ネガティブ・マインドの正体はバランス・フィードバック

自己啓発本(いわゆる”成功本”)や自己啓発セミナー、成功哲学ワークショップなどに行くと、多くの場合、成功するためには『成功者としての心構えを学ばなければならない』と教えられます。
そして、その成功者の心構えとは殆どの場合「自分は成功するのだと強く信じる」という内容です。
「いまチャレンジしているビジネスでNo.1になる」「出世して年収1千万以上になる」

なぜそういうことをしなければいけないかというと、人の心にはポジティブ・マインドと、ネガティブ・マインドがあり、成功できないのは「◯◯で成功したい」と願っていても「いや、そううまくはいかないんじゃないか」と思ってしまう。その心が成功の妨げになる。と言うのです。

確かに、「自分はなにをやっても絶対にうまくいかない」と言う人はいます。「自分は何をやってもダメだ。才能はないし性格も悪い、容姿もひどい、自分なんて死んだほうがマシだ」と思い込んで引きこもりになる。
学校や家庭環境、職場環境の中で自信をなくしたり、精神を病んで鬱になってしまう。
このような方のケースは、専門の治療が必要な分野にあたりますので、本稿の対象外といたします。

しかしながら普通の人が対象でも「ネガティブに考えることは良くない」「心から成功を信じなければいけない」というのが、成功のために必須であると主張していますが、それは正しいのでしょうか?

「自分は何をやっても絶対に成功しない」のはたしかに「ネガティブ・マインド」と言ってもいいかもしれません。
でも成功したいと願う一方で、「失敗するかもしれない」「ミスをするかもしれない」と思うのはネガティブ、つまり反対のことを思う気持ち、というより、心が一方に振り切れるのをストップさせようとする感情、ブレーキの感情という方が近いでしょう。「システム思考」では「バランス・フィードバック」と呼んでいます。

上記の「自己啓発セミナー」では、このブレーキの感情を押さえよ、その感情が心に浮かんではいけない、といいます。

しかしながら普通の人には難しいことです。
プラス感情があればマイナス感情もある。契約が取れたり、誰かに褒められたとき、このまままくいくに違いない、と思う一方で、壁にぶつかったり、ミスをした時、もうだめなんじゃないかと落ち込む。
殆どのひとがこういう感情を持っているのではないでしょうか?

だからこそ、特別な訓練を受けなければいけない。本や、高い教材を買ったり、高額なセミナーを受ける必要がある。それで成功するのなら安いものである。
こう思い込んでいる人、あなたのまわりもいないでしょうか?

「成功哲学」をシステム思考で解いてみる

「成功哲学」や「引き寄せの法則」を「システム思考」でよく使われる、因果ループ図で説明してみましょう。

「システム思考」とは、様々な社会の仕組みを「システム」として捉え課題解決や目標の達成につなげることをいいます。
そして「システム」とは、「目的を成し遂げるための、相互に作用する要素(element)を組み合わせたものである。」と定義されます。

この要素と要素の間の相互関係(因果関係)を図示して「目的の達成」につなげるのが「因果ループ図」で、実はとてもシンプルなものです。

自己強化ループ
図1 自己強化ループ

図の「成功」「成功を信じる気持ち」が要素。そして矢印が要素間の因果関係を表します。
この図を説明すると、「成功を信じる気持ち」が強くなると、やる気が出て「行動」の度合いが強くなります。
そして「行動」の度合いが強くなれば「成功」の度合いが強くなる(成功に近づく)。ということです。

「成功」に近づくと、もちろん「成功を信じる気持ち」はますます近づきます。そうするとまた「行動」に弾みがついて。。。

銀行に預けた利子が複利で際限なく増えていくように。。。
これが成功を信じる心と、成功の相互関係です。

「システム思考」で考えると、とてもシンプルでわかりやすいのがわかると思います。
ニューソート(異端キリスト教)の布教活動のように、「引き寄せの法則」だの「宇宙の波動のちから」など持ち出す必要はありません。

この「自己強化ループ」は、取り組んだ直後には、必ずと行っていいほど(それなりには)効果が上がりますから、
「この方法は素晴らしい」
という人がたくさんいるのも間違いないのです。

もしネガティブ・マインド(バランス・フィードバック)がなくなったら

ところが残念ながら、この状態が続くかというと、そうは問屋がおろしません。
前に書いたように、人には「うまくいかないんじゃないかな」と、ポジティブな気が上がると、それにブレーキを書けるような心理も働くからです。
そのことを踏まえた「因果ループ図」がこちらです。


図2 自己強化&バランスループ

この因果ループ図の説明も、ほぼ前と一緒ですが、「失敗を恐れる気持ち」と「行動」の赤い矢印は、この2つの要素の関係が、負の因果関係にあることを示しています。「失敗を恐れる気持ち」が強くなると、「行動」は減ります。逆も言えて、「失敗を恐れる気持ち」が弱いほど「行動」は増す。これを負のフィードバック(バランス・フィードバック)といいます。まるで一方に行きすぎないようにブレーキを掛けているようにみえる。バランスを取っているように見えることから、これを「バランス・ループ」と呼んでいます。

だから「成功哲学」では、この「ネガティブ・マインド」を無くしましょう。と唱えているのですね。

では、このバランス・ループの原因である「失敗を恐れる気持ち」を無くせば(それができるとして)うまくいくのでしょうか?

もう一度図1の自己強化ループに戻ってみましょう。
さて、このループ、永遠にうまく回ってくれるのでしょうか?

「成功を信じる気持ち」→「行動」→「成功」という流れですが、ここでは簡単に書いていますが、現実に行動はすべて成功につながるでしょうか?
人間誰でもミスをしますし、間違いを犯します。あるいは予想もしなかったような事件や事故、経済変動などの出来事が襲うこともあるかもしれません。そうすると、「成功」にブレーキがかかります。
「成功」にブレーキがかかると、やはり因果関係にある「成功する気持ち」にもブレーキがかかります。そうするとまた「行動」にブレーキがかかって、と今度はまるで逆回転が止まらない状態になります。

利息というシステムで銀行は、あなたの財産を永遠に増やしてくれるように見えますが、同じシステムで一旦借金をすると、際限なく負債が増える、というのと似ています。

また図2の自己強化&バランスループをもう一度見てください。
実はこのようなとき、「失敗を恐れる気持ち」が、その逆回転が止まらない状態にならないように、ブレーキをかけてくれます。
また、ネガティブ・マインドにはミスを防いだり、良くないことが起こることに備えて、予防策や対応策をとる原動力です。

ポジティブ・マインドだからすべてうまくいく、ネガティブ・マインドだから絶対に悪い結果になる、という単純なものでないのです。

ニューソートが「引き寄せの法則」を考えた19世紀までの単純な世界なら、「引き寄せの法則」も「願望実現」もうまくいくのかもしれませんが、21世紀では通用しないことも覚えておいてたほうが良いと思います。