うまくいかない独裁型・放任型・民主型リーダーシップ

リーダーシップをどうやったら発揮できるのか、リーダースップを持った人間にどうすればなれるのか。人間社会に組織というものが生まれて以来、つまり人類の歴史とともに、この問題は私たちを悩ませてきました。
会社の組織で◯◯長になってる人はもちろん、プロジェクトを進めたり、自分の考えを述べたりするときにも、リーダーシップの有無で事が左右することも少なくありません。

リーダーシップについて書かれた本も、それこそ星の数のようにありますが、その中でリーダーの資質ややり方として、リーダーシップの3つの型について触れてるものが多いようです。
1. 独裁型リーダーシップ
絶対君主制の王の如く、リーダーは絶対権力をもち、すべてを決定し、メンバーはリーダーの言うことに無条件で従う。他の人に比べてリーダーの力や能力が圧倒的に強い場合、あるいは現在の社会でも緊急事態の場合や戦争などではこのようなリーダーシップがとられることがあります。しかしこのようなリーダーのもとでは、メンバーの不満が高まり、面従腹背がおこりがちです。またリーダーも組織のすべてが目に届くわけではないので、末端から組織が乱れることも多いです。革命は辺境から起こる。という言葉がそれを表しています。

2. 放任型リーダーシップ
メンバーの自主性に任せて、リーダーは現場に介入しない。メンバー間の揉め事などの問題や課題もメンバー間の調整に任せます。メンバーの能力が非常に高かったり、目標がそれぞればらばらの組織の場合、このような型のリーダーシップが見られます。しかしながらこのような組織は乱れがちで、リーダーが何かをまとめようとしても、メンバーは従わず、「組織の体を成していない」状態に陥ることもしばしば。

3. 民主型リーダーシップ
リーダーは、選挙など民主的な手法によって選出されることが多い。課題の解決に関しては、リーダーが会議を主催したり、話し合いの場を設けたりするなどして、その課題の解決を図ります。
近代以降の組織ではこのような型が推奨されますが、予期せぬ事が起きたり、緊急事態がおきたりすると、組織不全の形になることも多いです。阪神淡路大震災や東日本大震災のとき、政権には社会党、民主党という、リベラルな政権が担っていましたが、初動体制や原発事故という緊急事態でその対応に批判が集まりました。

ビジネスの場においては、創業リーダーは「独裁型リーダーシップ」を取っている場合が多いようです。アップルのスティーブ・ジョブズやソフトバンクの孫正義など強いリーダーシップで会社を拡大に導いています。しかし常に業績拡大を求められます。業績UPがストップすると、組織のひずみがクローズアップされて、その批判がリーダーに集中することがよくあります。ジョブズも創業10年あまりで、自ら創業した会社から追放されました。
民主的リーダーシップが推奨されることが多いですが、最近では「決められないリーダー」という批判が集まることが多く、強いリーダーが逆に求められたりもします。

リーダーシップの誤解

リーダーシップ論で多い誤解は、リーダーに相応しい「型」がある。というものです。上記3つの型にはそれぞれ利点と欠点があります。この型をとればいい、というものはありません。
リーダーシップとは、行為であり、振る舞いです。そのリーダーの性格や特質に依存するものではありません。
もちろん、「組織を統率する」意思があることは大切ですが、リーダーシップに向いている性格というのは、本来はないと言って良いと思います。
必要なのは、能力であり、技術です。

リーダーシップとは未来をシミュレーションし他人をその方向へ動かせる能力

では、リーダーシップの行為、振る舞いとは何でしょうか。私は未来をシミュレーションし、他人をその方向に動かすことができる能力であると考えます。

もちろん未来を正確に予想できれば、それに越したことはありませんが、残念ながら私たち人間に未来予知能力はありません。
また物事をすすめる時、客観的な正確さが必ず必要というわけではないのです。

ある軍隊の一旅団が、スイスのアルプスで吹雪の中道を見失いました。
そんな中、リーダーは荷物の中から地図を取り出し、その地図を元に部隊は無事生還しました。しかしあとになってこの地図を見直してみると、スペインのピレネー山脈の地図であったことが判明しました。

地図を信じ無事帰還できたのは偶然かもしれません。しかし、現在地や目的地を見失いそうな時、シミュレーションを作りそれにそって行動を起こしてみるのは大事なことです。そうでなければ吹雪の中一歩も動けず、部隊は全滅していたかもしれません。
未来が見えない(これは常にですが)中、組織を率いて進むために大事なことは、未来をシミュレーションできる技術。そして、その未来に向けて、人々を率いる技術です。
アルプスの吹雪のなかでは、リーダーの持っていた地図しか頼りになるものはありませんでした。
周りの誰もが、その地図に頼らざるを得ない時、議論をするよりも、リーダーは独裁型となって、周りを従わせたほうが、助かる確率は高いでしょう。
しかし平時においては、各々がそれぞれの考えを持っている場合が多いので、そういうときには、このやり方は機能しません。

リーダーシップには、システム思考が必要な理由

組織に属する人、あるいは進めるプロジェクトに関わる人(利害関係者=ステークホルダー)を無視してしまって、自分のやりたいようにやっても、うまくはいかないでしょう。
システム思考の一分野であるシステム工学(システムズエンジニアリング)では、ステークホルダーの考えや望むこと(要求)をどうまとめあげるかのプロセスを「要求定義のプロセス」でまとめています。

要求をまとめる手法はいくつかありますが、利害が対立したり、相反するメンバーがいるときは、レバレッジポイント(解決点)を見つけることが大事です。
因果ループ図は、複雑に絡み合った問題のレバレッジポイントを見つけることを目的とします。そして、状態遷移図、ストック&フロー図などシステム思考のツールで、シミュレーションをすることができます。
システム思考はいわば吹雪の山の中の地図の役割を果たしてくれます。

山にはクレバスなど危険な箇所が多いように、物事をすすめるにあたっても、落ち込みやすい箇所を、システム思考では、「システム原型」として示してくれます。システム原型は、ハザードマップの役割を果たすツールといえます。

未来をシミュレーションし、様々な利害を持つメンバーにそれを示す。リーダーシップに役立つメソッドがシステム思考です。