「夢やかなえたい」「目標を達成したい」
子供が想う「将来は総理大臣」「サッカー選手」「アイドル歌手」」と言った微笑ましいものから、「年収〇千万円以上」「家を持ちたい」「いい車に乗りたい」というちょっと生々しいもの、「今月末までに売上をあと〇〇万円!」といった切実なものまで、人は様々な夢、目標をもって(追われて?)いる生き物といえます。

上記の夢、あるいは目標をもう少し詳しく見ると、「社会システムをうまく活用して、自分のやりたいことをしたい」というふうに捉えることができるでしょう。
後半は解ると思いますが、前半の「社会システムを活用して」を少し解説してみたいと思います。

上記の夢の対象はみな、人が作った「社会システム」の要素です。総理大臣は、明治時代に日本人が創った政治システムで、総理大臣とは何か、どうすれば総理大臣になれるのか、時代とともに変わるとはいえ、政治システムによって定められているものです。
「サッカー選手」もそうですね。Jリーグという「プロスポーツシステム」があります。このシステムの一員となるにはどうすればいいのか。サッカー選手希望者は、具体的に考える必要があります。
ビジネスも人が作ったシステムです。

つまり私たちが「夢」と言っているものの多くは、「社会システム」が対象のもの。
それらのシステムがどうなっているのか制度を理解することが、夢への第一歩なのです。

しかしながらそれを理解したからと言って、それだけでは活用できたことにはならない。
総理大臣になる制度を理解しても、総理大臣になれるわけではないし、アイドルのオーディション要綱を理解してもアイドルになれるわけでもない。
例えばあなたが選挙に通って国会議員になれたとします。あなたはこの時点で政治システムの一員、一要素となりました。
でもこのシステムはひとところにとどまっているわけではなく、いろいろな人の思惑、欲望、想いなどがいりまじり、ダイナミックに動いています。あなたはそれを理解し、活用し、自分の味方にしなければならない。
ビジネスという社会システム、会社という社会システムも同じ。

この社会システムを味方につけるにはどうすればいいのでしょうか?

リーダーを経験したことのある人ならだれもが経験していると思いますが、組織というシステムは、リーダーの完全に思い通りになることはありません。しかし全く無秩序かというとそうでもない。

組織に限らず、あらゆるシステムは、なんらかの「ふるまい」をしています。コンピュータのプログラミング『Aと入力すればBが出力される』もふるまいですし、国会議員が発言したり暴言を吐いたり、それに対して世間が評価したり怒ったり、というのもふるまいです。ビジネス上のあなたの何らかの行動ももちろん「ふるまい」。
そして個々の要素のふるまいがそれぞれつながって、大きな社会システムを形作っています。

この社会システムを形作る個々の「ふるまい」と「つながり」、この2つを基に分析すれば、その社会システムの将来を予想(シミュレート)できたり、想い描く未来に近づけるようシステム全体を動かすことができるのでないだろうか?

そのように考えたのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)のジェイ・フォレスター教授。
彼の生み出した「システム・ダイナミクス」は、ビジネスや自治体の課題解決、あるいは地球環境問題まで、あらゆる分野で活用されました。
例を挙げると、「このまま経済成長を続けていくと、資源や環境といった『地球のもつ許容量』がそれに耐えられなくなってしまう」と世界で初めて警告したのはローマクラブの「成長の限界」というレポートですが、これをシミュレーションしたのが『WORLD3』というフォレスター教授らのシステム・ダイナミクス・モデルです。
このモデルは、1972年に発表されましたが、その翌年に石油ショックが起き、「予言の書」として一気に注目を集めました。
そして最近また、地球温暖化問題を警鐘したモデルであると再注目されています。

「システム・ダイナミクス」はコンピュータを使ったシミュレーションモデルですが、ふるまいの方向性を考え、それがシステム全体にとって良い方向に動くかどうか、悪い方向に動くのかという程度なら、コンピュータを使わずとも、予測は可能なのではないか。
あるいは、システムを簡略化して見せることで、どの部分のふるまいがキーになるかわかれば、そこからうまくいく方法を考えることができるのではないか。そういったことができれば、社会システムにかかわる人だれもが活用できるようになるのではないか。
ジェイ・フォレスターと同じくMITのピーター・センゲ博士らはそう考え、「システム思考」として世に広める活動を行いました。

紙とペンがあればだれでもできるとあって、米国の小中学校などにも教育プログラムにも採用されています。

このシステム思考、現在では現場 ~特に経営者~ の「課題解決」に活用されることが多いのですが、個人の夢や目標の実現に大いに役立つメソッドでもあることはいうまでもありません。

むろん夢や目標は様々なものがあると思います。例えば私の子供のころの夢は、彗星(ほうき星)を発見して自分の名前を付けることでした。この夢の実現のために、望遠鏡を買うとか、星のきれいな田舎に引っ越すとかはいまの社会システムの範囲でできたと思いますが、実際に彗星が現れるようにするのは、システム思考でも難しいでしょう。(それでも統計データとかで、可能性の高いやり方を編み出すことまではできるでしょうが)

でも夢の対象が、何らかの社会システムであるならば、システム思考が個人の夢や標の達成にとても役立つツールであることをぜひ伝えたいと思っているのです。