飛行機を飛ばすのにもっとも重要な人は?

飛行機(旅客機)の最大の使命は乗客を安全に目的地まで運ぶことです。ではそのスタッフでもっとも重要な人はだれでしょうか?
操縦士、機長、客室乗務員、管制官。それぞれが重要な役割を担っていますが、最も大事な人というと、飛行機の「設計者」です。
目的地までの飛行中、悪天候など様々なトラブルが起こりえます。ときには、操縦士の身体に異常をきたしてしまう事態も考えられます。
そういうときに、機長や操縦士の「腕」だけに頼るのは、ある意味危険なことですね。どんなに訓練を重ねても、人はミスをおこします。(自動車を運転している方の多くが、事故は起こさないまでもヒヤッとした経験をお持ちではないでしょうか?)
どのようなアクシデントやトラブルが起こっても、安全に目的地まで飛行できるよう航空機が設計されていることが何より重要な事です。

直接指導できるのは7人まで

リーダーシップというと、他人を従わせたり、自分の意見をまわりに認めさせたりすることと思われがちです。たしかにそういう直接コミュニケーションの能力もリーダーシップに必要ですが、こういうふうに直接従わせるようにできる人数は、どんな人でも7人が限界と言われています。
目を配る、という程度ならもっと多くの人を配下に持つことができるでしょうが、それでも1人が配下にもつことができるのは150人が限界だそうです。
ゴアテックス社は、工場を立てるときには、駐車場のスペースを150台分しか造らず、それが一杯になる頃を次の新工場建設のサインにしているという話があります。
それ以上の組織になると、もう1人が直接的にリーダーシップを発揮するのは、人間の能力では無理なことなのです。
しかし現在社会では、7人以上の部下を持つことは、少なくありません。大企業にお勤めの方で中堅以上の人では、直接間接を含めた部下の総計が150人を超えることは、めずらしくはないでしょう。

またリーダーシップを広く、他人に影響を与える能力と捉えれば、ビジネスを行っている方であれば、「顧客」から支持をうけることもまたリーダーシップとも言えます。
数百人、あるいは数千、数万の顧客から支持を受けるためには、どうすればよいのでしょうか?

ピラミッド組織と論理思考(ロジカル・シンキング)

7人以上、あるいは150人以上の部下を管理するため、産み出された手法が「ピラミッド組織」です。
7人の部下が、それぞれ7人の部下を持つピラミッドを作れば、7×7の49人。さらにもう1階層を増やせば、344人の部下の管理ができます。
このように階層を増やしていけば、数千、数万の組織を統制することも可能になります。
そして各人に機能(タスク)を割り当てる。組織全体が動くようもれなくダブり無く(MECE)、割り当てたものが、現在政治組織、企業組織で行われていることです。
これはまさに論理思考(ロジカル・シンキング)を組織に当てはめたものです。

このピラミッド組織は、うまく働けば個人や単なる集団の持つ能力を遥かに超えた成果を上げることが可能になります。

ピラミッド型組織の欠点

ただし、この論理思考(ロジカル・シンキング)に裏付けされた、ピラミッド組織にも欠点があります。
決められたタスクをこなしていくのは、とても得意なのですが、現在のように社会環境や経営環境が移り変わるとき、組織全体が対応するのは非常に難しいです。
例えるなら、ジュラ紀に対応して大きくなった恐竜が、突然の環境の変化に対応できず滅びてしまったように。
まさに21世紀の日本は、政治や経済、企業経営において、この環境の変化が起こっている最中と言えるでしょう。

現在、政治の分野でも、企業経営の分野でも「強いリーダーシップ」が求められています。
これは、まさに論理思考(ロジカル・シンキング)に基づいた「ピラミッド型組織の限界」に多くの人が気づいているからです。

また少し前には、ピラミッド組織を排した「フラット経営」なるものがブームになりましたが、いつの間にか聞かれなくなりました。

しかしそもそもが、個人のリーダーシップ能力の限界を補う形で発展したピラミッド型組織。そのピラミッド型組織がうまく機能しないからといって、また個人の能力云々が問われるのは、それこそ論理矛盾していると思いませんか?

実はこれが、現在の政治や経済、企業統治などにおける最大の問題点となっているのです。

空気を設計するのがリーダーシップ

ここで、冒頭に章で述べたことに戻ります。リーダーシップに最も必要なことは、トラブルをうまく処理することでも、目の前にいる相手を従わせる能力でもありません。
組織をうまく設計すること。トラブルに見舞われても、あるいは中間管理職のだれかがミスを起こしても、それが全体にダメージを与えない組織設計をする。これがリーダーの役割です。そして飛行中に機長がいちいちエンジンの調子や燃料に気を配っているわけではないように(そんな飛行機には乗りたくないですね)、日々の業務に介入するのがリーダーの本来の役割ではありません。
役割にあわせた組織図をつくって業務を割り当てるのは最低限の業務です。
リーダーはが設計するのは、社員のやる気とか、イノベーションが生まれるような社内の雰囲気。つまり目に見ないいわば空気です。
その設計ができないリーダーは、直接コミュニケーションに頼るしかありません。
朝礼で延々と「お前らはやる気が見られない!」と説教を繰り返すリーダーの姿が見られますが、そう言われてやる気を出す社員などほとんどいないでしょう。
売上が上がらない社員をみんなの前で罵倒しても、その社員はますます萎縮してしまうだけだし、社内の雰囲気がそれでよくなることはありません。

そんなことをしなくても社員がやる気をもち、いきいきと働く会社は色々ありますが、共通しているのは、リーダーがうまく空気を作っている組織であるということです。

システム思考でつくる真に強い組織

空気とはなにかというと、目に見えず、人と人の間にあるものです。
新規部署をつくるなど組織そのものをいじる以外で組織を変えようとすると、ピラミッド組織(論理思考)では、その要素である、組織に属する人を変えるしかありません。
不祥事があると、その担当者や責任者、場合によってはTOPが更迭されるのは、そういう理由です。
しかし、(明らかに人選ミスがある場合は除き)クビをすげ替えたからと言って、そのあと組織が良くなる保証はありません。
なぜなら本当に問題なのは、人である要素よりもその間にある空気だからです。

そしてその空気を設計するのが、リーダーの重要な役割なのですが、それができるのが「システム思考」です。
やる気や雰囲気など組織にある「空気」をもう少し言葉を変えれば、人という要素を繋ぐもの、相互作用を起こしているものです。
これは「システムの定義」であることはもうご存知でしょう。

システム思考を駆使して、真に強い組織を創る。これがリーダーに最も求められているものであり、役割です。