キリスト教ニューソート派ディヴァイン・サイエンス教会の牧師であるジョセフ・マーフィーは「不安は貧困・病気などの原因である」と述べています。「不安は人類最大の敵である」とも。
では、不安を無くせば、人類皆幸福、すべてうまくいくのでしょうか?
「そのとおりだ」というのがニューソートの教義ですが。。。
アメリカ人は意外と幸福ではない
2017年3月に国連によって発表された国別幸福度調査によると、1位はノルウェイ、2位はデンマーク、3位はアイスランドと北欧の国が並んでいます。そして世界唯一の超大国でGNPはもちろん世界1位の経済大国である米国は、14位と西欧諸国の中では低い方です。
(ちなみに日本は51位とかなり下です)
アメリカンドリームという言葉があるように、自他共に認めるポジティブ・シンキング大国のアメリカの幸福度が低いのは何故でしょうか。
「思いは実現する」「引き寄せの法則」を教義とするニューソートが米国で生まれて1世紀半。このニューソート思想はアメリカ人をポジティブな国民に変えましたが、その結果、世界で生産される抗うつ剤の3分の2が米国で使われているという国になりました。
今でもアメリカ、そして日本でも「成功哲学」のセミナーやワークショップが盛んに行われています。本屋に行けば「成功法則」の本がずらりと並んでいます。
夢をかなえたいと願う多くの人が「引き寄せの法則」とい言葉を聞いたことがあり、中にはそれを信じていたり、熱心に実践している人がたくさんいます。
それにもかかわらず、日米ともにこの幸福度の低さはどう説明すれば良いのでしょうか?
貯蓄と不安の相関関係
3匹の子豚というおとぎ話、おそらく誰もがご存知だと思います。1匹目の子豚は藁で家を建て、2匹めの子豚は木で家を建てましたが、いずれもオオカミの鼻息で吹き飛ばされてしまいます。そしてこの2匹は3匹目の子豚が建てたレンガの家に逃げ込み、事なきを得たという話ですね。
このように「家」とは、私たちを外敵から守るもの、あるいは暑さや寒さ、雨や風から私たちを守るために建てられました。
私たちが「家を建てたい」と願うのは、そもそもが不安感の裏返しであることがわかります。
今では外敵や気象の不安と合わせて、将来への不安、老後の不安から家やマンションを買いたいという人も多くいます。
人が本当に「ポジティブ・シンキング」ならば、「そもそも家なんてなくてもなんの心配もない」と考えるほうが自然ではないでしょうか?
貯金や貯蓄にしても同じことがいえます。
「1千万円貯まっている貯金通帳をイメージしましょう」
ということを唱えている人がいますが、「お金をためたい」というのはマーフィーが「人類の最大の敵」と認定した不安心理からきているものです。
経済学は「貯蓄のパラドックス」という言葉があります。「お金持ちになるために貯蓄をする(財産を貯める)」いうのは個人にとって正しい行動ですが、そう思って国民全体が貯蓄に励んだら、実はますます貧しくなる。というパラソックスです。
貯蓄を増やすと。その分消費が減ります。消費が減ると企業の売上が下がり、利益が減るので従業員を減らしたり給与を下げようとします。そうすると、不安心理が働いて、不要の消費を抑え、将来のため貯蓄を増やそうとします。そうするとまた企業の売上が下がり。。。
だから経済政策では不況になると、消費を増やそうと減税をしたり銀行の金利を下げて消費を増やそうとするわけです。
「ポジティブ・シンキング」「引き寄せの法則」を信じる人は、貯蓄なんかしてはいけないのです。
これは将来が不安、老後が不安などの「人類最大の敵」を利する行為ですから。
引き寄せの法則は地獄への道?
実際ポジティブ大国の国の米国人は、マーフィーの教えの通り、貯蓄より消費に励みます。
ニューソート派の牧師ジョエル・オスティーンは「われわれが望むもの、たとえば立派な家を購入することは、神の望みである」と主張します。
2006年ロンダ・バーンは「ザ・シークレット」を出版しますが、その翌年サブプライムローン問題が起き、リーマンショックが世界を覆います。
2008年3月のタイム誌は、「Maybe We should Blame God for the Subprime Mortgage Mess(サブプライムローン問題の責任は神にあるかもしれない)」という記事を書き、「引き寄せの法則」でこの空気を煽ったオスティーンやロンダ・バーンを批判しました。
将来への不安に目をつぶり、良いことしか考えない、ポジティブシンキング大国のアメリカ、そしてそれを追いかける日本。
一方で、将来不安に備えるため、国民から税金をたっぷり取り、高福祉政策を実施している北欧諸国。
少なくとも幸福度調査という物差しからは、どちらが国民の幸福につながっているのか、明らかになっているように思えます。