことは、「何が悪いのか」「何が課題なのか」を明らかにすることです。
「お腹が痛い!」と医者に駆け込んだ患者さんの場合、「お腹が痛い」のは、あくまで症状です。ここで患者の言うことだけを聞いて、医者が痛み止めを処方して治療を終えてしまったらどうでしょう?
お腹が痛い症状の原因は、食べ過ぎなのか、食中毒なのか、あるいは胃潰瘍や胃癌なのか。もしかしたらストレスが原因かもしれません。盲腸炎のように胃ではなく他の器官の炎症が原因なのかもしれません。
医者にまず求められるのは、その腹痛の原因を探ることでしょう。そうしないと正しい治療ができないからです。
コンサルタントが求められるのも全く同じです。最近利益率が下がってきたという経営者の悩みは、表面上は、損益計算書という会計指標に表されます。しかし売上や利益というのはその会社の結果であって、原因は見えないところにあることが多いものです。コンサルタントはその原因を探り、医者と同じように対処法を見つけ提案するのが仕事です。
ただしコンサルタントの多くは、専門化が進んでいることもあって、自分の得意分野以外の原因を見つけることはうまくない傾向があります。これは最近の医者にも言えることですが、特にコンサルタントの場合は、原因を探ること無く自社のソリューションを提案したがる傾向にあります。コンサルタント会社も自社ソリューションの提案方法については熱心に教育をしますが、企業の問題点を探る教育はそれほど熱心には行いません。(まったく行なわないことも)だから、ITコンサルタントなら、システムを導入すれば、問題がすべて解決するような話をしたり、会計コンサルは「すべては財務諸表に現れている」的な話をしがちです。
ただしそういうコンサルタントが多いということは、一つのチャンスでもあります。クライアント企業の問題点、課題点を見つけることができて、正しい処方箋を書けるコンサルタントは実はあまり多くないので、この手法を身につければ、大いなる「差別化」を手に入れることができることになるからです。
また、コンサルタントばかりでなく、営業担当者にとっても強力な武器になります。ソリューション営業という言葉が広まって久しいですが、どれほどの人が「商品を売るための課題点の指摘」ではなく、「課題点を正しく把握した上で、自社製品を絡めながら顧客のためになる提案」ができるでしょうか?
この技術を身につければ、他社あるいは他の営業担当者との差別化ができるばかりでなく、顧客と強い信頼で繋がることができ、そのことが更に営業としての価値を高めることになるでしょう。
複雑な社会システムを解きほぐし、目に見えない問題点・課題点を探り当てることができるシステム思考は、まさにそのようなコンサルタントや営業担当者にとって魔法の杖のようなツールになります。
具体的には、因果ループ図を描いて、企業内の問題点課題点を、複雑な因果関係のつながりの中から見つけ出す作業を行います。
そして課題解決点であるレバレッジ・ポイントを探し出します。レバレッジ・ポイントとはてこの支点のことで、そこを動かすと少ない力で組織全体、対象の社会システム全体を動かすことができる点を言います。古代ギリシャの哲学者・科学者のアルキメデスが、「私に支点と長い棒を与えてくれれば、地球全体を動かしてみせよう」と言ったのがまさにレバレッジ・ポイントのことですね。
レバレッジ・ポイントを見つけた後、どのようなやり方で処方箋を見つけるか。これはシステム思考の専門家によって、いくつかの手法があります。アデレード大学のOcci Bosshi教授は毎年慶應SDM(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科)でもシステム思考の講座を持っていますが、彼はベイジアンネットワークで意思決定の有効度を計測して効果的な取り組みを推測するという手法をとり、アジア諸国の様々なチャレンジプログラムで効果を上げています。
私の研究では、顧客価値連鎖分析(Customer Value Chain Analysis: CVCA)との併用が効果的という結果が出ています。CVCAとはステークホルダー間のバリューチェーンを可視化することで、顧客等ステークホルダーとの間、あるいは社員の間で価値連鎖が行われるようにビジネスデザインを行なうツールです。
因果ループ図やCVCAなどの手法については、また頁をあらためて詳細に説明したいと思います。
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