デザイン思考(デザインシンキング)とは
2010年ころから、日本でもデザイン思考(デザインシンキング)が注目されるようになり、書店でも様々な本が見られるようになりました。デザイン思考という言葉は、シリコンバレーのデザイン会社IDEO創業者のケリー兄弟と言われています。
彼らは会社経営の傍ら、スタンフォード大学でd-schoolという講座を開いています。
このd-schoolを範にしたのが、慶応大学大学院のシステムデザイン・マネジメント(SDM)研究科のデザインプロジェクトを始め、各大学でのデザイン講座です。
デザイン思考を定義すると、「デザイナーの思考法で新たな価値づくりを行う」となります。
今までのマーケティングや製品製造の主流のやり方は、アンケートなどの市場調査を元に、世間から必要とされる機能を効率よく生産すること。となると思います。
このやり方は、いわゆる「持続的イノベーション」には優れたやり方でした。
しかし、必要とされるものが一通り普及し、欲望(物欲)が満たされた今の先進国社会では、新たにほしいもの、欲しい機能も一様ではありません。
また、求められるものも、いわゆる「◯◯ができる機能」というよりも、使い勝手であったり、快適さ、気持ちよさといった、「センス」「感性」という方向に移ってきました。
そういう理詰めではなかなか解決できない課題に対して、IDEOやフロッグといったデザイン会社が、(アクセンチュアやマッキンゼーいったコンサルティング会社が担っていた領域に)そのデザイナーの感性で課題解決を行うと喧伝されたのがデザイン思考です。
デザイン思考の手法
IDEOがデザイン思考プロセスと呼んでいるのは次のような流れです。
観察・共感
対象者(多くは顧客)を観察する。いわゆるアンケートや取材(インタビュー)でありがちな、データを取るのではなく、実際に目で見たり(オブザベーション)、自分自身もコミュニティに属して一緒に生活をする(エスノグラフィ)。そうした中で得られた「共感」を得ることが最初のステップです。
課題設定
オブザベーションやエスノグラフィで得られた共感をもとに、何を困っているのか、どんなことが不便なのかといった「課題設定」を行います。
アイデア出し(アイディエーション)
上記の「課題設定」に対して、どんな解決手段があるか、アイデア出しを行います。
「ブレインストーミング」「親和図法」「KJ法」「ワールドカフェ」など様々な手法があります。アイデア出しの手法は、ワークショップ講座などでも体験された方も多いでしょう。(詳しくは後述)
プロトタイプ
アイディエーションで出たアイデアをもとに実際にプロトタイプを作ってみます。
テスト
プロトタイプを元にテストを行い、そこで得た課題を元に、またアイディエーション以降のプロセスを繰り返します。
アイディエーションの手法について
上述したようにアイディエーションの手法は「ブレインストーミング」「親和図法」など様々なものがあります。
ワークショップなどでもいろいろな手法が行われていて、多くの場合ファシリテーターがリーダーシップを取って、どの手法を使うか決めます。
このようにたくさんのやり方がありますが、アイディエーションの目的は1つに絞られ、手法は2つだけです。目的は今までの固定概念に縛られない「枠外思考」をおこなうこと。これにつきます。
その「枠外思考」になるように行うのが様々な手法ですが、それも2つに集約できます。
1つには、多様バックグラウンドを持つ人が一同に介して一緒に考える。
いわゆる「優秀な人」を厳選してアイデアを考えるより、「様々なレベルや考え方」を持つ人を集めたほうが、今までにない面白いアイデアが出やすい。というのは様々な実験でも確かめられています。これは最近のダイバーシティ論の根拠になっています。
もう1つは発散と収束を繰り返す。
例えば「ブレインストーミング」法は、発散手法。ここではとんでもない考えや実現不可能なアイデアを気にすることなく、どんどん考えを出していきます。そして「親和図法」「KJ法」などは発散してとっちらかったアイデアをまとめる(収束する)手法です。この発散と収束を繰り返すことで、最後に「今までにないけれど実現可能」なアイデアに収束させていくのです。
デザイン思考の欠点は
デザイン思考を活用したワークショップは、多くの企業や特に自治体に採用され、事業計画などの方針の作成や、新製品開発などに取り入れられています。
また、枠を払う訓練としても優れているので、研修などで採用されています。
一方で、ファシリテーターの能力に左右される。(参加者にとって)その場限りのものになりがちという欠点もあります。
ワークショップに参加して、そのときはうまくいく気がしたけれど、いざ自分の課題にどうすればいいかよくわからない。
日常やビジネスの様々な場面で、いちいちワークショプなどできないし、そのたびにファシリテーターを呼ぶことも現実には難しいでしょう。
また1人で解決しなければならないときもある。
また最大の欠点(?)は、デザイン思考によるプロセスは、あくまでイノベーションのプロセスの一部であって、それがうまくいったとしても、イノベーションのプロセスを描くことができないという点です。
イノベーションは技術革新ではない。述べましたが、実際に新しいアイデアが生まれても、それを普及させる、あるいは実際の夢や目標を達成するためには、それを世間に浸透させるとか普及させる、抵抗するもの(こと)を克服するというプロセスが必要です。
いわば、デザイン思考は「卵から生まれる」「種から芽が出る」ためのプロセス。もちろん孵化がないことには、次に進めない。最も大事なポイントであることには違いないのですが、卵からかえった稚魚のうち親魚になれるのは1%以下と言われるように、そのあとのプロセスが実際には大切です。
それらを助けるのが実は「システム思考」です。
慶応大学大学院SDM研究科では「システム×デザイン思考」という言い方をしますが、実はシステム思考とデザイン思考は車の両輪の関係。
頭脳でいえば左脳と右脳。どちらが欠けてもうまくいかない。
詳しくは、システム思考を活用しイノベーションを生む方法(システム思考編)で述べようと思います。