願望実現法(引き寄せの法則)とは

本屋さんの自己啓発本コーナーに行くと、願望実現法とか引き寄せの法則、といった類の本を常に見かけます。
曰く、「心で願うことは宇宙の原理で実現する」「ポジティブマインドが大事」。古くはナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」あるいはマーフィー法則で知られる「眠りながら成功する」シリーズなどもロングセラーです。少し前にはリンダ・バーンの「ザ・シークレット」その他様々な著者による本が並び、またセミナーなども行われているようです。

願望実現法(引き寄せの法則)の説くところはと言うと、本によって解釈は様々ですが、「法則」とあるように、これは万有引力の法則とか質量保存の法則のような、宇宙の法則であるとするものが多いようです。波動や量子力学を根拠にするものもあります。

引き寄せの法則は異端宗教の教え

少数の例外を除いて、この手の本ではあまり触れられていないことですが、この「引き寄せの法則」は、キリスト教の異端宗派と言われる「ニューソート」の教義です。
ニューソートは、19世紀の米国で生まれた宗派です。教祖のアーネスト・クインビーは、もともと時計職人でしたが、フランツ・メスメルの弟子に当たる人の治療を受けてから、自分も治療者そして宗教の道に入りました。
メスメルは今では「催眠術の祖」として知られており、彼の治療は今日でいう催眠療法ですが、当時は「動物磁気」「宇宙磁気」の力で病気を治すと信じられていました。

クインビーとその後継者は、信じることで病気が治り、また願望や夢も実現すると教えを広めます。そして産業革命が始まった当時の米国でニューソートの教えはブームとなりました。米国はもともとピューリタンの流れをくみ、勤勉・清貧を尊ぶ文化でしたが、ポジティブな思想が広まるきっかけになり、今日の「アメリカン・ドリーム」の米国人気質にも繋がったと言われています。

ニューソートは教義を広めるため、出版を大いに活用しました。中でも1897年に出版されたトラインの「幸せはあなたの心に」は、世界的なベストセラーになりました。
トラインの本は、その後に出された、あらゆる「引き寄せの法則」「願望実現法」の原点となっています。また「眠りながら成功する」シリーズのジョセフ・マーフィーもニューソート派「ディバイン・サイエンス」の牧師です。

なお、このニューソートは、キリストが人々を治療したのもこの宇宙磁気の効用であると考えており、「精霊」と言われているのがそれであると説いています。
すなわち、「神」「キリスト」「精霊」の三位一体を否定していることから、主流派の「カトリック」「プロテスタント」からは異端とされています。

私自身は宗教を否定するものではありませんが、逆に「宗教の教え」であることを知らず、あるいは隠すようにして、願望実現法や引き寄せの法則は、「この宇宙の真理である」ような説明をするのは、いかがかなと思わなくはないです。

また、人間関係や対人関係の問題で、「引き寄せの法則」を持ち出すのはある種危険があるとも考えています。
例えば「眠りながら成功する」シリーズでも、恋愛問題、願うことで好きな人と両思いになった、ということが描かれています。
一見、とても良いことのように思えますが、よく考えてみると、これは相手の心を操作できることになります。つまり逆に考えれば、あなた自身も誰かに好かれて、願望実現法や引き寄せの法則の対象になっているかもしれません。
もちろん、その人が良い人なら何の問題もないのですが、あなたの好みじゃない人、ひどい場合にはストーカーみたいな人に、あなたが想われていたら……。ちょっとゾッとしませんか?

システム思考から見る願望実現法の真実

ただし、「願望実現法」や「引き寄せの法則」がまったく嘘で、役立たないものなのか?というと意外とそうでもありません。
実際トラインの本は、ヘンリー・フォードも絶賛していますし、日本では間接的に稲盛和夫にも影響を与えています。

実は、これらは、何か神秘的なものとか宇宙の法則のようなものではなく、システム思考で考えると、願望実現法も引き寄せの法則も、正のフィードバック現象(自己強化ループ)で説明ができてしまいます。

引き寄せの法則

成功を信じて、前向きに考えることで、それが自信を持った力強い行動に繋がり、それが成果へと結びつきます。そして成果をあげたことで、それがまた自信につながってより積極的な行動につながって、それが成果を呼び込む。

結果、想ったことが実現する。ポジティブな心が成功を呼び込むといったことが実現するのです。

ビジネスで「想えば叶う」提唱者の多くが創業者の理由

企業の行動でも、今後の見通しを成長するとポジティブに考える企業と、ネガティブに考える企業があったとすると、成長すると考える企業は、積極的に投資を行い、製品の性能を高め、また規模の経済を働かせることで、さらに大きなシェアを取る事ができる。
結果、ポジティブに考える企業もネガティブに考える企業も、その「考えたこと」は双方とも実現するのです。
ただし、これが当てはまるのは多くの場合、成長市場に於いてです。成熟市場では過剰投資になり逆に業績悪化に繋がることも少なくありません。(例えば東芝の原発投資)

ビジネス分野でも、「想えば叶う!」「成功するという想いが大事」唱えるひとの多くがその事業の「創業者」であるのはそういう理由があります。

ほんとうの意味で夢を叶えよう

「願望実現法」「引き寄せの法則」を信じることは、上述のように、ビジネスや人間関係に良い影響を与えることがあります。
ただこれも行動あればこそ。そして行動の結果としての成果を積み重ねることが、自信に繋がったり、前向きな心をより強くしたりします。

ただジョセフ・マーフィーに代表される宗教の影響を受けている本では、「強く念じること」の重要性の記述が多く見られます。
現実には行動せずに祈ってばかりいても、少なくともビジネスや人間関係の問題では、一歩も前進することができません。
自己啓発セミナーで、「強く念じる方法」とか「効果的な念じ方」を教えるなどというのもあります。中には「大声で叫ぶ」のような洗脳のようなことも行われたりしていますが(おそらく宗教のイニシエーションにヒントを得たのでしょう)、念じ方の良し悪しで、成果が左右されることは現実にはありません。

行動して実際に小さくても成功を収めたほうが、強く信じることができるようになるでしょう。大事なのは、正のフィードバックループ(自己強化ループ)を回し続けることです。