システムダイナミクスの生みの親ジェイ・フォレスター

システムダイナミクスの生みの親であるジェイ・フォレスターは、1918年ネブラスカの農家の家に生まれました。
第二次大戦中は、サーボ機構と言われるミサイルの自動制御装置等の開発に従事していました。
自動制御装置は、フィードバック系技術という、飛び続けるミサイルやロケット刻々と変わる情報をリアルタイムで収集しながら今の位置を確認し、たえず修正し続ける技術です。

後にダイナミズムな経営環境の意思決定など各分野でも活用されることになります。

刻々と変わる状況の中で、自分の位置を把握し、目標とどのくらいずれがあるのか、目的に達するためにどう修正すればいいのかそのために自動的に意思決定を行う。
現在ではこの技術は、ミサイルなどの軍事技術。ロケットや人工衛星といった宇宙技術だけでなく、株価を予測してデリバティブ取引を行う金融分野、経営の意思決定に使用されるようになりました。

戦後は冷戦構造の中で、米本土のミサイル防衛システムの根幹の技術開発を行っていましたが、1956年、MITのスローン経営大学院に移って、企業の課題解決システムのプロジェクトを立ち上げました。
このときジェイ・フォレスターのメソッドで経営の分野で効果を上げたのがGE(ゼネラル・エレクトリック)です。

当時GEは、ほぼ3年毎におこる利益変動に悩んでいました。
景気が良くなると、雇用を増やし製造や営業に力を注ごうとしますが、3年後には景気が悪くなり人手が余ってしまう。そのためやむなくレイオフなど雇用調整を行いますが、そうすると3年後くらいから売上が上がってくる中で、今度は人手が足りなくなる。

ジェイ・フォレスターのシミュレーションでは驚くべきことが明らかになりました。
それまで、GEの幹部たちは、景気変動で売上の波が起こると思っていました。
そのため、それまでの対策といえば営業担当に「景気を言い訳にせず成果を上げるのが営業だ!」とハッパをかけるくらい。何度も営業担当副社長のクビを変えましたが効果が上がりません。

しかし本当は売上に変動が起きていたのは、景気のせいではなく、GEの企業構造が引き起こしていることがわかりました。
収益予想、投資計画、市場に対する意識などの認識が各部署ばらばらで、各現場が「部分最適」を追求しているため全体では市場と合わない動きになっていたのです。
この企業構造は、後にピーター・センゲやダニエル・キムらによって「成長と投資不足のシステム原型」として紹介され広く知られるようになりました。
その後も80年台のコンピュータ産業など多くの売上の変動に苦しむ企業に潜む構造原因であることがわかるようになります。最近ではパナソニックやシャープ、東芝のような日本の電機産業が、韓国や中国の幸甚を配することになった理由の一つでもあります。

フォレスター・チームのシステム・ダイナミクスはこのGEでの成功を足がかりにいろいろな企業分野での課題解決に効果をあげますが、1968年、元ボストン市長のジョン・コリンズ氏がMITの客員教授に就任したことが契機になり、システムダイナミクスを都市問題の課題解決に活かす研究に着手しました。

そして1970年、フォレスターは全地球的な問題を討議するシンクタンク「ローマクラブ」が行うスイスのベルンで開催された会議に招来されます。ここで全地球の諸問題のフォレスターは、ベルンからの帰りの飛行機の中で、システムダイナミクスを使った地球モデルのプログラム『WORLD1』を書き上げます。
その後バージョンアップされた『WORLD3』はロークラブのレポート「成長の限界」のシミュレーションモデルに採用されました。
そしてこのレポートではこのまま「経済成長をすすめると、資源・環境などの負荷が耐えられなくなる」というショッキングな内容でした。
このレポートが出された翌年の1973年に石油ショックが起き、ローマクラブと成長の限界の名は世界中に知られるようになります。

システム思考を広めたピーター・センゲ

上記のように各分野で、システムダイナミクスが広まったのは、その効果もさる事ながら、複雑な社会のシステムの相互関係を、スットクやフロー、変数、矢印というたった4つの記号で図に表すことができる、誰にもわかりやすいプログラムであったことが挙げられます。
そうした中、1970年代からさらに一般の人にわかりやすい、因果ループ図(Causal-Loop Diagram)が提案されました。

コンピュータを使わない、小学生にも理解できるような直感的でわかりやすい方法は、システム・ダイナミクスの定性的方法(Qualitative Model)として、因果ループ図として知られるようになりました。

このシステム思考をポピュラーにしたのが、ピーター・センゲです。

彼の著書「学習する組織」ではこのシステム思考の「型」というべきシステム原型が紹介されました。
システム原型は、人や組織が陥りやすい「システムの罠」を2.3の円だけの簡単な図で描いており、専門家でなくても組織で陥りやすいシステムの性格を図示化しています。

フォレスターが示した「成長と投資不足」そして「成長の限界」もマーケティングで大いに活用されています。