DXとIT導入の違い

DX(デジタルトランスフォーメーション)がブーム(バズワード?)となり、今や大企業ばかりか中小企業にも「DXによる生き残り」が叫ばれています。
特に昨年来のコロナ禍がこれを後押ししていることは間違いないですね。

DXをあまり知らない人にとっては、今までのIT導入と何が違うのか?疑問に思っている人も多いと思います。否、ITベンダーや企業のシステム担当もわかっていない人が多いかもしれません。
コロナ禍対応のためのテレワークシステムの導入や、RPAによる業務効率化を「DXの導入」と勘違いしたり、これらのシステムを売り込む方便として「DXを推進します」と謳っている会社も見られますね。

ご存知のように、DXはデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。直訳すれば、デジタル(IT導入)による変革ということですが、経産省は下記のようなガイドラインを策定しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

つまり「データとデジタル技術の活用」が前半のデジタル(ITシステムの導入)の部分で、後半の「トランスフォーメーション」が「製品やサービス、ビジネスモデルの変革」「業務、組織、プロセス、企業文化・風土の変革」を指しています。

この文章を読めばわかるように、DXにおけるIT技術導入はあくまで手段であって目的ではなく、その目的は、会社そのものの変革であることが分かると思います。

エクセルでDXに成功したワークマン

また、DXというとIOTやAIの活用というのが定番のようになっていますが、これらもツール(手段)であるのは同じです。
「現場作業者服の店」のイメージが強かったワークマンは、「ワークマン+」という若者や女性をターゲットにした店が好調で、ブランドメージも変革しました。この変革で重視されているのが「データ経営」ですが、AIなどのシステムはあえて導入せず、エクセルを使ってデータ管理しているのが特徴です。


 
なぜAIを使わないかと言うと、データ入力をしてAIで解析するとすぐに売上や売れ筋の予測をしてくれますが、そのプロセスが「ブラックボックス」となってしまいます。
データサイエンティストを外部から雇ってトップダウン式でデータを現場に下ろす形ではなく、店員一人一人がエクセルを使いデータを活用して、売れ筋を予測したり最適な仕入れ量を管理できるようにする。
このようにして、ワークマンは会社をトランスフォームすることに成功しました。

DXの導入について、「システム部門だけでなく事業部門を含めた全体設計が必要」「ITベンダー丸投げでは100%失敗する」などと言われているのはこのためです。ワークマンもAIの導入を検討し、これがとても有効なツールであることを認めていますが、それよりも事業部門(店舗)の一人ひとりがデータ活用をできるようにすることが、会社の変革に必要だという認識を示しました。

またベンダー側の意識も少しずつ変わっています。日本のITベンダー大手の富士通は昨年DXに必要なものは「デザイン思考とアジャイルマインド」と述べ、これらを全社に導入すると発表しました。
従来のIT導入と異なり、事業内容そのもののデザインを行うことが必要ですし、新たな価値を創造するためには、従来の計画管理型ではなく、社会や市場と対話しながら柔軟にシステムを構築するアジャイル開発も必須なのは言うまでもありません。

DX設計にはシステム思考が欠かせない

ここからはいざ事業部門を含めた全社的な取り組みが行われたとして、具体的にどのように設計を進めていけばよいか記してみたいと思います。

デザイン思考とアジャイルマインドをシステム開発の現場(要件定義や開発プロセスの作成等)につなげるのに必要なのがシステム思考です。

システム思考とは、社会をシステム(要素とそのつながり)と見て、要素だけに注目するのではなく、そのつながり、全体的な目を持って課題の解決を図る思考法です。
社内の改革にあたっても、表面的な事象だけでなく、その構造やメンタルモデル、そして会社を取り巻く社会の動きとのつながりを見出しながら、どのような方向に会社を変革するか、そして変革のために具体的にどのような行動をとるべきかを示すには、最適な思考法であると考えます。

システム思考を活用した変革手法は、次の4段階にわけて行います。

1.第一段階 DXの基礎を築く
どのように変革するかの基礎。今後会社をどのように変革(Transform)するのか、社員や利害関係者とその方向性を定めます。
具体的には、企業のPurpose(パーパス)の作成と共有ビジョンの構築です。

2.第二段階 現状分析
企業や企業を取り巻く環境の現状分析です。今後の環境変化に対し会社がどのような問題点を抱えているのか知る必要があります。因果ループ図などシステム思考ツールが活用できます。


 
3.第三段階 具体的な目標の作成
第一段階と第二段階の分析をもとに、どのような組織体制が必要なのか、またそれを実現するためには社内にどのような軋轢が生じるのかも挙げていきます。
変革には必ず軋轢や抵抗があります。(もしなければ、それは変革ではない。)

4.現状と目標のギャップを埋める。
このギャップのことをピーター・センゲは「創造的緊張」と呼びましたが、このギャップを埋めるためにどのようなシステムを導入するのかを決めていきます。
多くの企業の変革(Transformation)がうまく行かないのは、この創造的緊張を考慮しないため、理想論で終わったり、システムの表面的な利用にとどまって、肝心の変革が「骨抜き」になるためです。

デザイン思考とアジャイルの活用

上記の4段階の改革を推進するためには、前述のようにデザイン思考とアジャイルの活用が必要です。
どのように変革をデザインするのか。現状分析とプロトタイピングの繰り返しが新たな変革を生み出します。
私達は、このための手法として下図のような、現状分析から事業創出を繰り返し行うフレームワークを作成しています。もちろんツールに頼るだけでなく、上記の4つのメソッドを常に考えながら、ツールやフレームワークを活用していくことが必要なのは言うまでもないと思います。

Iconix for Business Design


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